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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第146話 完璧なるがゆえに(比翼ふげん視点)

3/3

 


 風が止んだ。

 羽根が、静かに落ちる。

 空気が、凍るように静まる。


 廊下には、制服が三つ。

 ねじれて、沈黙している。

 その形は、まるで命が抜けた抜け殻。


「……終わったわ」


 声は、震えていない。

 手も、汚れていない。

 風がすべてを片付けてくれた。


 私は、命令に従っただけ。

 完璧に。

 正確に。

 美しく。


 でも——風の中に、何かが残っていた。


 それは、声。

 それは、目。

 それは、かつて私が『仲間』と呼んだ者たちの、命の残響。


「これが、私の役目」


 そう言い聞かせる。

 そうでなければ、風が揺れる。

 そうでなければ、羽根が濁る。


 私は、完璧でなければならない。

 だから、迷ってはいけない。

 だから、痛んではいけない。


 でも——風が止んだ瞬間、胸の奥が少しだけ、冷えた。


 それは、風が吹いていた間、感じなかった『静けさ』。

 それは、風が守ってくれていた『感情』。

 それは、私が見ないようにしていた『痛み』。


「……人間の命を、奪ったのね」


 呟いた言葉は、誰にも届かない。

 隣にいる『みれん』にも、届かない。


 あの子は、もう『自分のために』は泣かない。

 私の『代わり』に、泣いてくれているから。


 私は、泣かない。

 私は、迷わない。

 私は、完璧である。


 でも——風が止まった今だけは、ほんの少しだけ、『人間だった頃の私』が、胸の奥で震えている気がした。


 それは、罪ではない。

 それは、罰でもない。

 それは、ただの『記憶』。


 私は、忘れない。

 でも、振り返らない。


「風は、役に立つ」


 そう言って、胸を反らす。

 それが、私の『答え』。

 それが、私の『赦し』。


 そして、次の命令を待つ。

 風が、また吹くまで。


 ◆比翼みれん視点◆


 風が止んだ。

 それは、命が止んだ音だった。


 この一文がすべてを語ってる。

 風の終わり=命の終わり。

 その静寂は、ただの余韻じゃない。

『取り返しのつかない現実』の証。


 制服が三つ。

 ねじれて倒れ、動くことなく沈黙している。


 その沈黙は、叫びよりも重い。

 風がすべてを奪ったあとに残るのは、色と形と、記憶だけ。


「……殺したんだね」

 声にはならなかった。

 でも、風は知っていた。


 みれんの痛みは、言葉にならない。

 でも、風はそれを知っている。

 なぜなら、彼女も『風の一部』だから。


 ふげんは、胸を反らしていた。

 誇らしげに。

 完璧に。


 その姿は、まさに『理想の器』。

 でも、理想はときに、『人間らしさ』を切り捨てる。


「……それが、完璧なの?」


 問いかけは、誰にも届かない。

 でも、みれんの心には、深く突き刺さる。

 それは、ふげんへの問いであり、自分自身への問いでもある。


 私は、泣いていた。

 誰にも見えない涙。

 誰にも届かない痛み。


 でも、それが——私の『役目』。

 ふげんが前を向くために、私が後ろで泣く。


 なんて静かな献身。

 なんて深い未練。

 それでも、彼女は歩く。

 風に削られながら。


「ほんとうに。ごめん」。その言葉だけが、私の詠唱。


 それは、魔法じゃない。

 それは、赦しを乞う祈り。

 命を見送るための、静かな呪文。


「……でも、歩くね」


 完璧にはなれなかった。

 でも、止まらない。

 それが、みれんの『赦し』であり、ふげんの『影』としての存在理由。



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