第188話 待ち伏せ ~激突~ 前編
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石壁に囲まれた薄暗い通路を、生徒たちは息を切らしながら駆けていた。
モンスターの気配はない。
だが、背後から迫る教師の足音が、何よりも恐ろしかった。
「このまま走り続ければ・・・!」
なんとかなる!
誰かがそう叫んだ。
希望のような言葉だった。
だがその瞬間、空気が裂けるような音が響いた。
ヒュッ——。
風を切る鋭い音。
そして、女子生徒の一人が突然のけぞるようにして後方へ吹き飛んだ。
彼女の胸には、鋼鉄の矢が深々と突き刺さっていた。
「っ・・・!」
誰もが言葉を失った。
彼女の瞳は驚愕に見開かれ、口元は何かを言いかけたまま動かない。
赤いリボンが血に染まり、静かに揺れていた。
矢は、前方から飛んできた。
「待ち伏せ?!」
誰かが叫んだ。
だが、そんなはずはない。
教師たちは後方にいたはずだ。
なのに、なぜ——。
「そうか・・・誘導されていたんだ」
男子生徒が低くつぶやいた。
最短ルートを避けるように仕向けられ、気づかぬうちに遠回りさせられていた。
その間に、追手の一部が回り込んでいたのだ。
進行方向には、暗がりの中に黒い影が立っていた。
その手には、次の矢がすでに番えられている。
「くっ・・・!」
生徒たちは再び走り出す。
だが、もはや逃げ道は一つしかなかった。
罠の中で、彼らは次の選択を迫られていた——。
道を逸れたことで、矢を射た待ち伏せとの衝突は回避された。
だが、安心する間もなく、最後尾にいた生徒が声を上げた。
「止まって!」
その言葉に、前を走っていた者が振り返る。
「止まってどうする! 追いつかれるぞ!」
声は抑えていたが、怒鳴るような勢いだった。
だが、最後尾の生徒は冷静に言葉を続ける。
「このままだと、すぐにまた待ち伏せがある。なら、逆にこっちが待ち伏せしたらどう?」
一瞬、沈黙が走る。
それは、追手を片付けようという提案だった。
「それは・・・」
誰かがつぶやいた。
逡巡の気配が、通路に広がる。
逃げるべきか、戦うべきか——誰もが迷っていた。
だが。
「やろう」
短く、しかし強く響いたその声に、皆が振り向く。
言ったのは、弓で命を絶たれた女子生徒と親しかった者だった。
彼の瞳には、怒りと悲しみ、そして覚悟が宿っていた。
あの一瞬の死が、彼らに決断を迫った。
逃げるだけでは、守れないものがある。
ならば——今度は、こちらが仕掛ける番だ。
広めの空間に、生徒たちは身を潜めていた。
そして、そこへ追手が入り込んだ——。
「ライト!」
その瞬間、周囲から一斉に光が放たれる。
それは単純な『発光魔法』。攻撃力はない。
だが、詠唱も魔力の溜めも不要。
使用直前まで、何の予備動作もない。
だからこそ、予測不能。
そして、予測していない以上——
視覚を奪う効果は、確実に発揮される。
追手たちは、突然の閃光に目を覆い、混乱する。
その隙に、生徒たちは動き出す。
罠は、今まさに発動したのだ。
「チッ、子供だましをっ!」
目くらましを受けたと認識した教師たちは、即座に散った。
集まったところに魔法でも撃たれれば終わる——探索者の常識だ。
だからこそ、光の中で動きを分散させた。
だが——。
「ば、バカ・・・な・・・」
視界を回復させた教師の一人が、目の前の光景に凍りついた。
倒れた仲間たち。
そして、自分に向かって剣を振り下ろす生徒の姿。
その剣が、迷いなく振り下ろされる。
そして、それで——終わりだった。
「目くらましなどの感覚失陥系の罠・攻撃を受けると、人は防御を固めたくなる。そこを狙われたら終わる・・・あなたの教えでしたよね?」
剣に付いた血を、少年は静かに振り払う。
その瞳には、怒りも悲しみも、もう浮かんでいなかった。
「ちゃんと覚えてましたよ?」
沈んだ声が、石壁に響く。
それは、かつての師への答え。
そして、今の自分の覚悟の証だった。
「私たちは、ヘイトで動くモンスターじゃないしね」
大盾を持った女生徒が付け加えた。
モンスター相手なら、分散は正しい判断だ。
少なくとも『全滅』はしない。
だけど・・・生徒たちは『ものを考える人間』だった。
教師たちが光に反応して散った瞬間——それこそが、生徒たちの狙い。
彼らは、教師たちが分散することを見越して、あらかじめ自分たちの位置を調整していた。 通路の陰、柱の裏、段差の影——それぞれが、剣を抜いて静かに待っていた。
そして、光が収まったその瞬間。
彼らは、自ら生徒たちの前に飛び出した後だったのだ。
待ち構えていた剣が、迷いなく振るわれる。
それは、逃げる者ではなく、狩る者の動きだった。
現役で日々探索に明け暮れている生徒たち。
そして、一線を退き、教鞭をふるうことが日常となっていた教師たち。
命のやり取りが当たり前となったこの状況で——その差が、じわじわと表に出始めていた。
教師たちは理論に頼り、動きが単調になっていた。
だが、生徒たちは柔軟に対応できている。
仲間の死が、彼らの迷いを塗りつぶしていた。
恐怖も、疑念も、悲しみも——すべてが、今この瞬間の行動に変わっていた。
彼らは、もう『教えられる側』ではなかった。
戦場に立つ者として、覚悟を持って剣を振るっていた。
退避と追跡行の脱落者=生徒3 教師9
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