第164話 最後の10人 ~リーダーの独白~
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俺は、守るために剣を持ったはずだった。
仲間を、未来を、そして——一葉を。
でも、気づけばその剣は、仲間の血を吸い、信頼を断ち切る刃になっていた。
あの人たちは、元探索者だった。
俺たちに『夢』を語った。
「犠牲は美しい」「勝利は正義だ」って。
俺は、それを信じた。
信じたかった。
だって、それがなければ、この地獄に足を踏み入れる理由がなかったから。
だから、カルマを『爆弾』にすることも、正義だと思った。
必要な犠牲だと、思い込んだ。
でも、今思えば—— あれは『演出』だったんだ。
俺たちが舞台に立つための、都合のいい脚本。
カルマを爆弾にしたのは、俺じゃない?
そう言い切れるか?
サブリーダーを見捨てたのは、俺じゃない?
そう言い切れるか?
言い切れない。
一葉だけは守りたかった。
それが、俺の『正しさ』だった。
でも、正しさってなんだ?
誰かを守るために、誰かを犠牲にすることか?
それは、選別だ。
裁きだ。
神の真似事だ。
俺は、英雄になりたかった。
でも今、俺は——舞台の上の悪役だ。
カルマは、それを見抜いていた。
俺は、ただ乗せられていただけだった。
自分の意志だと信じていたものは、全部、誰かの台本だった。
それでも、剣は握っている。
それしか、俺には残っていない。
剣を捨てたら、俺はもう、何者でもなくなるから。
たとえ、この手がまた誰かを傷つけるとしても。
たとえ、最後に残るのが俺一人だったとしても。
俺は、剣を握る。
それが、俺の罰だ。
◆回想:生徒指導室にて◆
広くはない部屋。
窓は曇りガラス。
テーブルとイスがあるだけの、密談のために用意された空間。
テーブルの向こうには、歴戦の戦士の風格を纏った二人の大人。
『元探索者』の教師たち。
だが、その目は、戦場ではなく『舞台裏』を見ていた。
教師A(微笑みながら):「君は、よく頑張ってるね。みんなをまとめて、責任を背負って……本当に立派だよ」
リーダー:「でも……人を爆弾にするなんて……それは……」
教師B(穏やかに):「君が決めることじゃないよ。これは、『全体最適』の判断なんだ。君の役割は、納得することだよ」
教師A:「カルマくんも、きっとわかってる。彼は『支える側』の子だから。そういう役割の子は、必要なんだよ」
教師B:「それに、彼の魔力は特別だ。君の剣が輝くために、彼の火種が必要なんだ。」
リーダー:「…………」
教師A(優しく肩に手を置いて):「君が決めたってことにしておこう。その方が、皆も君を信じる。『自分たちのリーダーが選んだ』って思えば、納得する」
教師B(微笑みながら):「英雄って、そういうものだよ。誰かの痛みを『演出』に変えて、物語を進める人」
教師A:「さあ、行こう。君の選択が、皆を救うんだ。『正義』は、後からついてくる」
教師B:「そして、カルマは『名を残す者』になる。君の物語の礎としてね。美しいじゃないか?」
リーダーは、黙っていた。
何人かの顔が、脳裏をよぎった。
笑いかけてくれた顔。
ちょっと悲しそうな顔。
怒って首を振った顔もある。
でも——
そのどれもが、もう戻ってこない未来の幻影のように思えた。
英雄になる。
それが、皆を救う唯一の道だと、信じ込もうとした。
リーダー:「……わかりました。僕が……みんなに伝えます」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
教師たちの目が、満足げに細められる。
教師A(小声で):「……これで、舞台は整ったな」
教師B(低く):「あとは、彼が『正義』を演じきるだけだ」
◇
そうして『レイド』は始まった。
うまくいってた。
最初は、完璧だった。
カルマのために、最高に泣ける演説原稿を何度も書き直した。
言葉の順番。
間の取り方。
感情の込め方。
嚙んだりしないように、鏡の前で何度も練習した。
『彼の死』が、みんなの心を一つにするように。
『彼の犠牲』が、俺たちの正義を照らす灯火になるように。
きれいに終わらせられるはずだったんだ。
——でも。
今、俺の手は血に濡れている。
カルマの血じゃない。
仲間の血だ。
あの演説は、誰のためだった?
カルマのため?
皆のため?
それとも——
俺自身のためだったんじゃないのか?
英雄になりたかった。
称賛される存在に。
『正しい選択をした人間』として、誰かの記憶に残りたかった。
でも、今の俺は?
剣を振るうたびに、信頼が砕け、絆が裂けていく音がする。
カルマは、笑っていた。
あの時も、今も。
全部、知っていたんじゃないか?
俺が『演じていた』ことも。
俺が『信じたフリ』をしていたことも。
ああ、もうやめてくれ。
頭の中で、あの演説がリフレインする。
「彼は、僕たちのために——」「彼の犠牲を、無駄にしないために——」
誰のための言葉だった?
俺は、誰を守った?
俺は、誰を殺した?
俺は、何者だった?
それでも、剣は手放せない。
それを捨てたら、俺は、ただの『加害者』になる。
せめて、最後まで演じきろう。
悪役としてでもいい。
この舞台が終わるその時まで、俺は、剣を握り続ける。
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