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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第162話 最後の10人 ③ ~毒の広がるとき~ 前編

1/3

 


「くッ、クソガァァァァ!!」


 自失の数秒。

 その沈黙を破ったのは、リーダーの咆哮だった。

 怒りと悔しさが混ざり合い、喉を裂くような声となって響く。


 彼は、輝く大剣を高く掲げた。

 刃が、氷の光を受けて白く閃く。

 そして——


「砕け散れぇぇッ!!」


 振り下ろされた剣が、天井を薙いだ。

 魔力を帯びた斬撃が、空間を裂くように走る。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、天井の氷柱が一斉に砕けた。


 バキィィィン!!


 耳をつんざく破砕音。

 氷柱が、まるで悲鳴を上げるように砕け、無数の氷片となって、白い雨のように降り注いだ。


「うわっ!」

「くそっ、目に……!」


 仲間たちは、反射的に身をかがめ、ある者は転び、ある者は滑り、ある者は盾を構えた。

 氷片は鋭く、硬く、冷たく、容赦なく肌を裂いた。


 粉々になっている分、致命傷にはならない。

 だが、頬を裂き、腕を切り、足を滑らせるには十分だった。


「うっわ、ムチャするねー」


 フラノが、折りたたみ傘を器用に開いて、ひらりと氷の雨を受け流していた。

 その姿は、まるで通学路で小雨をやり過ごす女子学生のように軽やかだった。


 けれど、彼女の口元が、半月型に歪む。

 それは、笑顔ではない。

 冷笑。


「その状態じゃ、走れないよね?」


 床は、大小無数の氷片で覆われていた。

 尖った破片が、まるで罠のように散らばっている。


 踏めば滑る。

 転べば裂ける。

 動けば、音が出る。


「バラバラだし」


 氷塊を避けようとした彼らは、隊列を崩し、互いの背中を見失っていた。

 盾役は前にいない。

 回復役は孤立している。

 魔法使いは、足元の氷に足を取られそうになっていた。


 控えめに言って、隙だらけ。

 フラノの目には、『狩り場』に散った獲物たちにしか見えなかった。


「……さて、どこから凍らせようかしら」


 彼女の声は、まるで氷点下の風が囁くように、静かだった。


 そこへ——


 氷片が舞う中、色褪せた制服の一団が、音もなく現れた。


 彼女らは、霜月フラノの芝居がかった仕草に迎え入れられる。

 まるで、舞台の幕が上がるように。

 まるで、死の演目が始まるように。


「『素材』を採取します」


 その声が響いた瞬間、空気が変わった。

 冷気が、意志を持ったように動き始める。


 一影が前に出る。

 足元の氷を踏みしめ、迷いなく進む。

 彼女の足運びに合わせて、氷片が左右に退き、細い道が形成される。

 ナイフが光を反射し、敵の視線を奪う。


 ターゲットとなったのは、一人の女子。

 濡れた肩を抱くようにして、身を縮めていた。

 目を見開き、ナイフに釘付けになる。


 仲間の退場。

 氷片の痛み。

 突然の襲撃者。

 思考が、止まった。


 二影が囁く。

 声なき声が、彼女の心に入り込む。

 恐怖。

 混乱。

 後悔。

 感情の隙間に、冷たい言葉が染み込んでいく。


 杖を握る手が、震えた。

 目が曇る。

 意識が、内面に沈んでいく。


 三影が盾となり、反撃を受け止める。

 氷片が砕ける音に紛れて、彼女の腕が軋む。


 四影が滑るように背後へ。

 刃が一閃。

 血が、舞う。


 五影が囮となり、氷の上を舞うように跳ねる。

 笑みを浮かべながら、注意を引きつける。


 六影が傷を癒す。

『素材』に手を添え、光が灯る。

 無駄な傷は、残さない。


 そして——


 七影候補かを審問する。

 実体のない影が、彼女の輪郭を覆い隠す。

 数秒の間。

 魂の奥を覗き込むような、静かな審判。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 拒絶の叫び。

 魂が拒んだその瞬間、影への道は、断たれた。


「採取、失敗」


 一影のナイフが、静かに一閃。

 横に薙がれた。

 命が、音もなく終わる。


 床に転がる重いもの。

 氷の上を転がる音が、静寂を切り裂いた。


 転がったものは、六つの影が拾い、支えて運び出す。

 仲間にはならなかった。

 けれど、『素材』には違いない。


 残り、七人。



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