第130話 主力の到達 ~ようこそ、三途の川中学校へ~ 後編
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「チッ! 増えてやがる」
サブマスを追った先、下へと続く通路が口を開けていた。
65階層――新たな領域。
「どうせ数階だろ! 追い詰めんぞ!」
終わりは、見えている。
見えている『はず』だ。
その確信を胸に、通路を――駆け下りた。
だが、彼らはまだ知らない。
その先に待つのは、『終わり』ではなく、『始まり』だったことを。
◇
「な、なによ? これ?」
通路を抜けると、そこは――
「……校門?」
学校の入り口と思しき場所だった。
これまで通りの土の通路から、突然『広間』へと出る。
その広間には、奥へ繋がる通路。
左右には、石柱が立っていた。
そこには、こう記されていた。
『三□川中学校』
「三川中学校?」
「よく見なさい! 『三』と『川』の間に隙間があって…… 薄れててよく見えないけど。たぶん……『ず?』があるわ」
「……なら、『みかわ』ではなく――『さんずがわ』中学校、か?」
「……それ、まさか。『三途の川』なんじゃ?」
「…………」
沈黙。
空気が、ひときわ冷たくなる。
「と、とにかく進むぞ!」
校門を抜けて、通路を進む。
再び開けた場所に出た。
そこは――
「昇降口?」
靴箱がずらりと並んでいる様は、まさに学校の昇降口だ。
「写真で見たことあるわね。古臭い木造校舎だわ、コレ」
「ああ。廃校なら見たことある。今はレストランになっていたな。確かに雰囲気は似てる」
「田舎臭くてきらーい」
「コンクリートってのも味気ないと思うけど」
口々にそんなことを言いつつも、ゆっくりと踏み込んでいく。
木の廊下が続いていた。
歩くたび、ギシギシと軋む音が、妙にリアルだ。
「この雰囲気って、アレに似てない?」
「アレってなによ?」
「お化け屋敷『学校の怪談』」
あー、確かに。
全員が頷く。
「管理者がサブマスになって、『属性』が変わったんじゃねぇか?」
「それだ!」
納得して、探索が始まった。
昭和初期かと言いたくなるような。
モノクロの写真でしか知らない校舎の中を、本隊の残りは24人が歩いていく。
人のいる気配がない木造の校舎。
いたるところに『学園祭』の準備でもしているのかという飾り付けがされていた。
昇降口に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
古びた木の匂い。
湿気を含んだ埃の香りが、鼻の奥をくすぐる。
床は艶のない板張りで、踏むたびにギシギシと軋む音が響く。
左右の壁には、年季の入った下駄箱がずらりと並んでいた。
木製の扉はところどころ歪み、塗装は剥げ、角が丸くなっている。
誰かが落書きしたような跡もあるが、文字はすでに読めない。
天井は低く、梁がむき出しになっている。
その梁には、古い釘や紙片が残っていて、かつて何かが掲げられていたことを思わせる。
窓は曇りガラス。
外の光がぼんやりと差し込むだけで、空間全体が灰色に沈んでいる。
傘立てには、誰のものとも知れない傘が数本、無造作に突っ込まれていた。
靴箱には、サイズも形もバラバラな靴が並んでいる。
まるで、誰かが今もここに通っているかのように。
だが、気配はない。
静かすぎる。
音が吸い込まれていくような、異様な静寂が支配していた。
「逆に、キモチワルイ!」
「ただでさえ、木造ってコワいのに!」
女子からブーイングが飛んでいた。
舞台は、昇降口。
お出迎えするのは――傘と靴。
ありふれた、でも見慣れないものたち。
その『静けさ』が、逆に不気味だった。
傘立てには、色褪せたビニール傘が無造作に突っ込まれている。
靴箱には、サイズも形もバラバラな靴が並んでいた。
どれも、今にも誰かが履いて出てきそうなほど、整然としている。
その時だった。
ギィ……
靴箱の奥で、一足の靴が、ゆっくりと向きを変えた。
まるで――誰かが、そこに立っていて、履こうとしているかのように。
誰もいないはずの空間で、『誰か』の存在が、確かに動いた。
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