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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第187話 夢語り ~青のりとソースの匂い~ 

2/3

 


「……うまいな」

 カルマが微笑んだ。

 その表情は、演出家ではなく、ただの『客』だった。


 63階層。

 何もない空間。

 迷宮の静寂が広がるその場所に、突如として現れたのは——


『たこ焼き屋の模擬店』。


 一葉が袋小路を去ったあと、

 カルマは静かにウィンドウを開いた。


「夢を語らせた。なら、実現させないとな」

 彼が語った『たこ焼き屋』は、奇抜でも幻想でもない。

 むしろ、『学園祭』という迷宮のテーマにぴったりだった。


 おそらく、幼い子供にありがちな夢。

『大好きなたこ焼きをいつでもたくさん食べられる』。

 そんなものだったろう。


 未来にあるのが『探索者』として、命を懸ける人生だけとは知らなかった頃のこと。

 でも、だからこそ、もっとも純粋な『夢』。

 これを叶えてやれずして、なにが『ダンジョンマスター』か。


 カルマは『野営用大型マジックアイテム』をベースにして、いくつかの『料理系アイテム』を組み合わせていく。


 鉄板。

 ソース。

 たこ。

 青のり。

 紅しょうが。


「これくらいできなきゃ、『ダンジョンマスター』は名乗れない」

 魔力が流れ込み、迷宮の一角が変化する。


 赤いのれんが揺れ、香ばしい匂いが漂い始めた。


 ——模擬店『たこ焼き屋』、開店。


 それは、ただの演出ではなかった。

 一葉が『痛みの中で見せた笑顔』を、カルマが確かに拾い上げた証だった。


 赤いのれんが、迷宮の風にふわりと揺れた。

 鉄板の上では、たこ焼きがくるくると回り、香ばしいソースの匂いが、静寂の空気をやわらかく押し広げる。


 店主は学ラン姿。

 ねじり鉢巻きを締め、真剣な表情で鉄板に向き合っている。


 青い肌に小さな角。

 背中の袋は、たこ焼きの煙を吸ってふくらんでいた。

 それでも、その笑顔は——

 人間以上に、人間らしかった。


 手つきは滑らかで、まるで魔法が宿っているようだった。

 実際、『模擬店』そのものが魔法のアイテムだ。


『校長室』に設置された宝箱は、迷宮のテーマに沿ったアイテムを具現化する特殊装置。

 膨大なマナポイントと、演出家のセンスが必要だが——

 その価値は、今ここにある。


「はふっ、はふっ!」


 一仕事終えた一葉——

『妖怪:どうもこうも(薬師堂ここも)』が、熱そうに、幸せそうに、たこ焼きを頬張っている。


 その姿を見ているだけで、

 この模擬店が『正しい形』で存在していることが分かった。


『どうもこうも』という妖怪は、伝承にも残っている。

 名医同士が腕比べをし、互いの頭を切り合い、

 結局『どうもこうもならなかった』という戒めの物語。

 それを聞いた一葉は笑っていた。


「それ、私のことじゃない」


 そう言って笑った。

 でも、その笑いは——

 ほんの少しだけ、泣きそうだった。


『薬師堂ここも』という名は、薬師如来から借りた。

 お堂で薬を用意し、本人が気づかないような傷すらも「ここも」と治す。

 そんな意味を込めて名付けた。


「へい、お待ち!」

 店主が声を上げる。

 カルマが受け取ったたこ焼きは、湯気を立てていた。


「……夢って、こういうことなのか」

 63階層。

 かつて死闘があった場所。

 その同じ場所で今、『生きるための夢』が焼かれている。


 たこ焼きの丸さ。

 焦げ目の香ばしさ。

 店主の笑顔。


 それは、罪の先にある『けじめ』の形だった。

 カルマはもう一つたこ焼きを口に運び、

 満足げに頷いた。


『うん。うまい』

 その頷きは、味を評価したものではなく——

 一葉が、まだ人間でいられる証を確かめた

 そんな頷きだった。


 退避と追跡行の脱落者=生徒2 教師6



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