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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第174話 狂騒曲 ~錯綜する反響~ 前編

1/3

 


 その女は、身に不釣り合いな大盾を背負って歩いていた。

 どこへ行こうとの意思もなく、ただ、ひたすらに歩いていた。


 足音は、重い。

 盾の重さではない。

 胸に沈んだ問いの重さだった。


「あの人は、なぜ死んだの?」


 誰に向けた問いでもない。

 誰かに答えてほしいわけでもない。

 ただ、胸の奥で、何度も何度も繰り返される。


 死ぬことに、どんな意味があったのか。

 それとも、そんなものはなかったのか。


 彼女は、守るために盾を持った。

 その盾は、仲間のために掲げられた。

 けれど、仲間はもういない。


 盾は、守るものを失った。


 それでも、彼女は背負っている。

 まるで、罪の証のように。

 まるで、罰の形のように。


 彼女の瞳は、焦点を持たない。

 見るべきものが、もうないからだ。

 ただ、問いだけが胸に残っている。


「あの人は、なぜ死んだの?」


 その問いは、彼女自身の命を、少しずつ削っていく。


 歩く。歩く。歩く。


 幽鬼のように。


 生きているのか、死んでいるのか。

 その境界は、もう曖昧だった。


 盾の重さが、彼女の背を沈める。

 それでも、彼女は倒れない。

 倒れることすら、許されていないように。


 そこへ、声がかかった。


 その声は、彼女の問いに答えるものではなかった。


 けれど、彼女の歩みを、ほんの少しだけ止めた。


「こんなところで何をしているの? 撤退するわよ!」


 その声は、鋭く、強く、現実を引き裂いた。

 盾女は、反射的に顔を上げた。


「……サブリーダー?」


 ひび割れた声が、喉の奥から漏れた。

 そこにいるはずのない人物。

 数人の生徒を従えた女が、まるで幻のように、目の前に立っていた。


 誰なのか、確認するだけの興味はなかった。

 ただ、機械的に会話をする。

 それが、彼女に残された唯一の『人間らしさ』だった。


「マリカでいいわ。『レイド』は失敗。リーダーとかサブとか、もう意味がない」


「し、しっぱい……?」


 その言葉に、何かが揺れた。

 感情が、動いた。


 自分が、まだ『人間』だったことを、思い出した。


 淡々と告げられた言葉が、すぐには理解できなかった。


 盾女は、思わず大盾を落としそうになり、慌ててしがみついた。


「ええ。失敗。リーダー以下、本隊は壊滅した。ともかく、生存者を集めて63階層まで撤退よ。そのあとは……地上に出て、学校側の責任を追及する!」


「地上に……え。追及する……?」


 その言葉に、盾女の目に、光が戻ってきた。


 漠然としていた問いが、形を持ち始める。


『なぜ、あの人は死んだのか』。

 その問いに、ようやく『問うべき相手』が与えられた。


 霧が晴れる。

 足元が見える。

 歩くべき道が、そこにある。


「……早く帰りましょう」


 大盾を、背負いなおす。

 その動きは、守るためではなく、進むためのものだった。


 盾女は、先を促した。

 もう、幽鬼ではなかった。


 ◇


『マリカ』は、生存者を回収しつつ、上を目指す。

 まずは、63階層。

 そして、50階層で教師たちに直接『レイド失敗』を報告する。


 それが、与えられた役割だった。


 けれど、彼女はもう『命令』で動いてはいなかった。

 これは、彼女自身が選んだ『責任』だった。


 同じように、役を与えられた仲間たちとともに、彼女は静かに、確かに、動き出す。


 ◇


 63階層。

 そこには、失望に気力を削がれて座り込む『先駆けB班』の姿があった。


 誰もが、目を伏せていた。

 誰もが、声を失っていた。

 敗北の実感が、心を鈍く締めつけていた。


 マリカは、何も言わなかった。

 ただ、一人ひとりの肩に手を置き、「立って」とだけ告げた。


 その声に、反発はなかった。

 ただ、命令ではない『導き』に、誰もが静かに従った。


 ◇


『糸の部屋』。

 そこには、予想外に長時間の放置を耐えた者たちがいた。


 糸に絡まり、動けず、時間の感覚すら曖昧になっていた彼女たち。

 けれど、マリカの姿を見た瞬間、涙が溢れた。


「……来てくれたんだ」


 その言葉に、マリカは頷いた。


「当然でしょ」


 その一言が、彼女たちの心をほどいた。


 ◇


 そして、62階層。

 フンコロガシさんのお宝にしまわれていた双子。


 泥と魔力にまみれ、『物』として扱われていた彼女たち。


 マリカは、そっと手を差し伸べた。


「もう、大丈夫」


 その声に、双子は震えながらも、手を伸ばした。


 人として、迎えられたことに、ようやく涙を流すことができた。


 精神的に、大きく削られた者たち。

 心を失いかけた者たち。

 自分を責め続けていた者たち。


 マリカは、彼らを集め、癒しながら、上を目指す。


 それは、再生の行進だった。

 誰もが、まだ傷だらけだった。

 けれど、歩くことを選んだ。


 “生き残った”という事実が、彼らを再び『生きる者』へと引き戻していく。


 そして、マリカは思う。

「これは、私の役目。誰かがやらなきゃいけないなら、私がやる」


 それは、かつての『サブリーダー』としての責任ではない。

 今の彼女自身が選んだ、贖罪と再起の道だった。

 結果がどう出るにしても。

 カルマがどんな演出を考えているにしても。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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