第151話 妖怪制作 七人みさき 前編
2/3
役目を持って出ていた『霞』。
一仕事終えて帰ってきた彼女に、カルマは『おかえり』と言った。
カルマの側にいた妖怪たちも、ちょっと戸惑ったように『おかえり』と口にする。
「・・・ただいま」
『かすみ』が答えてくれて、風が柔らかくなった。
たったそれだけのこと。
それでも、きっと大きなことだった。
少なくとも、妖怪たちの『カルマ』を見る目は優しさの度合いを深めている。
「がんばっているな」
残戦力――ラストチームの快進撃を、カルマは見ていた。
「決戦は69階層の最奥としようか」
「わざわざ待つのには、何か理由があるの?」
『河童』仁科悠が問いかける。
沢辺みどりとなってから、少しだけ、心の距離が近づいていた。
「アイテムを消費させたい。魔力もね」
中級モンスターとの戦闘で、徐々にアイテムが減っていく。
アイテム整理をさせられていたことから、彼らの保持アイテムの種類や数はカルマが把握していた。
魔力の減り方や残量なら、カルマは本人たち以上に熟知している。
「我が校の最高戦力だ。腐っているとしても、侮るわけにはいかない」
最大限弱くしてから、終わりを強制する。
カルマの意志は固く冷徹で、苛烈。容赦がなかった。
冷静に、できることを全て実行したうえで、確実に仕留める。
その気迫に妖怪たちは息を呑み、押し黙った。
カルマがため込んでいた怒り、憎しみ、そして、哀しみ、その深さを思い知らされている。
それは、妖怪となった彼女たちにとっても他人事ではない。
「途中で休憩も入れるだろうし、数時間は先のことになる。待っている間、手に入れた『素材』で仲間を増やしておこうか」
何気ない一言。
だけど・・・。
「・・・はい」
悠の返事に、わずかな間があった。
その言葉が、空気を少しだけ柔らかくした。
それはカルマが『モンスター』を『仲間』と表した最初だった。
カルマの中で、抑圧され、凝縮され、硬く、巨大に育っていた『ナニカ』がわずかにではあるが、解け始めた。
そんな、『兆し』だったかもしれない。
本人に自覚はなかったが・・・。
◇
ダンジョンの階層を増やして70階層とした。
それに伴い、カルマたちは拠点を70階層に移していた。
『三途川中学校』の校長室という位置づけである。
そこに、シデムシたちによって『素材』が続々と運び込まれていた。
今回カルマが使おうとしているのは、そのうちの『一山』だ。
後詰C班。『マップ埋め係』である。
生きたまま連れ出すことができず、その場で死亡した者たちだ。
「『レア』ではなく、通常モンスだな」
最高でもAランク。
ネームドのSランク以上にはならない・しないという意味だ。
「シデムシさんたちの上位互換とする」
『学園祭』がテーマで、『妖怪』が属性のダンジョンだ。
シデムシさんが活躍しているのは、おかしいだろうということ。
採取が得意だった彼女たちだ。
『素材』集めも頑張ってくれるものと思う。
彼女たちの存在の残り香を、システムに取り込ませ、モンスターとして再構築していく。
◇妖怪化(後詰C班視点)◇
──静寂の中、魂は目を開ける。
肉体はもうない。
でも、『自分』はまだここにいる。
「・・・これって、夢?」
「そうかも。だって、痛みがない」
「でも、寒い。空気が、冷たい」
空気——彼女たちを取り巻く異質な空間――が、彼女たちの記憶を撫でる。
再構築の作用が、彼女たちの心を静かに変えていく。
「私たち、死んだんだよね」
「うん。でも、終わってない」
「だって、見えるもん。自分たちの姿が」
──肉体が、再構成されていく。
制服が、色褪せていく。
髪が、風に溶けるように揺れる。
目が、光を失い、代わりに『何か』を宿す。
『システム』の働きにより、魂の保持者たちにも『何が』起きているかは知らされていた。
『復活』でも『再生』でも、ましてや『蘇生』でもない。
『再構築』、『再定義』、そして『再誕』。
彼女たちはいま、生まれ変わる。
「これが、妖怪になるってこと?」
「でも、私たちの中身は変わってないよね?」
「・・・ほんとに?」
──『役割』が与えられる。
先導、囁き、守護、斬撃、囮、癒し。
そして、空位。
──静寂の中、魂は目を開ける。
肉体はもうない。
でも、『自分』はまだここにいる。
「……これって、夢?」
「そうかも。だって、痛みがない」
「でも、寒い。空気が、冷たい」
空気——彼女たちを包む異質な空間が、記憶の断片を撫でていく。
再構築の作用が、彼女たちの心を静かに、確実に変えていく。
「私たち、死んだんだよね」
「うん。でも、終わってない」
「だって、見えるもん。自分たちの姿が」
──肉体が、再構成されていく。
制服が、色褪せていく。
髪が、風に溶けるように揺れる。
目が、光を失い、代わりに『何か』を宿す。
読了・評価。ありがとうございます。




