第131話 昇降口 ~傘と制服と、手紙~ 前編
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ペタン・・・。
足音がした。
歩いてはいない。
跳ねている?
ペタン・・・。
足音が一つ。
片足分だ。
跳ねている。
ペタン・・・。
片足で跳んで、ナニカが近づいてくる。
「い、いやな予感がするんだけど?」
女子Aが笑うように声を揺らした。
「イヤな予感ってなんだよ!?」
苛立ちで声を尖らせ、男子Aが訊いた。
「さっきの校門で、変な空白に入るのが『ず』で三途の川、そして雰囲気が怪談。なら、出るのは・・・お化け?」
「くッ!」
ある程度、予想できる結論だった。
男子Aの顔が歪む。
「バカヤロウ! お化けだとしても、ここはダンジョン。そういう形のモンスターってだけのことだ! やる事は変わらない! ビビってんじゃねぇよ!」
リーダーの一喝。
「あ、ああ、そっか」
「お化け屋敷のお化けが人間やロボットってのと同じことだよね」
自分を納得させようとする呟きが、あちこちで上がる。
気持ち悪かろうが何だろうが、モンスター。
虫型だったのが、お化けになるだけ!
気を取り直す彼らの前に、ついに初お化けが登場する。
「なんじゃ、ありゃ?」
「カサ?」
出てきたのは傘だった。
パステルカラーのファンシーな傘。
少し閉じ気味の傘が、自立している?
浮いている?
「・・・ひィ!?」
悲鳴が上がった。
傘に顔が浮かび上がっていた。
女の子だ。
笑っている。 でも、目が笑っていない。
その顔が、傘の布地に『染み込んでいる』ように見えた。
そして・・・傘が開く。
パキパキ……ギギ……と、骨が軋むような音を立てながら。
「キャァァァァァ!」
男女の悲鳴がほとばしった。
傘の柄。
本来木製か金属製であろう柄が人間の手足だった。
細くて白い、少女のような四肢。
傘の中心から腕が生えていて、その腕が床を踏みしめる足のすねを握り締めている。
「なによ、それ—!」
恐怖に引き攣った叫び。
「唐笠お化けか? あれは一つ目に一本足だろうが!」
間違っている!
指摘するのと同時に、剣士の腕が振るわれた。
ピョン!
傘が、軽やかに宙を舞う。
その動きは、まるでバレリーナのように優雅で――だが、確実に殺意を帯びていた。
「【洋子ちゃんの傘。『洋傘』】だとさ!」
鑑定持ちが苦々しく読み上げる。
その名に、誰もが一瞬、言葉を失った。
「シュミワル!」
女魔職Aの魔法が飛ぶ。
炎の礫――直撃!
パンッ!
軽い音とともに、傘がくるりと回転しながら魔法を弾いた。
「防御型か!」
そう思った瞬間――
バシュッ!
『腕』から放たれた『足』が、勢いよく蹴りを放つ!
「うわっ、って当たるかよ!」
男子Bが身をかわす。
だが、その直後――
ヒュンッ!
頬をかすめる冷気。
氷の矢。
「え?」
見ると、傘の『手』が男子Bに向けて開かれていた。
そこから放たれた魔法――!
「い、意外につぇえぞ。コイツ!」
攻守のバランス。
奇抜な見た目。
そして、予測不能な挙動。
最上位討伐者たちが、ついに本気になった。
足には魔職の魔法が迫り、傘には近接職の武器が殺到する。
傘が切り裂かれ、骨が折られる。
手や足のようなモノは魔法に叩かれて消えた。
登場のインパクトの割に、倒してみれば呆気ない。
傘が切り裂かれ、骨が砕け、手足のようなものが霧のように消えていく。
「見た目はキモチワルイが勝てる敵だ。いける!」
リーダーの声に、全員が頷いた。
恐怖は、戦えるという確信に変わった。
だが――
その後も、『傘』の襲撃は続いた。
その後も『傘』の襲撃が続いた。
炎の槍を投げてくる『和香子ちゃんの和傘』。
炎の槍を投げてくる『日下さんの日傘』。
水の針を降らせる『雨宮さんの雨傘』。
手足を折り畳んだ状態から突然開いてナイフを投げてくる『折笠さんの折りたたみ傘』。
蝙蝠のように飛んで音波を当ててくる『小森さんのこうもり傘』だ。
傘の種類、デザインと使う魔法属性が変わるが、対応に苦労はなかった。
一体、また一体。
色も形も微妙に違う傘たちが、次々と現れては倒されていく。
だが――
昇降口の奥。
傘たちが、ピタリと動きを止めた。
まるで、何かの到来を前に、静かに頭を垂れているかのように。
「……終わった?」
誰かがそう言いかけた、その時だった。
ギィ……ギィ……ギィ……
奥の廊下から、何かが引きずられるような音。
空気が、ひときわ重くなる。
湿気が増す。視界が霞む。
心臓の鼓動が耳に響く。
「……来るぞ」
誰かが呟いた。
その声すら、空間に吸い込まれていった。
第133話 昇降口 ~傘と制
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




