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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第154話 妖怪制作 ~つらら女~ 後編

2/3

 


 ◇氷柱女の意識の中◇


「・・・寒い」


 最初に感じたのは、それだけだった。

 でも、それは空気の冷たさじゃない。

 心の奥が、じわじわと冷えていく感覚だった。


「泣きたいのに、涙が出ない」


 目は凍っていた。

 感情が、表面に出る前に凍りついてしまう。

 悲しみも、怒りも、後悔も、全部、氷の膜に包まれて、動けなくなっていた。


「私・・・誰かに、何かを言いたかったはずなのに」


 言葉が浮かばない。

 名前が思い出せない。

 記憶が、氷の中で静かに沈んでいく。


「でも、苦しくない。・・・それが、怖い」


 痛みがない。

 悲しみも、もう感じない。

 それは、楽なのかもしれない。

 でも、それは『自分が自分でなくなる』ということだった。


「このまま、全部凍ってしまえば、きっと楽になる」


 そう思った瞬間、

 胸の奥で、何かが小さく軋んだ。

 それは、最後の『人間だった頃』の声だった。


「・・・誰か、見ててくれるかな」


 その声も、すぐに凍った。

 氷柱女は、静かに目を閉じる。

 氷の魔力が、彼女の心の輪郭をなぞりながら、ゆっくりと同化していく。


「私は、もう『誰か』じゃなくて、『何か』になる」


 それは、恐怖ではなかった。

 それは、受け入れた者の静かな決意だった。


 氷柱女は、

 冷たく、静かに、誰かの記憶に残る『かたち』として完成していく。


 ◇


「はい、完成!」


 小動物っぽい眼鏡女子が立ち上がる。

 いい感じだった。


 氷が、きらりと音を立てた。


「・・・あれ? ここ、どこ?」

 つらら女は、氷の柱の中で、少しだけ首をかしげた。

 それは、冬の静けさに宿る、小さな愛嬌だった。


 でも、その動きに『冷たさ』が混ざっていた。

 まるで、首をかしげることすら、誰かに見せるための『演技』になってしまったように。


「でも、そのちくはぐな感じが、むしろ『らしい』気がする」


 カルマは、つらら女の首かしげを見て、そう呟いた。

 それは、冷酷な支配者の口からこぼれた、ほんの一欠片の『理解』だった。


「・・・わたしって、誰かに見られるために凍ったのかもね」


 唐突な呟き。

 カルマが振り返る。


「何の話だ?」

 眼鏡女子は首をかしげる。


「だって、首かしげてたし。あれって、誰かに『見られてる』って思ってる仕草じゃない?」

 カルマは黙る。

 それは、彼女が『ただの素材』ではないことを示す、予想外の観察だった。

 だけど・・・。


「自分のこと、だよな?」

「あら。自分のことを客観的に見れない人は成長しませんよぉ?」

「・・・確かに」

 なんか、自然に言い負かされて、カルマの目が点になった。

 周囲を囲む他の妖怪たちがまとう空気も軽くなる。


「えっと・・・『カルマ』さん?」

 首を傾げながら聞いてくる。

 たった今、自分で「見られるための仕草」だと言っていたのに。


「あ、ああ。そうだが・・・」

「カルマさんって、優しいですよね」

「・・・どこが?」

「だって、『完成』って言ったあと、ちょっとだけ間があった。あれ、たぶん『この子に名前つけてもいいかな』って考えてた間ですよね」

 カルマは、何も言えなかった。

 それは、自分でも気づいていなかった『感情の揺れ』を言語化された瞬間だった。


 カルマはモンスターを作っているのだ。

 名前を付けるか付けないはただの趣味・・・のようなモノ。

 そのはずだ。

 だけど・・・?


 思わず、動きを止めてしまうカルマ。

 それにも構わず、氷柱女は口を動かす。

 口は凍らなかったらしい。


「これって、死んだ人を使ってるんですよね?」

 自分を見下ろして聞いてくる。


「そうだ」

「じゃあ、『完成』って言うより、『再開』って言った方がいいかも?」

「・・・」

 カルマの目が細くなる。

 それは、冷静な支配者が『言葉の重み』に触れた瞬間だった。


「ふっ・・・ふふっ、はははっ」

 カルマの肩が揺れた。


 氷柱女が首を傾げ。

 他の妖怪たちが、目を見開いた。


 どこか作ったような笑い、どこかが歪んでいる笑い。

 そればかりだったカルマが、自然に笑っているように見えた。


「・・・意思のある妖怪は、全部ネームドにしよう」

 考えてみれば、『七人みさき』にも名前はつけた。

 記号のようなものだったけれど、名前には違いない。


 だったら、もう、全部『名前付き』でいいじゃないか。


「お前の名前は・・・『霜月フラノ』だ」

 霜の月に咲く、誰かの記憶の花。

 そんな意味が、込められていた。


 ・・・ってことにしよう。

 内心でカルマはそう付け足した。


 自覚のないテレがあった。

『名付け』に意味があることを認識した瞬間だったかもしれない。



読了・評価。ありがとうございます。


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