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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第147話 呼び声 ~本音の紳士たち~ 前編

1/3

 


 中央部にいた者たちで、未だ無事だったのは、男が二人だけだった。


「チッ……どうせなら、女子と二人きりがよかったぜ。こんな時こそ、守ってやるぜってカッコつけられるのによ」

「悪かったな、野郎で。つーか、お互い様だろ」

「野郎相手じゃ、気合も入らねぇし、守る気も起きねぇや」

「……なられても困るがな。まぁ、女子がいた方が、まだマシだったかもな」


 守る理由がない。

 守りたいと思える対象がいない。

 誰かに見られているからこそ、人は『まとも』でいられるのかもしれない。


 それなのに——。


 二人は、互いに顔を見合わせた。

 冗談を交わしながらも、どこか目が笑っていない。

 この状況が、冗談で済まないことを、どちらも理解していた。


「……こんな陰気なとこ、さっさと抜けようぜ」

「女子もいねぇしな。てか、なんで誰もいねぇんだよ。そろそろ誰かと出くわしてもいい頃だろ」

「……おかしいよな。静かすぎる。音が、ない」


 歩き回って、もうどれくらい経っただろう。

 誰か一人くらい見つかってもいいはずなのに、影も形もない。

 まるで、最初から誰もいなかったみたいに。


 ……——が……」


 風が、何かを運んできた。

 耳の奥をくすぐるような、湿った声。

 それは、風の音に紛れて、確かに『言葉』だった。


「今の、聞こえたか?」

「誰か呼んでる……!」


 二人は顔を見合わせ、声のする方へ駆け出した。

 沈黙に支配された空間に、ようやく現れた『人の気配』。

 それがどれほど心強く感じられたか、彼ら自身も驚くほどだった。


「……いねがぁ……」


 声が、はっきりしてくる。

 女の声。だが、どこか濁っていて、喉の奥から絞り出すような響き。


「女の声だな?」

「ああ……でも、なんだこの訛り?」


『いねが』——「いないか?」

 無事な者はいないか、誰か、誰か……と、探している。


「この先だ! 角の向こうから聞こえる!」

「おい、抜け駆けすんなって!」


 誰かはわからない。

 だが、女子がいる。


 この異常な状況の中で、女の声はまるで救いの鐘のように響いた。

 いいところを見せたい——そんな軽い気持ちが、彼らの足を速めた。


 二人は競うように、角を曲がった。


 彼らが、その先で見たものは——


 星のように瞬く、無数の光。

 そして、その奥に広がる、底なしの闇。


 次の瞬間、世界が裏返った。

 音もなく、光もなく、ただ、意識が途切れた。


 彼らはもう、なにも見ることはなかった。


 壁には、焼け焦げたような黒い痕が二つ。

 まるで、そこに立っていた人間の輪郭をなぞるように。

 床には、血と肉の名残を包む制服が、ぐしゃりと折り重なっていた。


 その上を、何かが静かにまたいでいく。

 足音はしない。

 ただ、空気が重く、冷たく沈んでいく。


「……わるいこは、いねがぁ……」


 女の声が、再び響いた。

 だがその声は、どこか濁っていて、まるで喉の奥に血を含んだまま、無理やり言葉を押し出しているようだった。


 彼らが求めた『女』は、確かにそこにいた。

 ただし、それは——鬼だった。


 背に棘付きの金棒を担ぎ、 赤銅色の肌に、乾いた血がひび割れのようにこびりついている。 だが、その姿の中に、かすかに見覚えのある輪郭が残っていた。


 ——あの笑い声。

 ——あの瞳の色。

 ——あの時、肩を並べて走った背中。


 そのすべてが、今や異形の皮膚に覆われ、けれど、完全には消えていなかった。


 鬼の瞳が、床に転がる制服を見下ろす。

 その奥に宿るのは、冷たい夜の闇……だけではない。

 微かに揺れる、後悔とも、怒りともつかぬ感情の残滓。


「……わるいこは、いねがぁ……」


 その声は、どこか震えていた。

 呼びかけるようで、呪うようで、まるで自分自身に言い聞かせるようでもあった。


 彼女は、まだ『人間だった頃の自分』を覚えている。

 それでも、金棒を手放すことはなかった。



 残り、12人。



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