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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第127話 疑惑から、分断へ② 前編

2/3

 


「埒が明かない。なら、直接聞こう」


 リーダーの声は低く、しかし揺るぎなかった。

 その一言が、場の空気を一変させる。


「このままじゃ隊が崩れる。お前たちの言葉が、隊列を裂いてるんだ。ここで止めないと、レイドは失敗する。何もかもが――意味をなくすことになる」


 沙羅も、一葉も、言葉を止めた。

 その場に、緊張が走る。


 呼び出されたのは――『先駆けB班』の班長。

 泥にまみれた装備のまま、彼女は姿を現した。

 その顔には、疲労と、わずかな警戒が浮かんでいた。


「質問するわ」


 一葉が、静かに口を開いた。

 その声は冷たく、鋭い。

 まるで、水面に落ちる氷の刃。


「あなたたちは、A班が『全滅したかもしれない』と言っていたわね」


「ええ、そうです」


「でも――あなたたちが、その『噂』を流した可能性は?」


 班長の目が、わずかに揺れた。

 その一瞬の沈黙が、場の緊張をさらに高める。


「それは……違います。状況的に正しいと思われる判断です。正規の報告でしかA班のことは上げていません。だから、『噂』と言われるのは心外です」


「じゃあ、誰が?」


「それは……わかりません」


「わからない? それでよく『誤解を解きに来た』なんて言えたわね」


 一葉の言葉が、じわじわと彼女を追い詰めていく。

 声は静かでも、逃げ場のない圧力があった。


 班長の喉が、かすかに動く。

 視線が泳ぐ。

 その一挙手一投足が、疑念の炎に油を注いでいく。


 リーダーは黙って見つめていた。

 沙羅も、目を逸らさない。


 今、この場で真実が語られなければ――隊列は、完全に崩壊する。


「……やめた」


 その声は、静かだった。

 だが、誰よりも重く響いた。


 先駆けB班の班長は、俯いたまま、ゆっくり顔を上げた。

 その瞳には、疲労と諦め――そして、深い絶望が宿っていた。


「もういいわ。私はレイドを降りる」


 場が静まり返る。

 誰もが言葉を失った。


「とてもじゃないけど、命を預けられない。疑念が渦巻いて、誰が敵で誰が味方かもわからない。こんな状態で、最奥に挑むなんて――自殺行為よ」


 その言葉に、誰も反論できなかった。

 一葉も、沙羅も、リーダーですら。


 班長は、ゆっくりと視線を巡らせた。

 その目は、鋭く、冷たく、そして――痛々しいほどに傷ついていた。


「あなたも」

 一葉に向けて。


「あなたも」

 A隊長——沙羅に向けて。


「そして、あなたも」

 リーダーに向けて。


「誰も、信じられない」


 その言葉は、まるで水面に落ちた重石。

 静かに、でも確実に、隊の空気を沈めていく。


 班長は、何も言わずに背を向けた。

 足音だけが、静かに響く。


 その背中には、戦う意志も、怒りもなかった。

 ただ、疲れ切った探索者の姿があった。


 扉が閉まる音が、遠く響いた。


 その瞬間――レイドの空気が、確かに変わった。


 沈黙。

 誰もが、何かを失ったような顔をしていた。

 それが、信頼なのか、希望なのか――もう、誰にもわからなかった。


「俺たちは、進む」


 レイドリーダーの声が、静かに響いた。

 その言葉は、決意というよりも――疲れの中で絞り出された、覚悟だった。


 B班の班長が隊に戻ると、メンバーに事の次第を説明した。

 待機していたメンバーたちは、顔を見合わせ、そして――次々に頷いた。


「俺も降りる」

「もう限界だ」

「ここに残るよ」


 誰も、声を荒げない。

 怒りも、抗議もない。

 ただ、静かに、同調していく。


 B班は、ここに留まることを選んだ。

 それは敗北ではなかった。

 それは、『限界』を認めるという、勇気ある選択だった。


 レイドリーダーは、彼らの背中を見つめながら、ゆっくりと振り返る。

 そして、本隊のメンバーたちに向けて、はっきりと口にした。


「さっさと目的を果たして、地上へ戻ろう。みんな疲れているから、こうなるんだ」


 その言葉に、一葉が静かに頷いた。

 沙羅も、何も言わずに視線を落とした。


 64階層の最奥。

 そこに待つ、目的物。

 それを手に入れれば、すべてが終わる――はずだった。


 でも、誰もがわかっていた。

 この遠征は、ただの探索じゃない。

 信頼の崩壊と、感情の濁流を乗り越える旅だった。


 レイドリーダーの背中に、疲れが滲んでいた。

 それでも、彼は歩き出す。

 濁った水を踏み越えて、最奥へ向かって。



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