第126話 疑惑、そして分断へ① 後編
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「……誰も、信用できない」
一人になった瞬間、沙羅は小さく呟いた。
その声は、誰にも届かない。
でも、自分の中では――確かな響きを持っていた。
リーダー。
あれほど冷静で、公平だったはずの人。
でも今は、一葉の肩を持っている。
サブリーダーが消えた途端、態度が変わった。
まるで、最初から一葉を守るつもりだったかのように。
「本当に、彼は中立だったの?」
サブリーダー。
強引で、感情的で、でも確かに隊を引っ張っていた。
その彼女が、突然姿を消した。
そして、裏で誰かと会っていたという噂まである。
「何を隠していたの?」
そして――一葉。
冷静で、理性的で、でもあまりにも『動きが早すぎる』。
情報の流れを把握し、先手を打ち、告げ口までしてくる。
まるで、すべてを見通しているかのように。
「彼女が……ただの『隊員』とは思えない」
疑念が、胸の奥で渦を巻く。
誰が本当のことを言っているのか。
誰が、裏で何を企んでいるのか。
「私が、間違ってるの?」
そう思いたくない。
でも、信じていた人たちが、次々と『別の顔』を見せてくる。
その顔が、本物なのか仮面なのか――もう、わからない。
「……なら、私も仮面をつけるしかない」
沙羅は、静かに端末を開いた。
そして、いくつかの連絡を始める。
表向きは、進行確認。
だが、その裏には――情報の網が張られていた。
信じられないなら、確かめるしかない。
誰が敵で、誰が味方か。
その答えを見つけるために、彼女は――仮面をつけて、動き出した。
◇
「あなた、何を隠してるの?」
沙羅の声が、静かに響いた。
だがその静けさは――嵐の前の静けさだった。
「隠してる? それはあなたの方じゃないの?」
一葉は、眉ひとつ動かさずに応じる。
その声は冷たく、澄んでいた。
「私は、隊のために動いてる」
「私もよ」
「じゃあ、なぜ私の足をすくおうとしているの?」
言葉がぶつかる。
どちらも冷静を装いながら、内側では激流が渦巻いていた。
「B班と連絡を取っていたのは事実。でも、それを『裏切り』と決めつけるのは早計じゃない?」
「じゃあ、なぜ私を警戒するようなメッセージを流したの?」
「あなたの動きが不自然だったからよ」
「不自然に見せられていたとしたら?」
沈黙。
一瞬の間に、空気が張り詰める。
そこに、リーダーが割って入った。
「やめろ。今は争っている場合じゃない」
だが、その言葉に沙羅が噛みついた。
「あなたが一葉を特別扱いしているから、こうなってるの! 場を収めたいだけなら、引っ込んでいてちょうだい!」
「特別扱いなんてしていない」
「じゃあ、なぜ彼女の告白を信じて、私の報告を疑うの?」
リーダーの顔が曇る。
その隙を、一葉が補うように、静かに反撃に移る。
「私の言葉には証拠があったからよ。あなたの言葉には、ただの『警告』しかなかった」
「証拠? あなたの『涙』が証拠になるの?」
「じゃあ、あなたの『警戒心』は何の証拠になるの?」
言葉が鋭く交差する。
まるで刃のように、互いの信頼を切り裂いていく。
「もうやめろ!」
リーダーの怒声が響いた。
だが、誰も止まらない。
疑念はすでに、言葉では止められないほど膨れ上がっていた。
「誰かが仕組んでるのよ」
「じゃあ、それは誰?」
「……あなたじゃないの?」
その瞬間、空気が凍りついた。
沈黙。
呼吸すら、音を立てるのがためらわれるほどの緊張。
疑念が、ついに――『敵意』へと変わった。
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