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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第125話 疑惑、そして分断へ① 前編

3/3

 


「……帰還、だと?」


 レイドリーダーは、報告を受けた瞬間、言葉を失った。


 先駆けB班。

 先行しているはずの班が、何の前触れもなく戻ってきた。

 しかも――掲示板で噂されていた『目的物独占』の疑惑を否定するために。


「おかしい……」


 一葉が隣で呟いた。

 その声は、震えていた。

 驚きでも、恐れでもない。

 疑念だった。


「彼らが本当に濡れ衣を晴らすためだけに戻ってきたなら、もっと早く動いてるはずよ」


「それに、沙羅と連絡を取ってたのも気になる」


 一葉も、リーダーの声も低く、硬い。

 言葉の端々に、警戒と不信が滲んでいた。


「変よね。沙羅がB班の動きを個人チャットで把握してたなんて」


 沈黙が落ちる。

 二人の間に、言葉よりも濃い空気が流れた。


「……裏で何かが動いてる」


 キリトの言葉に、一葉は目を細めた。


「B班が仕掛けたのか、それとも沙羅が操ってるのか。もともとの疑惑の通り、A班が健在なのか。どちらにしても――私たちが狙われてる可能性は高い」


「真梨華が消えた直後に、これだ。タイミングが良すぎる。いや、悪すぎる」


 一葉は、スマホを握りしめた。

 画面には、B班の帰還報告と、沙羅への『警告』が並んでいた。

 それぞれが、別の発信者からのもの。


 つい数時間前まで、チャットに動きはなかった。

 全員が戦場にいるようなものだからだ。

 浮ついた噂話が飛び交う余地など、なかった。


 それが、今や――饒舌だった。

 まるで、誰かが意図的に情報を操作しているように。


「信じられるのは、もう……」


 キリトは、言葉を濁した。

 その続きを、口にすることができなかった。


 一葉は、静かに答えた。


「自分の目だけよ」


 その瞬間、二人の間にあった信頼に、うっすらと線が引かれた。

 目には見えない、けれど確かに存在する境界線。


 濁った水底に沈む真実は、まだ誰の目にも映らない。

 でも、波は――確実に、立ち始めていた。


 ◇


「……少し、いいかしら?」


 沙羅が振り返ると、そこに一葉が立っていた。


 表情は穏やか。

 声も柔らか。

 でも、その瞳だけが――氷のように冷たかった。


「先駆けB班と、連絡を取っていたそうね」


 その言葉は、水滴が静かに落ちるような響きだった。

 だが、その一滴が、確実に波紋を広げていく。


「ええ、状況確認のためよ。レイドの進行に関わることだから」


 沙羅は平然と答える。

 だが、一葉は一歩、距離を詰めた。


「状況確認、ね。じゃあ、なぜ私に報告しなかったの? 私は幹部じゃないとでも? それとも、私が『関係者』だから?」


 沙羅の眉が、わずかに動いた。

 その反応を――一葉は見逃さなかった。


「あなたがB班と連絡を取っていたこと、リーダーには伝えたわ。それに、あなたが私の動きを『警告』として他の隊に流していたことも」


 空気が重くなる。

 周囲の視線が、少しずつ集まり始める。


「何が目的だったの? 私を排除するため? それとも、あなた自身の立場を守るため?」


 沙羅は口を開きかけたが、一葉が先に続けた。


「私は、あなたを敵だとは思っていなかった。でも、あなたは私を『危険因子』と見なした。 その判断、何を根拠にしたの?」


 言葉は静か。

 だが、逃げ場のない圧力が、じわじわと迫ってくる。


「あなたの動きが早すぎるのよ。誰だって警戒する」


 沙羅の言葉は、苦しい正当化に聞こえた。

 一葉の動きが的確すぎること。

 まるで、すべてを知っていて、役を演じているような――シナリオ通りの動き。


「警戒? それって、確かな根拠があるの? それとも、ただの憶測や願望? 期待にすぎないんじゃない?」


「……誤解よ。私はただ、隊の安全を――」


「安全のために、裏で情報を操作するの? 安全のために、私を孤立させるの?」


 一葉の声が、少しだけ鋭くなった。

 それでも、感情は見せない。

 冷静に、執拗に、問いを重ねる。


「あなたが信じていたのは、誰? B班? それとも、サブリーダー? そして今――私を信じる理由はある?」


 沙羅は、言葉を失っていた。


 一葉は、最後に一歩だけ近づいた。


「私は、敵じゃない。でも、敵にされたなら――それなりの対応をするわ」


 その言葉は、静かな宣戦布告だった。


 静かな水面に落ちた一滴が、やがて濁流になる予兆。


 一葉は、背を向けて歩き出した。


 残された沙羅の胸に、冷たい波が打ち寄せていた。

 それは、罪悪感か。

 恐怖か。あるいは、敗北の予感か。



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