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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第132話 昇降口 ~傘と制服と、手紙~ 後編

1/3

 


 コトン。

 何かが落ちた音。

 それは、靴だった。


 左右揃ったローファーが、誰かの足音を真似るように廊下を踏みしめる。

 歩いていない。

 逃げている。


「・・・あれ、学校指定靴よね?」

 女子Cが呟く。


「そう見えるよな」

 自分の靴を見下ろして、男子Cが応えた。


 二人が見送る。

 靴は振り返らない。

 ただ、廊下を駆け抜ける。


 靴は、誰にも気づかれないように、でも確かに『誰かを探すように』走っていた。


 コツン、コツン、コツン……


 その足音が、だんだんと遠ざかっていく。


 風が吹いた。

 靴が巻き起こした風。

 その中に、かすかに混じる――泣き声。


「……まって……まって……」


 誰かが、誰かを呼んでいる。

 懇願するような、幼い声。


『なぜか』、胸が苦しい。

『なぜか』、追いかけなきゃいけない気がする。


「精神攻撃よ! 耐えて!」


 一葉の声と、頬を打つ衝撃。

 その瞬間、胸を締めつけていた焦燥が、ふっとほどけた。


「あ、あぶね!」


 男子Cが、胸を押さえて頭を振る。

 だが、まだ風は吹いている。


 靴は、止まらない。




 そして、物陰からは『制服』が出てきていた。

 制服は、ふわりと舞った。

 まるで、誰かがそこに立ち尽くしているかのように。


 赤いネクタイが、風に揺れる。

 袖が、そっと差し伸べられる。


 まるで、「お願い、気づいて」と言っているように。


「その制服・・・中身はどこいったんだ?」

 男子Dが剣を構える。


 柔軟剤の匂い、コロンの匂い、女の子らしい香りが吹き付けてくる。

 剣を握る手から力が抜けそうになる。

 制服に顔を埋めたくなった。


 ジャケットが開く。

 中のワイシャツが光を放った。


 セピア色の光が、制服の胸元からあふれ出す。

 その中に浮かぶのは―― 机に突っ伏して泣く、ひとりの少女。


『その涙、誰か見てくれてた?』


 その声は、 風の中に溶けて、心にだけ届いた。


「ぐッ! 涙流してる女に声かけるとかできねぇよ!」


 男子Dの叫びが、昇降口に響いた。

 それは、後悔か、照れ隠しか。


「しっかりしなさい!」


 一葉の怒声とともに、状態異常解除の魔法が炸裂する。

 制服は、ふわりと宙に舞い、そのまま、静かに崩れ落ちた。


「……でも、見てくれてたら、嬉しかったんだろうなって思うよ?」


 女子Dの言葉が、制服の残り香に、そっと寄り添った。



 床に落ちていた鞄が、口を開けた。

 中から土の槍が飛び出した。

 それは、誰かが隠していた怒り。


「うわっ、攻撃してきたぞ!」

 男子Eが叫ぶ。


 精神攻撃かと思っていたところへの『物理』。

 思わず大きく飛び退いた。


 鞄は再び開く。

 今度は、手紙の幻影が舞い上がる。


『読まれなかった言葉は、武器になる』



【ねえ、〇〇くんへ


 いつも教室の隅で本を読んでる君を、こっそり見てました。

 声をかける勇気はなかったけど、君がページをめくる音が、私の一日を始める合図でした。


 今日、君の机にこの手紙を置いてみます。

 もし読んでくれたら、明日、昇降口で待ってます。


 でも、読まれなかったら・・・それはそれで、君らしいと思います。


 それでも、私は君に手紙を書いたことを、きっとずっと覚えてる。


 〇〇より】



 名前は揺らいで聞き取れないが、文面はハッキリ聞き取れた。

 甘い囁き、切ない情動、そしてわずかな諦めと期待。


 膝が力を失くして床へつきそうになる。

 手を伸ばして引き留めたくなる。


 なにを?

