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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第178話 歌劇への招待 ~それは演目~ 後編

2/3

 


 ◇舞台演目①『師弟の終焉』◇


 少年の握る剣は、赤い軌跡を残していた。

 それは、血の色ではなく、決意の色。


 彼にとって、絶対に生かしておけない『暗殺者』と、

 その横で毒に蝕まれ動けずにいた者。

 彼女もいる『あちら側』へ送るための剣だった。


 戦いは、秒でケリがついた。

 動いたのは、教師のほう。


 迷いが、そうさせた。

 これ以上は動けなくなる。

 その実感が、早めの決着を望ませた。


 心を閉ざし、そこにある『存在』を、かつて戦ったモンスターだと思い込む。

 そして、一撃で仕留めるとの決意のもとに、踏み込んだ。


 狙い違わず、教師の剣は少年の胸を貫いた。

 それは、少年から見ても同じことだった。


 少年にはもう、守るものがなかった。

 自身の命ですら、守る価値を見失っていた。


 だから、少年は『避ける』という選択肢を忘れていた。

 覚えていたのは、剣を『突く』という動作だけ。


 教師の剣が、少年の意思を切り落とした時——少年の意思の『残り香』が、体を動かした。


 それは、命の核には届かずとも、命には届く傷を、教師に負わせた。


 鉄の匂いが、空気を染める。


 教師は一歩、後退した。

 胸元から溢れる赤が、制服の白をじわじわと侵食していく。

 少年の剣は、確かに彼の肉を裂いていた。


 だが、それは『意思』ではなく、訓練の記憶が残した『残滓』だった。


 意識が消えても、体はその願いをなぞるように動いていた。

 それは、誰かを守りたいと願った日々の、最後の灯火。


「……やるじゃないか」


 教師は、そう呟いた。

 その声には、怒りも、驚きもなかった。

 ただ、どこか懐かしさのようなものが滲んでいた。


 少年は、何も言わなかった。

 目は開いていたが、そこに『見る』という行為はなかった。

 彼の瞳は、ただ空を映していた。


 誰もいない空。

 誰にも見られない空。


 教師は、剣を手放した。

 その音が、迷宮の床に響いた瞬間、少年の体もまた、力を失って崩れ落ちた。


 沈黙が、二人の間に降り積もる。

 それは雪のようであり、灰のようでもあった。

 静かに降り積もる『終わり』の象徴。


「……やるじゃないか」


 教師の声は、まるで遠い記憶をなぞるようだった。


 その一言が、少年の耳に届いたかどうかはわからない。

 けれど、教師の瞳は、確かに『過去』を見ていた。


 かつて、同じように剣を握り、同じように対峙したことがあった。

 その姿が、今目の前で血に濡れている少年と重なったのだ。


 剣を得手とする者同士の訓練風景。


「……あの頃のお前なら、避けていたな」


 無様に転げまわって避けていた姿を思い出す。

 戦う覚悟が欠落した、未熟な姿。


「いや……『人を守る』って、そういうことだったか」


 教師は、自嘲気味に笑った。

『命を懸ける』、そんな当たり前のことを、遠い過去に置き去りにしてきた者の笑み。


 それは、敗北の笑みではなかった。

 記憶の中に沈んでいく者の、静かな笑みだった。


 少年は、微かに唇を動かした。

 声にはならなかったが、その動きは、確かに『何か』を伝えようとしていた。


 教師は、その意味を読み取ろうとした。

 だが、迷宮の風が吹き抜け、言葉をさらっていった。


 そして、壁に刻まれた文字が、静かに浮かび上がる。


『演目:師弟の終幕』


 迷宮は、すべてを見ていた。 そして、次の幕を準備していた。


 ◇


「今どきは、あまり注目を浴びない演目だけどね」


 カルマは、肩をすくめていた。

 その声は軽い。

 だが、その目は真剣だった。


「『負うた子に教えられ』か? 生徒に教えられてたら世話ないよ」


 命がけの戦闘と、訓練の区別がつき切れていなかった教師への、皮肉と哀悼の入り混じったダメ出し。


「いや……最後まで『教師』だったってことか?」


 戦士として対峙していたのではなく、『先生』として向き合っていたからこそ、あの一撃を選んだのかもしれない。


「……」


 カルマは、首を振った。

 正解は、当人たちにもわかりはしないだろう。


「……次は、少しドロドロしそうかな? 愛憎が絡み合う。大人でダークな『演出』になりそうだ」


 チャンネルを変える気軽さで、カルマは『メガネウロ』の視点を切り替えた。


 濃い色になりそうな舞台。

 軽い口調ながら、

 カルマの目は、鋭く、真剣だった。


 映し出されたのは、赤と黒が交錯する部屋。


 赤は、血の色。

 黒は、心の闇。


 退避と追跡行の脱落者=生徒2 教師3



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