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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第160話 最後の10人② ~凍てつく想い~ 中編

2/3

 



「に、にげろ……!」


 リーダーが叫ぶ。

 だが、その声には力がなかった。

『逃げろ』という言葉が、どこにも逃げ場がないことを知っている者の声だった。


 軒下の氷柱なら、避けられる。

 だが、ここは違う。

 天井一面が、氷の牙で覆われている。


「魔法で撃ってみる?」

 魔法使いの少女が、冗談めかして言った。

 けれど、その声は震えていた。

『絶対にやらない』とわかっているからこそ、口にできた言葉だった。


 火炎魔法?

 無意味だ。

 たとえ火炎放射器があったとしても、この質量、この密度、この冷気を前にしては、ただの火遊びに過ぎない。


 なぜ、そう言い切れるのか?

 それは、実際にあったからだ。


 昭和の半ば。

 記録的な大雪に見舞われた町があった。

 自衛隊が災害派遣で出動し、あまりの雪の壁に業を煮やし、ついには火炎放射器を持ち出した。


 だが、結果は——氷は溶けなかった。


 いや、正確には、溶けた。

 だが、溶けた水が再び凍り、さらに硬く、滑りやすく、危険な氷塊となって襲いかかってきた。


 火は、氷に勝てなかった。

 それは、自然の重さと時間の積層に、人の力が届かなかった証明だった。


 今、目の前にある氷柱も、同じだ。

 火炎魔法を撃てば、一本どころか、すべてが一斉に落ちてくる。


 それは、天井からの絨毯爆撃。

 避けられるはずもない。

 動けば、死ぬ。

 動かなくても、死ぬ。


 だから、誰も動けなかった。

 ただ、自然に落ちてくる『その時』を見極め、祈るしかなかった。


「あらあら、みんなお利口ですねぇ。やってみたら面白かっただろうに……まぁ、任意で落とせるんだけど、ね!」


 フラノが、にこりと笑って、親指を——下に向けた。


 パキン。


 天井が、悲鳴を上げた。

 それは氷が割れる音ではなかった。

 空気そのものが砕けたような、乾いた破裂音。


 次の瞬間、空気が一気に冷え込む。

 吐いた息が、白く煙る。

 光が氷に反射し、部屋全体が青白い死の色に染まった。


 ひよりとフラノを除く全員が、反射的に天井を見上げた。

 そこには、崩壊の始まりを告げる、無数の影があった。


「……っ!!」


 魔法使いの少女が、咄嗟に身を伏せた。

 だが、それは一瞬遅かった。


 ドンッ!


 重い音が、空間を揺らす。

 続いて、ガラガラと氷が崩れ落ちる音。

 まるで、山が崩れるような、低く響く轟音。


 氷の塊が、彼女の上に降り注いだ。

 一つ、二つ、三つ。

 巨大な氷柱が、次々と彼女の身体を押し潰していく。


「……っ!」


 誰かが声を上げかけたが、言葉にならなかった。

 あまりにも一瞬の出来事だった。


 氷の山が、静かに積もっていく。

 粉雪のような氷の粒が、ふわりと舞い、やがて、赤く染まった床に降り積もっていく。


 そこに、彼女の姿はなかった。

 ただ、潰れた制服の一部が、氷の隙間から覗いているだけ。


 誰も、声を出せなかった。

 誰も、動けなかった。


 床に広がる、じわりと滲む紅が、彼女がそこにいたことを、静かに語っていた。


 残り、8人。


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