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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第164話 最後の10人 ~リーダーの独白~

3/3

 


 俺は、守るために剣を持ったはずだった。

 仲間を、未来を、そして——一葉を。


 でも、気づけばその剣は、仲間の血を吸い、信頼を断ち切る刃になっていた。


 あの人たちは、元探索者だった。

 俺たちに『夢』を語った。

「犠牲は美しい」「勝利は正義だ」って。


 俺は、それを信じた。

 信じたかった。

 だって、それがなければ、この地獄に足を踏み入れる理由がなかったから。


 だから、カルマを『爆弾』にすることも、正義だと思った。

 必要な犠牲だと、思い込んだ。


 でも、今思えば—— あれは『演出』だったんだ。

 俺たちが舞台に立つための、都合のいい脚本。


 カルマを爆弾にしたのは、俺じゃない?

 そう言い切れるか?


 サブリーダーを見捨てたのは、俺じゃない?

 そう言い切れるか?


 言い切れない。


 一葉だけは守りたかった。

 それが、俺の『正しさ』だった。

 でも、正しさってなんだ?


 誰かを守るために、誰かを犠牲にすることか?

 それは、選別だ。

 裁きだ。

 神の真似事だ。


 俺は、英雄になりたかった。

 でも今、俺は——舞台の上の悪役だ。


 カルマは、それを見抜いていた。

 俺は、ただ乗せられていただけだった。

 自分の意志だと信じていたものは、全部、誰かの台本だった。


 それでも、剣は握っている。

 それしか、俺には残っていない。


 剣を捨てたら、俺はもう、何者でもなくなるから。


 たとえ、この手がまた誰かを傷つけるとしても。

 たとえ、最後に残るのが俺一人だったとしても。


 俺は、剣を握る。

 それが、俺の罰だ。


 ◆回想:生徒指導室にて◆


 広くはない部屋。

 窓は曇りガラス。

 テーブルとイスがあるだけの、密談のために用意された空間。


 テーブルの向こうには、歴戦の戦士の風格を纏った二人の大人。

『元探索者』の教師たち。

 だが、その目は、戦場ではなく『舞台裏』を見ていた。


 教師A(微笑みながら):「君は、よく頑張ってるね。みんなをまとめて、責任を背負って……本当に立派だよ」


 リーダー:「でも……人を爆弾にするなんて……それは……」


 教師B(穏やかに):「君が決めることじゃないよ。これは、『全体最適』の判断なんだ。君の役割は、納得することだよ」


 教師A:「カルマくんも、きっとわかってる。彼は『支える側』の子だから。そういう役割の子は、必要なんだよ」


 教師B:「それに、彼の魔力は特別だ。君の剣が輝くために、彼の火種が必要なんだ。」


 リーダー:「…………」


 教師A(優しく肩に手を置いて):「君が決めたってことにしておこう。その方が、皆も君を信じる。『自分たちのリーダーが選んだ』って思えば、納得する」


 教師B(微笑みながら):「英雄って、そういうものだよ。誰かの痛みを『演出』に変えて、物語を進める人」


 教師A:「さあ、行こう。君の選択が、皆を救うんだ。『正義』は、後からついてくる」


 教師B:「そして、カルマは『名を残す者』になる。君の物語の礎としてね。美しいじゃないか?」


 リーダーは、黙っていた。

 何人かの顔が、脳裏をよぎった。


 笑いかけてくれた顔。

 ちょっと悲しそうな顔。

 怒って首を振った顔もある。


 でも——


 そのどれもが、もう戻ってこない未来の幻影のように思えた。


 英雄になる。

 それが、皆を救う唯一の道だと、信じ込もうとした。


 リーダー:「……わかりました。僕が……みんなに伝えます」


 その瞬間、部屋の空気が変わった。

 教師たちの目が、満足げに細められる。


 教師A(小声で):「……これで、舞台は整ったな」


 教師B(低く):「あとは、彼が『正義』を演じきるだけだ」


 ◇


 そうして『レイド』は始まった。

 うまくいってた。

 最初は、完璧だった。


 カルマのために、最高に泣ける演説原稿を何度も書き直した。

 言葉の順番。

 間の取り方。

 感情の込め方。

 嚙んだりしないように、鏡の前で何度も練習した。


『彼の死』が、みんなの心を一つにするように。

『彼の犠牲』が、俺たちの正義を照らす灯火になるように。


 きれいに終わらせられるはずだったんだ。


 ——でも。


 今、俺の手は血に濡れている。

 カルマの血じゃない。

 仲間の血だ。


 あの演説は、誰のためだった?

 カルマのため?

 皆のため?

 それとも——


 俺自身のためだったんじゃないのか?


 英雄になりたかった。

 称賛される存在に。

『正しい選択をした人間』として、誰かの記憶に残りたかった。


 でも、今の俺は?

 剣を振るうたびに、信頼が砕け、絆が裂けていく音がする。


 カルマは、笑っていた。

 あの時も、今も。

 全部、知っていたんじゃないか?


 俺が『演じていた』ことも。

 俺が『信じたフリ』をしていたことも。


 ああ、もうやめてくれ。


 頭の中で、あの演説がリフレインする。

「彼は、僕たちのために——」「彼の犠牲を、無駄にしないために——」


 誰のための言葉だった?


 俺は、誰を守った?

 俺は、誰を殺した?


 俺は、何者だった?


 それでも、剣は手放せない。

 それを捨てたら、俺は、ただの『加害者』になる。


 せめて、最後まで演じきろう。

 悪役としてでもいい。


 この舞台が終わるその時まで、俺は、剣を握り続ける。



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