第124話 揺れる隊列(女小隊長A視点) 後編
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通路の奥から、足音が響いた。
それは規則的で、迷いのない音。
まるで、決意そのものが歩いてくるようだった。
「えっ、B班? 先行しているはずじゃ……」
誰かが呟く。
その声には、驚きと、わずかな警戒が混ざっていた。
現れた彼らの姿は、傷だらけだった。
装備は泥にまみれ、顔には疲労の色が濃い。
だが、その目は鋭く、何かを訴えていた。
「誤解を解きに来た」
班長が静かに言った。
その声は、怒りではなく――確信に満ちていた。
掲示板では、A班が目的物を独占しているという噂が広がっていた。
だが、それはB班の報告が間違いだったということになる。
つまり、B班が嘘をついたのではないか――という疑念。
個人チャットにも、匿名の警告が届いていた。
「A班に関連して、何かが裏で動いている」と。
その『裏』にいるのがB班ではないか、という声もあった。
「我々が黙っていたら、真実が歪められる」
班長の言葉に、周囲がざわつく。
その一言が、空気を変えた。
B班は、抗議のために帰還した。
目的はただ一つ――『自分たちが暗躍している』という濡れ衣を晴らすこと。
すでに各掲示板や個人チャットでは、 存在しないA班を隠れ蓑に、B班が独自に動いているという噂が支配的になっていた。
理由は明白だった。
どの隊よりも、B班が『目的物』に近かったからだ。
今回の探索の目的は、昨日倒された『ダンジョンマスター』が落としたであろう、ドロップアイテムの回収。
『ダンジョンマスター』はいない。
ドロップアイテムは、ただ落ちているだけ。
B班でも、取りに行ける――そう言われれば、否定は難しい。
これを否定する唯一の方法。
それが、この『帰還』だった。
誰よりも『近い』ことが、疑念の根拠になるのなら。
ならば、戻ればいい。
本隊に任せてしまえば、疑惑は払拭される。
それが、先駆けB班リーダーの考えだった。
潔白を証明するために、あえて手を引く。
それは、誇りを守るための、静かな反撃だった。
レイドの計画そのものを無視するような、大きな決断だった。
だが、それはやむを得ない選択だった。
チャット内での論争と誹謗――掲示板を埋め尽くす、怒りと疑念の言葉たち。
それらは、もはや『情報』ではなかった。
感情を煽る火種。
信頼を焼き尽くす炎。
疑心暗鬼という名の闇から逃れるには、この決断しかなかった。
だが―― その決断に至らせた、チャットと掲示板内の会話ログ。
そのすべてが、カルマの編集室で作られたものだとは、誰も知らなかった。
巧妙に仕組まれた『真実』。
誰かの手で、誰かの意図で、誰かのために。
だが、その行動が、また新たな波紋を生む。
誰が本当に裏で糸を引いているのか。
A班か。
B班か。
それとも――もっと深い闇に潜む者か。
人心は揺れる。
信頼は、崩れかけている。
そして、真実はまだ――闇の中。
もともと『真実』などないという『事実』には、誰も気付けない。
それでも、人は信じる。
誰かの言葉を。
誰かの涙を。
誰かの沈黙を。
それが、最も恐ろしい『罠』だとも知らずに。
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