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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第189話 待ち伏せ ~激突~ 後編

1/3

 


 その時—— 倒れていた教師の指が、かすかに動いた。


 まだ、死んではいない者がいた。

 いや、死んだからこその反応。


『カチリ』


 はめられていた指輪が、乾いた音を立てる。

 それは、持ち主の死亡時に周囲の死体ごとアンデッドに変える呪いの指輪。

 アンデッドがテーマのダンジョンで得られる、比較的手に入りやすいアイテムだった。


 効果時間は、アンデッドとなった者の残存魔力次第。

 死んだ仲間が敵のヘイトを集めているうちに、生存者は体勢を立て直す——そんな、戦術的な『死の利用』を可能にするアイテム。


 そして、今——それが発動した。


 倒れていた教師たちの身体が、ゆっくりと動き出す。

 瞳は虚ろに、だが確実に生徒たちを捉えていた。


「っ・・・アンデッド化・・・!」


 誰かが叫ぶ。

 だが、すでに遅い。

 死者たちは、生者に牙を剥き始めていた。


 生徒たちはすぐに動いた。

 元教師たちの死体を、動けないような形に変えていく。

 関節を砕き、魔力の流れを断ち、再起不能にする。


 それは、冷静で的確な処理だった。

 だが——。


「ちょ、それは・・・!」


 少年の声が、かすれた悲鳴に変わる。

 胸に矢の刺さった少女が、彼の首に細い腕を巻き付けていた。


 その瞳は、もう彼女のものではなかった。

 でも、そのリボンだけが、かつての彼女を思い出させた。

 血に染まったリボンが揺れ、彼女の腕が、ゆっくりと力を込める。


「反則だ・・・!」


 少年の言葉は、搔き消えた。

 骨が軋み、空気が震える。

 そして——音もなく、彼の身体が崩れ落ちた。


「なっ!?」


 驚愕と自失の数秒。

 少年の死に、生徒たちは言葉を失った。


 その一瞬——隙が生まれた。


 アンデッドは、死なない。

 確かに、教師たちは動けないよう形を変えられていた。

 関節を砕き、魔力の流れを断ち、再起不能にしたはずだった。


 だが——その『処置』は、まだ終わっていなかった。


 砕かれたはずの腕が、地を這う。

 断ち切ったはずの魔力が、死体の奥底で微かに脈打つ。


「う、動いてる・・・!」


 誰かが叫ぶ。

 だが、もう遅い。

 処置の途中だった死体が、這い寄るように生徒の足を掴んだ。


 そして、再び地獄が始まった。


 崩れ落ちていた少年の身体が、地を這った。

 胸に矢の生えた少女が、獣のような動きで走り出す。


 教師の腕に足を掴まれた少女の首に、矢の少女が歯を立てる。

 その口元は、もはや人のものではなかった。


 地を這った少年は、大盾の少女の足に歯を突き立てた。


「こ、のぉぉぉっ!」


 大盾の少女のスカートから伸びた足が、高く振り上げられる。

 少年の身体が、蹴り上げられて宙を舞った。


「たぁっ!」


 彼女は盾を構え、力任せに振るう。

 その一撃が、少女たちをも弾き飛ばす。


 アンデッドとなった仲間たちが、壁に叩きつけられ、床に転がる。

 だが、彼らはまだ動いていた。


「す、スロウ!」


 魔法少女が魔法を唱え、杖を振る。

 発動した魔法は弱弱しかった。


 震える手で杖を掲げ、彼女はもう一度叫んだ——『スロウ!』。

 淡い光が広がり、一塊になってもがいていたアンデッドたちの動きが、ゆっくりと鈍っていく。


 魔力の尽きた『胸に矢の生えた少女』が、ピタリと止まった。

 その停止が、他の二体の動きをも阻害する。

 絡み合っていた死体たちが、蠢きつつも『行動』には移れないまま時が流れた。


 そして——


 すべてが沈黙した。


 通路に残るのは、魔法の残光と、重く沈んだ空気。

 誰もが息を潜め、ただその静けさを見つめていた。


「と、止まった・・・?」

「もう、動かない・・・?」


 生徒たちは口々に不安を漏らす。

 誰もが、目の前の静止した死体を見つめていた。


 その視線は、まるで——夏の道端に落ちているセミの亡骸を見るようなものだった。


 動かない。

 でも、もし突然鳴き出したら——そう思うと、誰も近づけなかった。


 沈黙は、安堵ではなく、恐怖を孕んでいた。

 そして、その場に立ち尽くす彼らの耳に、何も聞こえないことが、何よりも不気味だった。


「近づかなければいいだけよ」


 盾の少女が、静かに言った。

 その声には、揺るぎない確信があった。


 確認なんて必要ない。

 生き返らないことは、もうわかっている。


 その言葉に、生徒たちは黙って頷いた。

 誰もが、目の前の死体に視線を向けながらも、一歩も近づこうとはしなかった。

 それは、恐怖ではなく——敬意にも似た距離だった。


 彼らは、もう『敵』ではなかった。

 ただ、かつて共にいた者として、静かに距離を置いた。


 そして、彼らは静かにその場を離れた。

 背を向けることが、今の彼らにできる唯一の選択だった。



 退避と追跡行の脱落者=生徒5 教師9



 盾の少女の足に付いた歯形が・・・黒い。


 それは、ただの傷ではなかった。

 皮膚の下に、じわりと広がる黒い染み。

 魔力の流れが、そこだけ異常に乱れている。


「・・・っ」


 彼女は何も言わず、足を引きずるように歩き出す。

 誰も気づいていない。

 いや、気づいていても——口に出せなかった。


 沈黙の中、彼らは次の通路へと進んでいく。

 だがその背後で、黒い染みが、ゆっくりと脈打っていた。


 その黒い染みは、まるで『何か』が彼女の中に根を張ったように見えた。

 誰かが、彼女の足元に一瞬だけ目を留めた——だが、何も言わなかった。

 言えなかった――。



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