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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第165話 最後の10人 ~分断~

1/3

 


 ◇崩壊は止まらない◇


 半分になったレイドメンバーは、さらに半分に分かれた。

 リーダーと一葉。

 そして、他の三人。


 その間に立つのは、ひときわ巨大な氷柱。

 まるで、決して越えられない『断絶』の象徴。


 リーダーは、まだ立て直せずにいた。

 剣を握る手は震え、視線は宙を彷徨っている。

 一葉は、その背に隠れるようにして、怯えていた。


 対する三人は、剣を構え、目を細め、リーダーを睨んでいた。

 その視線には、かつての信頼の残滓すらなかった。


 だが——彼らは、気づいていなかった。

 背後から忍び寄る、もう一つの『熱』。


 氷柱の周囲で、空気が揺れていた。

 冷気が、下へ下へと沈んでいく。

 だが、時折、逆流するように熱が立ち上る。


 まるで、そこに炎の心臓を持つ何者かが潜んでいるかのように。


「ほつれた糸は、燃やされる」


 その声は、熱を持たない。

 けれど、意味だけが焼きつくように鋭かった。


「「「っ?」」」


 三人が、反射的に振り返る。

 その瞬間——


 左右の者の肩に、白く細い手が添えられた。

 中央の者は、妖艶な女の微笑みと目が合った。


 そして——


 火柱が、三本。


 ゴウッ!!


 轟音とともに、炎が天を突いた。

 氷の世界に、突如として咲いた紅蓮の花。


 焼け焦げる匂いが、冷気を押しのける。

 パチ……パチ…… 炎が氷を舐める音が、静かに響く。


 氷柱が、赤く染まる。

 蒼と紅のコントラストが、まるで絵画のように美しい。


 三人の影が、一瞬で黒く焼き潰される。

 悲鳴はなかった。

 あるいは、炎に呑まれて届かなかっただけかもしれない。


 サラは、ただ微笑んでいた。

 その表情には、怒りも、哀れみもない。

 あるのは、『当然の結果』を見届ける者の静けさ。


 氷柱が、熱で軋む。

 表面が溶け、滴る水が、火柱に触れて蒸気となる。

 白い霧が、赤と青の狭間に立ち込める。


 まるで、この場が『地獄の舞台』であることを告げるカーテンのように。


 残り、二人。


 ◇


「さ……沙羅?」


 炎とともに現れたサラを見て、一葉が、声を震わせた。


 その声は、安堵と恐怖が絡み合った、かすれた囁き。


 サラは、ゆっくりと振り返る。

 その瞳には、かつての仲間を見つめる懐かしさと、もう戻れない距離の冷たさが、同時に宿っていた。


 ◇


 ◇一葉の後悔◇


 サラは、炎の中から現れた。

 制服は、どこか懐かしい形をしていた。

 でも、色が違う。


 深紅と黒のグラデーション。

 スカートの裾には、焦げ跡のような模様が滲んでいる。

 まるで、焼け落ちた過去の名残。


 長く艶やかな髪が、炎の光を受けて揺れていた。

 その瞳は細く、笑っているように見えた。

 けれど、その笑みに、誰の姿も映っていなかった。


 一葉は、無意識に共通点を数えていた。


(髪の長さ、同じ)

(制服の形、同じ)

(笑うときの口元、少し似てる)


 でも、違う。

 この女は、誰かのために笑っていない。

  誰かの痛みを見て、微笑んでいる。


 一葉の背筋が、ぞわりと凍った。

 そして、胸の奥が、じわりと熱を持った。


(私も、あの時……カルマの痛みに、目を向けなかった)

(沙羅から見た『私』も、こうだったのかもしれない)


 あの時、沙羅は言った。

「本当に、これでいいのかしら?」と。

 でも、私は——その言葉を『弱さ』だと決めつけて、無視した。


(その結果が、今の状況なのだとしたら……)

(沙羅が次に焼くのは、『私』なのかもしれない)


「さ、沙羅……?」


 一葉は、目の前の『サラ』を、かつての『沙羅』だと認識した。

 それは、外見の変容が少なかったからではない。

 心の奥底で、ずっと感じていた罪が、彼女をそう見せたのだ。


「65階層ぶりね。あなたたちに置き去りにされて以来の再会よね?」


 まるで、喫茶店でお茶して以来よね? とでも言うような、軽やかな口調。

 けれど、その言葉は、焼け跡のように重かった。


「お、置き去りにだなんて、わ、私たちは……!」


 一葉の声が震える。

『置き去り』という言葉の重さ。

 それを、笑顔で、挨拶のように言われたことに、言葉と感情の選択肢が追いつかない。


 だいいち、私と沙羅は——敵対しかけていた。

『レイド優先』という名目で、感情を先送りにしていただけ。

 くすぶった火種は、消えてなどいなかった。


「言い訳はどうでもいいの。どちらにしろ、結果は変わらなかっただろうし」


「言い訳だなんて! ……え? け、結果?」


「ええ。もう、あなたたち二人だけよ。レイドは全滅ね」


「なっ……?!」


 一葉が、息を呑んだ。

 足元がふらつく。

 視界が、ぐらりと揺れる。


 否定の言葉は、出なかった。

 出せなかった。


 ひより。

 フラノ。

 そして、サラ。


 その顔を見て、『誰だったか』がわかってしまった。

 だから、否定の言葉は、出なかった。


 罪が、言葉を奪った。


「あそこで『前進』を選んでくれてよかったよ。間引く手間が格段に減ったからね」


 カルマは、朗らかに笑った。

 まるで、感謝の言葉を贈るように。


「よ、よかった……って」


 一葉の声が、震えた。

 その言葉の意味が、重くのしかかる。


 ——自分の選択が、裏目に出ている。

 それが、誰かの命を削る結果になっていた。


 たとえば、『前進』ではなく『後退』を選んでいれば?

 たとえば、沙羅との議論で、対立ではなく融和を選んでいたら?

 たとえば、カルマとの別れ際、自分から『エリクサー』を手渡していたら?


 何かが、変わっていたのではないか?


 カルマは、本気で感謝していた。

 あの時、ばらけていなければ、この場に十数人が到達していた可能性がある。

 そうなっていれば、もっと苦労しただろう。


 それが、わかる。

 わかってしまう。


「あ、あんた……」


 私の選択が、誰かの命を削っていた。

 それを、カルマは『助かった』と言っている。


 一葉は、言葉を失った。

 その場に立っているだけで、罪の重さに押し潰されそうだった。



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