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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第175話 狂騒曲 ~錯綜する反響~ 中編

2/3

 


「うそ……」

「なによ、これ……」


 63階層まで撤退した生存者たちを待っていたのは、踏みにじられた幕舎だった。


 遺体は見つからなかった。

 けれど、命が失われた痕跡は、随所に残っていた。


 焦げ跡。

 裂けた布。

 血の匂い。

 そして、沈黙。


 何人いなくなったのか?

 むしろ、生き残りはいるのかと疑問を覚えるほどの惨状。


「下にはいなかった。上に逃げたと信じるしかないわ」


 マリカの言葉に、全員が頷いた。

 それは、希望ではなく、祈りだった。


 先駆けや後詰を探しながら登ってきた。

 なのに、63階層からの避難者を見ていない。

 いるはずの者たちすら、見つけることはできなかった。


 だから、上の階層へ期待するしかなかった。

 そして、その期待も、すぐに失われた。


 奇妙な球で固められていた双子が証言した。


「自分たち以外に、62階層へ上ってきた者はいない」


 その言葉が、最後の希望を断ち切った。


『レイド失敗』。

 その意味が、一人一人にのしかかる。


 来たときは、266人いた。

 今は、30人にも満たない。


 損耗率九割。


 それは、目が眩むような実情だった。

 数字ではなく、魂の喪失率。


 誰かが、泣いた。

 誰かが、吐いた。

 誰かが、黙った。


 それでも、歩みは止まらなかった。


 そして、ついに——彼女たちは、50階層へと到着する。


 そこには、教師陣がいた。

 酒の香り。

 笑い声。

 浮かれた空気。


 生存者たちは、その空気に、言葉を失った。


 だが、マリカは歩みを止めなかった。

 彼女の目は、教師たちを見据えていた。


「……報告があります」


 その声は、震えていなかった。

 怒りでも、悲しみでもない。

 ただ、事実を告げる者の声だった。


 教師たちが振り返る。

 その目に、まだ『現実』は映っていない。


 だが、それはすぐに変わる。



「生存者はこれで全員です」


 マリカの声は静かだった。

 けれど、その静けさが逆に重く響いた。

 まるで、判決文の読み上げのように。


「……は?」


 最初に声を漏らしたのは、酔いの残る中年教師だった。

 グラスを持った手が、わずかに震える。


「そんなはずはない。報告では、成功だったはずだ」


 別の教師が、慌てて端末を確認する。

 だが、画面は沈黙していた。

 まるで、真実を語ることを拒むかのように。


「生徒たちが勝手に動いたんじゃないのか?」

「そうだ。指示を無視して、無謀な行動を取ったんだ」

「計画通りなら、こんな損耗率になるはずがない!」


 教師たちは、口々に言い訳を並べ始めた。

 その言葉は、まるで自分たちの責任を霧に包もうとするかのようだった。


 だが、その霧は、マリカの一歩で裂けた。


 彼女は前に出た。

 その瞳は、冷たく澄んでいた。

 怒りではない。

 覚悟だった。


「計画通り? なら、誰がその計画を立てたのか、はっきりさせましょう」


「……何が言いたい?」


「地上で、法に訴えます。記録も証言も、すべて提出します」


 その瞬間、空気が凍った。

 教師たちの顔から、血の気が引いた。


 それは、彼らにとって破滅の宣告だった。


 考えてみるがいい。

 生徒を一人犠牲にすることが前提の『計画』。

 それを、世間が受け入れるか?

 受容されるわけがない。


 だから、それは校内だけの『秘密』だった。

 封じ込められた真実。

 見なかったことにされた犠牲。


 それを、公表すると言われて——教師たちは、慌てた。


「ま、待て。そんなことをしても、誰も得をしない」

「君たちも、学校に残りたいだろう? 進路に響くぞ」

「感情的になるな。冷静に話し合おう」


 その声は、次第に焦りを帯びていく。

 脅しと懐柔の混ざった、醜い声。


 だが、マリカは動じなかった。


「冷静に話し合うなら、地上で。記録のある場所で」


「……っ」


 誰も、言い返せなかった。

 その場にいた教師たちは、初めて『自分たちが見ていなかったもの』の重さを知った。


 それは、失われた命の重さ。

 沈黙の中で壊れていった心の重さ。

 そして、見て見ぬふりをした自分たちの罪の重さ。


 宴の余韻は、もうどこにもなかった。

 ただ、冷たい現実だけが、そこにあった。



読了・評価。ありがとうございます。


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