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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第183話 ちっぽけな『勇者』 ~人間として死ぬ勇気~ 後編

1/3

 


 俺は、見ていた。

 魔法を撃とうとしているのは、誰だ?

 その詠唱を止めようとしないのは、誰だ?

 傍観しているのは、誰だ?


 教師か?

 探索者か?

 それとも——ただの加害者か?


 俺は、どれだ?


 教師であるはずがない。

 生徒を守る資格なんて、とうに捨てた。


 探索者とも言えない。

 あの頃のように、冷静に状況を切り抜ける力もない。


 加害者になんて、なりたくない。

 けれど、見ているだけなら、それと何が違う?


 俺は——何にもなれない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 叫び声が、喉から飛び出した。

 意味なんてなかった。

 ただ、何かを振り払いたかった。


 魔法を止めるなら、同僚を斬ればいい。

 生徒を殺すなら、このまま少し待てばいい。


 どちらも選べなかった。

 ちっぽけな俺には、どちらもできなかった。


 だから、俺は——走った。


 何も考えずに。

 ただ、足が勝手に動いた。


 叫びながら、魔法の光に向かって。

 誰かを守るためでも、誰かを止めるためでもない。

 ただ、『何者でもない自分』を、ここで終わらせたくなかった。


 光と熱が、俺の全身を包み込んだ。

 焼けるような痛み。

 皮膚が軋み、骨が震える。

 それでも、俺は立っていた。


 結局、俺は何にもなれなかった。

 教師にも、探索者にも、勇者にも。

 ただの人間。

 それだけだった。


 そう思うと、寂しかった。

 でも、同時に——誇らしかった。


 少なくとも、人としての道を踏み外さなかった。

 そう言える気がした。


 このまま終われば、楽になれる。

 わかりきった逃避。

 でも、俺は叫んだ。


「逃げろーっ!」


 声が、迷宮に響いた。

 全身の力を集めて、踏みとどまる。


 守る勇気はなかった。

 戦う勇気もなかった。

 見て見ぬふりをする程度の意気地すらなかった。


 だけど——せめて、『終わらない勇気』だけは持ち続けよう。


 魔法への抵抗力を上げる。

 それは、苦痛を長引かせるだけの行為。

 終わりが、数秒遅れるだけ。

 それだけ。


 でも、その数秒を——年少者たちに残す。


 それが、『大人』としての、最後の意地。


 ◇


 パチパチパチ。

 カルマの手が拍手している。


 迷宮が、ほんの一瞬だけ静かになった。

 まるで、舞台が観客の呼吸を待っているように


「とてもじゃないけど『脚本』には書けない終わり方だ。だけと・・・なのに、か? 熱かったね。リアルな人間って感じがしたよ」

『演出』を超えた人間の激情を見た。


「演目じゃないな。・・・これは、『生き様』だった。」


「走ることで何かを残す鬼・・・か」

 それはまるで・・・。


「守ることも攻めることもできない・・・なら、走り続けないか?」

 カルマの独白は、魔力となって『システム』に吸い込まれていった。


 ◇


 その魂は、まだ迷宮を走っている。

 誰かの背中を守るため?

 唐突な襲撃者を倒すため?


 わからない。

 そんなことは、その時に感じればいい。


 ともかく、『彼』は走り続けている。

『何か』から逃れるために。

 そして、『何か』に追いつくために。


『韋駄天』。


 武器を持たず、装備もつけず。

 走り続ける。


 その背には、何の紋章もない。

 風だけが、彼の名を知っていた

 人生の最後を『走る』ことにかけた男の、それが姿だった。


 ◇


「かっこ、つけやがって」

 逃げる途中、誰かが振り返った。

 その瞳に、走り続ける背中が焼きついていた。



 退避と追跡行の脱落者=生徒2 教師5



「そっか・・・だから、走ってたのか」


 ウィンドゥを覗き込んで、ひよりが呟く。

 ずいぶん前、あの教師の背中を見たことがあった。


 雨の日だった。

 傘を差した、その先に見た光景。


 とても、走るようには見えなかった教師が、脇目も降らずに走り続ける。

 そんな『未来の可能性』を。


 意味が分からなかったけれど。

 これだから、走っていたのだ。

 走るしかなかったのだ。


「わかっていても、なにもできないんだね」


 走り続ける姿は見ていた。

 もう、ずいぶん前に。


 こうなる『可能性の欠片』を見ていたのだ。

 なのにーー


「だとしたら…あれも?」


 自分が雨の日に見た、『意味の分からなかった断片』。

 他にもたくさんある。

 それらにも意味があったのかもしれない。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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