 疑問に思った途端。


 伸ばした指先が音を立てた。

 剃刀が舞っていた。


 一瞬の静寂。


『うっそでーす! キャハハハハハハハ!』


 狂ったような笑い声が、背中を駆け上がる。

 寒気と怒り、なんと表現すればいいのかわからない感情で胸が張り裂けそうになる。


「ああ、もう! 幻覚だって言ってんでしょうが!」

 抱きつくようにして体を支えた一葉が、そのまま魔法を叩きこむ。


「ぐふっ!」

 詰まっていた呼吸を吐き出して、男子Dは体勢を立て直した。


 鞄は、静かに崩れた。

 灰となって、床に散る。


 だが、空気の中にはまだ――あの手紙の香りが、残っていた。


 柔らかなインクの匂い。

 紙の温もり。

 そして、読まれなかった言葉の重さ。


『それでも、私は君に手紙を書いたことを、きっとずっと覚えてる。』


 その一文だけが、まるで呪いのように、心に焼きついていた。


 男子Dは、胸を押さえた。

 痛みではない。

 でも、確かに『何か』が、そこに刺さっていた。


「心霊系っぽいから予想はしたけど! なに? このえげつなさ!」

 思春期真っただ中の自分たちを惑わすことに特化したとしか思えない攻撃に、一葉が焦りの色を見せていた。


「だか、本体そのものは大したことなさそうだ」

 リーダーが強く頷いた。


「これなら、戦える!」

 制服や鞄、靴などが出て来たが脅威ではない。


 一葉がいればほぼ無効にできる。

 できている。

 誰もが「サブマスは組しやすい」と思い込み始めていた。


 今が最後の好機!

 準備の間を与えず、押し切るが吉!


 進行速度が上がった。

 速度が上がった分、隊列が伸びていく。


 ◇


「先頭、早すぎ!」


 沙羅の声が、昇降口に響いた。

 だが、その声は――届かなかった。


 隊列はすでに伸びきっていた。

 先頭と最後尾の距離は、『声』では埋められないほどに広がっていた。


 彼女は、遅すぎた。

 本来なら、もっと早くに叫べたはずだった。

 でも、空気がそれを許さなかった。


「……我慢しなきゃって、思っちゃったんだよ」


 その一瞬の迷いが、取り返しのつかない破滅を呼び込んだ。


 昇降口の空気が、ひときわ冷たく、重くなった。


 ◇


 風が吹き、雷が走る。

 人は逃げ惑う。

 天狗降臨。

 最上位討伐者たちは、残念なことに登場シーンを見逃した。


 彼らが見ることのできたものは、横薙ぎに吹く風と雷だった。

 風が動きを止めさせ、雷が隙間を埋める。

 隊列が千切れた。


「ま、前へ!」

 一葉が叫んだ。


「ま、待て!」

 リーダーが焦る。


 ダンジョン内で一番やってはならないこと。

 パーティの分断が起こる!


 止めようとするが、雷の音が掻き消した。

 一葉と、その近くにいて声が届いた者たちは前へと進んでいく。


「クソっ!」


 一瞬、振り返ったものの、リーダーもその背を追った。

 サブリーダーなら、皆を留まらせた!

 そう思いながら・・・。


 先頭が前進を選んだとき、中央部は割れていた。

 こちらも風が吹き荒れている。

 『二つの』風の渦が人々を追い散らした。


 そして最後尾では泥に足を取られ、水で流される。

 水を掻き分けようとした動きは『何か』に邪魔された。


「体が思うように動かない・・・まさか、デバフなの?!」

 状態異常かステータス減少の魔法が掛けられている?

 何となく覚えがあるような気がする感覚で、そう察した沙羅だったが手の打ちようはなかった。

 成す術なく流れて行った。


 彼ら、彼女らは皆、数人単位で分断されたのだ。

 リーダーが恐れたように。


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