第162話 最後の10人 ③ ~毒の広がるとき~ 前編
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「くッ、クソガァァァァ!!」
自失の数秒。
その沈黙を破ったのは、リーダーの咆哮だった。
怒りと悔しさが混ざり合い、喉を裂くような声となって響く。
彼は、輝く大剣を高く掲げた。
刃が、氷の光を受けて白く閃く。
そして——
「砕け散れぇぇッ!!」
振り下ろされた剣が、天井を薙いだ。
魔力を帯びた斬撃が、空間を裂くように走る。
一瞬の静寂。
次の瞬間、天井の氷柱が一斉に砕けた。
バキィィィン!!
耳をつんざく破砕音。
氷柱が、まるで悲鳴を上げるように砕け、無数の氷片となって、白い雨のように降り注いだ。
「うわっ!」
「くそっ、目に……!」
仲間たちは、反射的に身をかがめ、ある者は転び、ある者は滑り、ある者は盾を構えた。
氷片は鋭く、硬く、冷たく、容赦なく肌を裂いた。
粉々になっている分、致命傷にはならない。
だが、頬を裂き、腕を切り、足を滑らせるには十分だった。
「うっわ、ムチャするねー」
フラノが、折りたたみ傘を器用に開いて、ひらりと氷の雨を受け流していた。
その姿は、まるで通学路で小雨をやり過ごす女子学生のように軽やかだった。
けれど、彼女の口元が、半月型に歪む。
それは、笑顔ではない。
冷笑。
「その状態じゃ、走れないよね?」
床は、大小無数の氷片で覆われていた。
尖った破片が、まるで罠のように散らばっている。
踏めば滑る。
転べば裂ける。
動けば、音が出る。
「バラバラだし」
氷塊を避けようとした彼らは、隊列を崩し、互いの背中を見失っていた。
盾役は前にいない。
回復役は孤立している。
魔法使いは、足元の氷に足を取られそうになっていた。
控えめに言って、隙だらけ。
フラノの目には、『狩り場』に散った獲物たちにしか見えなかった。
「……さて、どこから凍らせようかしら」
彼女の声は、まるで氷点下の風が囁くように、静かだった。
そこへ——
氷片が舞う中、色褪せた制服の一団が、音もなく現れた。
彼女らは、霜月フラノの芝居がかった仕草に迎え入れられる。
まるで、舞台の幕が上がるように。
まるで、死の演目が始まるように。
「『素材』を採取します」
その声が響いた瞬間、空気が変わった。
冷気が、意志を持ったように動き始める。
一影が前に出る。
足元の氷を踏みしめ、迷いなく進む。
彼女の足運びに合わせて、氷片が左右に退き、細い道が形成される。
ナイフが光を反射し、敵の視線を奪う。
ターゲットとなったのは、一人の女子。
濡れた肩を抱くようにして、身を縮めていた。
目を見開き、ナイフに釘付けになる。
仲間の退場。
氷片の痛み。
突然の襲撃者。
思考が、止まった。
二影が囁く。
声なき声が、彼女の心に入り込む。
恐怖。
混乱。
後悔。
感情の隙間に、冷たい言葉が染み込んでいく。
杖を握る手が、震えた。
目が曇る。
意識が、内面に沈んでいく。
三影が盾となり、反撃を受け止める。
氷片が砕ける音に紛れて、彼女の腕が軋む。
四影が滑るように背後へ。
刃が一閃。
血が、舞う。
五影が囮となり、氷の上を舞うように跳ねる。
笑みを浮かべながら、注意を引きつける。
六影が傷を癒す。
『素材』に手を添え、光が灯る。
無駄な傷は、残さない。
そして——
七影候補かを審問する。
実体のない影が、彼女の輪郭を覆い隠す。
数秒の間。
魂の奥を覗き込むような、静かな審判。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
拒絶の叫び。
魂が拒んだその瞬間、影への道は、断たれた。
「採取、失敗」
一影のナイフが、静かに一閃。
横に薙がれた。
命が、音もなく終わる。
床に転がる重いもの。
氷の上を転がる音が、静寂を切り裂いた。
転がったものは、六つの影が拾い、支えて運び出す。
仲間にはならなかった。
けれど、『素材』には違いない。
残り、七人。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




