表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/369

第137話  流れゆくもの 前編

3/3

 


 同時刻、水に流された最後尾4名は、水の中にいた。


 白いタイル張りの床――だが、濁った水に沈んだそれは、灰色とも黒ともつかない色に濁っていた。


 水深は意外と深く、男子の腰まで届く冷たい水が、ズボンの中にまで染み込んでくる。


「な、なにかいる?!」


 誰かが叫んだ。

 その声が反響し、天井の蛍光灯の残光が揺れる。


 指さす先、水面がわずかに盛り上がり、黒い影が視線を横切った。


「戦闘用意!」


 沙羅の号令が響く。

 水音をかき分けるように、仲間たちが武器を構える。

 だが、水の抵抗が、動きを鈍らせる。


 ザバン!


 水面が跳ねた。

 一瞬、誰かの足が見えたかと思うと――


「キムラが消えた!」


 水柱が立ち、泡が弾ける。

 その中心に、男子A――キムラの姿はもうなかった。


「水中戦?!」


 カノンがスカートを必死に押さえながら、腰まで沈んだ水の中で悲鳴を上げる。

 裾が水に広がり、足が絡まる。

 動けば動くほど、冷たさと重さが増していく。


「冗談じゃないわ! 何とか水の中から出ないと!」


 沙羅も、同意のうなずきとともに辺りを見渡す。

 だが、壁は滑りやすく、出口らしきものは見当たらない。


 そのとき――


「ゲハッ!」


 水面が割れ、キムラが顔を出した。

 肩で息をしながら、何とか浮上してきた。


 だが、その隣に、黒いシルエットが立っていた。


 人の形をしている。

 けれど、輪郭が揺れている。

 水に溶けかけた墨のように、その存在は不確かで、それでも確かに『そこにいる』。


「【フレアランス】!」


 沙羅の魔法が、水面を裂いて放たれた。


 直撃。

 シルエットが揺れ、水が一瞬、沸騰したように泡立つ。


 いける!


 だが――水の中で、何かが蠢いていた。


「【フレアランス】!」


 好機と見た沙羅が、炎槍を連続で撃ち込む。

 水面が爆ぜ、熱と蒸気が立ち上る。


 その残り火が、黒いシルエットを照らし出した。


「「か、カッパ?」」


 声が重なった。

 そこにいたのは、確かに『河童』だった。


 彼女――そう、女性だ。

 肌は、雨上がりの葉に宿るアマガエルのように、しっとりと濡れ、水面の光を受けて、やわらかく艶めいていた。


 その肌の下、筋肉の動きが水越しに透けて見える。

 人間のようで、人間ではない。


 長く流れる髪は、深い森の影のような緑。

 その中に、皿が浮かんでいた。

 皿の水が、波紋を描きながら揺れている。


 手足には、水かき。

 指の間に張った薄膜が、水を切るたびに、まるで羽ばたくように広がる。


 それなのに――彼女は、黒のセーラー服を着ていた。

 それは、私たちと同じ制服。

 濡れて肌に張りつき、その下の輪郭をあらわにしている。


「学校の怪談で、妖怪?」

「ふざけてる!」


 怒声とともに、攻撃が増える。

 水を裂く剣、魔法の閃光。

 だが――


「は?」


 すべて、防がれた。


 奇妙な形の大盾。

 水中での動きには不向きなはずのそれを、彼女はまるで羽のように扱っていた。


「あ、あんなもの持ってて、水中でどう動くんだよ!」


 男子B――クドウが苛立ちを隠せず叫ぶ。

 その声に応えるように、河童はくるりと背を向け、大盾を見せつける。


「ああ、甲羅か。……じゃねぇわ!」


 クドウが斬りかかる。

 水が割れ、剣が唸る。


 ようやく呼吸を整えたキムラも、背後から斬撃を加える。


 前後からの挟撃――だが、河童は滑るようにスライドし、水を味方につけて、キムラの背後へと回り込んだ。


 その動きは、まるで水そのもの。

 人間の筋肉では再現できない、『水棲の理』に従った動きだった。


「ゲッ?!」


 クドウの剣が、鈍い音を立てて、キムラの肩を裂いた。


 血が、水に溶ける。

 赤が、ゆっくりと広がっていく。


「なっ……!?」


 クドウの手が震える。

 目の前で、仲間の体が崩れ落ちる。


 その背後――河童が、静かに手を引いていた。


 背中を押したのだ。

 ほんの少し、剣の軌道に乗るように。


 キムラの体が、水面に吸い込まれるように沈んでいく。

 泡も立てず、音もなく。


「キムラ……? おい、キムラ!?」


 返事はない。

 水面には、ただ赤い渦が残るだけ。


 カッパの姿も、もう見えなかった。

 まるで、最初からそこにいなかったかのように。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