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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第129話 主力の到達 ~ようこそ、三途の川中学校へ~ 前編

1/3

 


 苦闘しつつも、主力が64階層へと戻ってきた。

 昨日よりも装備の損耗が激しい。

 なにより、人数が減っている。


「……すごい」


 誰かが呟いた。


 昨日訪れたときには、『山の中の開けた空間』――そんな雰囲気だった。


 だが今、そこにあるのは――無機質な灰色の空間。


 色がない。

 音もない。

 空気すら、冷たく沈黙していた。


 しかも、その空間は、はっきりと歪んでいた。


 床には、巨大なクレーター。

 まるで、何かが地面を抉り取ったような深い窪み。


 四方の壁も、天井も、同じように歪んでいた。

 爆風に押し潰されたような凹み。

 焼け焦げた痕跡。

 剥がれ落ちた構造材。


 それは――カルマを消し飛ばした爆発の爪痕。

 空間そのものが、痛みを記憶しているかのようだった。


 ダンジョンの内部構造が変わるほどの爆発。

 ただの攻撃ではない。

『存在を否定する力』だった。


 主力たちが、言葉を失うのに十分な威力だった。


「ははは、こいつはすげぇや。これほどかよ」


「木っ端微塵だぜ。助かりようがねぇ! アイツも、『ダンジョンマスター』もな!」


 ここに来るまで、 カルマの自爆が本当にダメージを与えたのか――そんな疑念もあった。


 だが、目の前の光景がすべてを物語っていた。


 溶けたコンクリートのような床。

 すり鉢状に抉れた巨大なクレーター。

 焼け焦げた空気の匂いが、まだ残っている。


「ドロップアイテムよ!」


 誰かが叫ぶ。

 その声に、皆の視線が一点に集まった。


 クレーターの中心。

 黒く焦げた地面に、ぽつんと残された『甲虫の角』。


 それは、ダンジョンマスターの威容を象徴する遺物。


「待て!」


 急いで回収しようとする仲間を、 一人の男が制止した。


「『鑑定』」


 スキルが発動する。

 空気が一瞬、静まった。


「……間違いねぇ。ダンジョンマスターの討伐アイテムだ!」


「うぉぉぉぉ!」

「やったぁぁぁ!」


 歓声が上がる。

 世界初の快挙――その瞬間だった。


 あとは、あれを持ち帰るだけで英雄になれる。

 名誉。

 報酬。

 未来。

 すべてが手に入る。


 我先にと、雪崩を打って突進していく。


 だが―― 誰も気づいていなかった。


 その角の影が、わずかに揺れたことに。


「ぎゃあ!」


 先頭を走っていた戦士が、仰け反った。

 地中から突き出した土の槍が、腹を貫通している。


「な! まだ敵がいるのか?!」


 慌てて足を止め、戦闘態勢をとる。

 その瞬間――空気が変わった。


 静かすぎる。

 音が、消えたような感覚。

 誰かが、息を呑んだ。


「……いる」


 一葉が、呟いた。


 クレーターの縁に、影が立っていた。

 人間のような輪郭。

 だが、何かが異様だった。


 歪んだ制服のような布。

 白く、無表情な仮面。

 目の部分だけが、黒く塗り潰されている。


 その仮面の人影が、ドロップアイテムを抱え上げた。


 そして――舞台役者のような芝居がかった礼。


 誰に向けたのかもわからない、不気味な『演出』。


 そのまま、身を翻し、奥へと消えていった。


 残されたのは、沈黙と、血の匂い。


「人間みたいだったわ」


 女子が、青褪めて呟く。


 胸元の赤いリボン。

 自分たちと同じ制服に見えた。

 しかも――女性。


 仕草や動きに、既視感がある。

 だけど、確定するにはおぼろげすぎた。


 ただただ、『自分と同じ制服』かもしれないという事実が、不安を募らせていく。


「な、なんだ? あれ?!」


 呆然と立ち尽くす主力たち。


「『サブマスター』だとさ」


 静かに告げたのは、『鑑定』を使う男だった。


「サブマスだ?! んなもんいたのか!?」


「だから、モンスターもおかしくなっていたのね?」


「支配者が変わったからってことか?!」


 属性変更や、異常な挙動。

 謎だったことが、一気に説明可能になったように思えた。


 そういうことだったのか――と、騒ぎ始める。


 だが、それは――間違い。


 彼らには、知りようもない。


 仮面の女が『何者』なのか。

『誰』なのか。

『何のために』現れたのか。


 その答えは、まだ――舞台の奥に、隠されていた。


「ここは一度引くべきじゃない?」


 それでも、冷静な者はいた。

 仕切り直そうと、提案がされた。


「ダメだ。このまま進む!」


 リーダーは、それを即座に却下した。


「なんでよ?!」


「昨日までは犠牲0だった。今日はどうだ? 明日、もう一度ここに来るのに、何人死なせるつもりだ?」


「そ、それは、でも――!」


「見たところ、サブマスは『強さ』ってより『策を弄する』タイプだ。時間をやればやるほど、新しい罠を用意して待ち構えられる。今、追いかければ、ワンチャンある! どっちを選ぶかって話だ」


 ここで引けば――最悪、何もかもが水の泡。


『ダンジョンマスター』は討伐した。

 だが、討伐部位の持ち帰りに失敗したという報告しかできない。


 全校あげての大掛かりなレイド。

 犠牲も出した。

 ここは、多少のリスクを押してでも、追跡して、これっきりのチャンスに賭けるべき――!


 それが、リーダーの判断だった。


「……わかった。 だけど、私は命をかけてまで名誉って女じゃないの。 危険だと思ったら、逃げるわよ?」


「好きにしろ」


 主力は、再び前進を開始した。


 その背中に、『勝利』と『破滅』の両方が、静かに重なっていた。



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