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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第171話 宴(教師陣視点) ~酔わせる苦さ~ 前編

1/3

 


 この時、本校の教師陣は『ダンジョン』の25と50階層にいた。

 自校の生徒たちが『レイド』中に、他校の者に入られては困るから監視するという名目で、実質は俗世間を離れて羽目を外そうということだ。


 全校生徒がダンジョンにいる。

 校内にいてもやることがないというのも理由に挙げられるだろう。


 彼ら、彼女らのほとんどは『元探索者』。

 残りは座学を教える科目教師となる。

 子供時代にダンジョンがなかった世代の者たちだ。

 旧時代の遺物、などと謗られつつも役立てられている。


『ダンジョン探索』を旨として育てられる子供たちといえども、一般的な学問も教えないわけにはいかないからだ。

 一割が卒業前に死に、五割が卒業後に死ぬとしても。


 もう一つ、彼らが『ダンジョン』内にいる理由はある。

 通信の中継だ。


『ダンジョン』内でも、スマホは使える。

 ただし、通信圏は最大でも30階層まで。

 それ以上は断絶する。


 このため、中継器の持ち込みが必須となるのだ。

 つまり、安定して利用しようと考えれば、25階層ごとに中継器を設置。

 維持・管理しなければならない。


 25階層ごとに中継器と、それを維持する人員が必要となる。

 これは、『ダンジョン利用にかかわる安全基準』という国際ルールに則ったものなので例外はありえなかった。


 同時に、通信の監視も行っている。

 不用意に刺激の強すぎるライブ映像の配信などされては困るのだ。

 学校側の検閲を受けないと、外部へは接続できなくする意図もある。


 通常は、それも含めて生徒に行わせるものなのだが、今回は全生徒を上げて最深層攻略に出ている。

 生徒から人員を割くわけにはいかなかったため、教員が請け負っているのだった。


 ちなみにだが、教職員は『探索者』を引退したということになるので、『ダンジョン内』での狩りは許可されていない。

『レイド』への参加などもってのほかだ。

 参加できるとしても、するつもりはないだろう。


 彼ら、彼女らの能力は押し並べて低いのだ。

『ダンジョン』主体の世の中にあって、教師という職業を選択するしかなかったくらいに。



 この『ダンジョン』は64が最深とされていたので、25と50の2か所に14人ずつ28人が逗留している。

 その逗留地で、本来は禁止されているアルコール飲料の栓が抜かれていた。


『レイド』の失敗が確定した頃、25と50階層では『宴』が宴もたけなわだった。

 前日に『ダンジョンマスター』討伐成功の連絡が入っていたのだ。


「世界初に乾杯だ!」

 浮かれた調子で誰かが叫べば、すぐに全員が唱和して杯が傾けられる。

 教師たちはすっかり出来上がっていた。


『レイド』の成功。

『ダンジョンマスター』討伐という快挙。

 彼らにも恩恵がもたらされるはずだった。


 指導者として。作戦の立案者として。

 高く評価されることになるからだ。


 片田舎の教師という立場から、世界に名を知らしめる立場になれる。

 だからこそ、多少無理目の『レイド』を企画し実行させようという校長の話に乗ったのだ。


 そして、それは成功しつつある。

 今朝の定期報告によれば、『あとは、ダンジョンマスターのドロップアイテムを回収するだけ』とのことだった。

 それなら、今日中にケリがつく。

 じきに、回収成功の一報が届くはずだった。


「少し遅くないですか?」

 赤いアルコールを、ちびちびと舐めるように飲んでいた女性教師がポツリと呟いた。


 回収するだけなら、もう一報が届いていいはずだ。

 そもそも、朝の定期連絡以降、通信が全く入っていない。


「奴らも『これで英雄だ!』ってんではしゃいでいるのだろうよ」

「もしくは、人間爆弾にビビったかだな」

 どちらだろうと構いやしない。

 どっちもくだらない。

 そう突き放している。



 そう突き放す声に、誰も反論しなかった。


 だが、沈黙が長引くほどに、その『くだらない』が、現実味を帯びていく。


 教師たちの多くもまた、多感な十代を、死と隣り合わせで生きた者たちだった。


 同期の六割を、失った。

 名前も、顔も、声も、記憶の中でしか生きていない。


 人の生き死にに、感情を向ける余裕などなかった。

 そうでなければ、正気ではいられなかった。


 だから、彼らは変わった。

 感情を切り離し、死を数値で測るようになった。


 そして今、 同じ生き方を、子どもたちにまで求めている。


 それが正しいのか?

 そんな問いは、持たない。

 持てない。

 持とうとしない。


「そうだとしても……」


 女性教師の呟きは、喧騒に紛れて、泡のように消えていった。


『ダンジョン内での宴』——それは、教師たちにとって『苦さ』の象徴。


 かつて探索者だった頃。

 仲間を失い、命を削りながら進んだ日々。

 討伐の成功や生還の報告が届くたびに、誰かが「祝おう」と言った。


 だが——


 誰も乾杯しなかった。

 誰も笑わなかった。

 誰も、口を開かなかった。


 酒はあった。

 火もあった。

 だが、言葉はなかった。


 沈黙だけが、杯の中で揺れていた。


 その記憶は、今となっては口にするのも、思い出すのも嫌なものだった。


 だから、教師たちは語らない。

 語れない。

 ただ、忘れたふりをする。


 それでも、記憶と感情は、泡のように酔いの隙間から浮かび上がる。


 誰かの笑い声に重なるように、誰かの泣き声が、耳の奥で響く。


 だからこそ、今の宴は——『無責任』でなければならなかった。


 酔いしれることでしか、あの記憶から逃れられない。


 笑うことでしか、あの沈黙を塗りつぶせない。


「世界初に乾杯だ!」


 誰かが叫び、誰かが杯を傾ける。


 その声は、かつての沈黙を押し流すように響いた。


 ——そして、誰も気づかない。


 その沈黙が、今また『戻ってきている』ことに。



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