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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第188話 待ち伏せ ~激突~ 前編

3/3

 


 石壁に囲まれた薄暗い通路を、生徒たちは息を切らしながら駆けていた。

 モンスターの気配はない。

 だが、背後から迫る教師の足音が、何よりも恐ろしかった。


「このまま走り続ければ・・・!」

 なんとかなる!

 誰かがそう叫んだ。

 希望のような言葉だった。

 だがその瞬間、空気が裂けるような音が響いた。


 ヒュッ——。


 風を切る鋭い音。

 そして、女子生徒の一人が突然のけぞるようにして後方へ吹き飛んだ。

 彼女の胸には、鋼鉄の矢が深々と突き刺さっていた。


「っ・・・!」

 誰もが言葉を失った。

 彼女の瞳は驚愕に見開かれ、口元は何かを言いかけたまま動かない。

 赤いリボンが血に染まり、静かに揺れていた。


 矢は、前方から飛んできた。


「待ち伏せ?!」

 誰かが叫んだ。


 だが、そんなはずはない。

 教師たちは後方にいたはずだ。

 なのに、なぜ——。


「そうか・・・誘導されていたんだ」

 男子生徒が低くつぶやいた。


 最短ルートを避けるように仕向けられ、気づかぬうちに遠回りさせられていた。

 その間に、追手の一部が回り込んでいたのだ。


 進行方向には、暗がりの中に黒い影が立っていた。

 その手には、次の矢がすでに番えられている。


「くっ・・・!」

 生徒たちは再び走り出す。

 だが、もはや逃げ道は一つしかなかった。

 罠の中で、彼らは次の選択を迫られていた——。



 道を逸れたことで、矢を射た待ち伏せとの衝突は回避された。

 だが、安心する間もなく、最後尾にいた生徒が声を上げた。


「止まって!」


 その言葉に、前を走っていた者が振り返る。


「止まってどうする! 追いつかれるぞ!」


 声は抑えていたが、怒鳴るような勢いだった。

 だが、最後尾の生徒は冷静に言葉を続ける。


「このままだと、すぐにまた待ち伏せがある。なら、逆にこっちが待ち伏せしたらどう?」


 一瞬、沈黙が走る。

 それは、追手を片付けようという提案だった。


「それは・・・」

 誰かがつぶやいた。

 逡巡の気配が、通路に広がる。

 逃げるべきか、戦うべきか——誰もが迷っていた。


 だが。


「やろう」


 短く、しかし強く響いたその声に、皆が振り向く。

 言ったのは、弓で命を絶たれた女子生徒と親しかった者だった。

 彼の瞳には、怒りと悲しみ、そして覚悟が宿っていた。


 あの一瞬の死が、彼らに決断を迫った。

 逃げるだけでは、守れないものがある。

 ならば——今度は、こちらが仕掛ける番だ。


 広めの空間に、生徒たちは身を潜めていた。

 そして、そこへ追手が入り込んだ——。


「ライト!」


 その瞬間、周囲から一斉に光が放たれる。

 それは単純な『発光魔法』。攻撃力はない。


 だが、詠唱も魔力の溜めも不要。

 使用直前まで、何の予備動作もない。


 だからこそ、予測不能。

 そして、予測していない以上——


 視覚を奪う効果は、確実に発揮される。


 追手たちは、突然の閃光に目を覆い、混乱する。

 その隙に、生徒たちは動き出す。

 罠は、今まさに発動したのだ。


「チッ、子供だましをっ!」


 目くらましを受けたと認識した教師たちは、即座に散った。

 集まったところに魔法でも撃たれれば終わる——探索者の常識だ。

 だからこそ、光の中で動きを分散させた。


 だが——。


「ば、バカ・・・な・・・」


 視界を回復させた教師の一人が、目の前の光景に凍りついた。

 倒れた仲間たち。

 そして、自分に向かって剣を振り下ろす生徒の姿。


 その剣が、迷いなく振り下ろされる。

 そして、それで——終わりだった。


「目くらましなどの感覚失陥系の罠・攻撃を受けると、人は防御を固めたくなる。そこを狙われたら終わる・・・あなたの教えでしたよね?」


 剣に付いた血を、少年は静かに振り払う。

 その瞳には、怒りも悲しみも、もう浮かんでいなかった。


「ちゃんと覚えてましたよ?」


 沈んだ声が、石壁に響く。

 それは、かつての師への答え。

 そして、今の自分の覚悟の証だった。


「私たちは、ヘイトで動くモンスターじゃないしね」

 大盾を持った女生徒が付け加えた。


 モンスター相手なら、分散は正しい判断だ。

 少なくとも『全滅』はしない。

 だけど・・・生徒たちは『ものを考える人間』だった。


 教師たちが光に反応して散った瞬間——それこそが、生徒たちの狙い。


 彼らは、教師たちが分散することを見越して、あらかじめ自分たちの位置を調整していた。 通路の陰、柱の裏、段差の影——それぞれが、剣を抜いて静かに待っていた。


 そして、光が収まったその瞬間。

 彼らは、自ら生徒たちの前に飛び出した後だったのだ。


 待ち構えていた剣が、迷いなく振るわれる。

 それは、逃げる者ではなく、狩る者の動きだった。


 現役で日々探索に明け暮れている生徒たち。

 そして、一線を退き、教鞭をふるうことが日常となっていた教師たち。


 命のやり取りが当たり前となったこの状況で——その差が、じわじわと表に出始めていた。


 教師たちは理論に頼り、動きが単調になっていた。

 だが、生徒たちは柔軟に対応できている。


 仲間の死が、彼らの迷いを塗りつぶしていた。

 恐怖も、疑念も、悲しみも——すべてが、今この瞬間の行動に変わっていた。


 彼らは、もう『教えられる側』ではなかった。

 戦場に立つ者として、覚悟を持って剣を振るっていた。




 退避と追跡行の脱落者=生徒3 教師9



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