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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第123話 揺れる隊列(女小隊長A視点) 前編

1/3

 

「サブリーダー、どうしたんですか? さっきまで普通だったのに……」


「連絡も取れないんですけど……まさか、何かあったんですか?」


 レイドメンバーたちの声が、次々と飛び交う。

 不安と疑念が、隊列の隙間からじわじわと染み込んでくる。


 女小隊長A――沙羅は、隊の後方からその空気を感じ取っていた。

 誰もが、何かがおかしいと気づいている。

 でも、誰も口に出せない。


 リーダーは、静かに息を吐いた。

 そして、表情を崩さずに答えた。


「体調不良だ。少し前から無理してたみたいでな。今は休養を取らせてる。連絡は控えてくれ」


 一瞬、沈黙が落ちた。

 その言葉は、あまりにも整いすぎていて、逆に不自然だった。


「えっ……でも、そんな急に?」


「急に倒れることもある。レイドの準備で負担も大きかったからな。ポーションを乱用していたようだ。度を超すと効かなくなる。今は、そんな状態なんだ。回復を優先するべきだ」


 その言葉に、メンバーたちはしぶしぶ頷いた。

 納得ではなく、沈黙の選択。

 誰もが疑問を抱えながらも、リーダーの言葉に逆らうことはできなかった。


 女小隊長Aは、リーダーの横顔を見つめた。

 その瞳の奥に、苦い決意が滲んでいるのがわかった。


 キリトは、内心で苦い思いを噛みしめていた。

 本当の理由は言えない。

 言えば、チームが崩れる。

 だから、守るしかなかった。


 秩序を。

 信頼を。

 そして――一葉を。




「体調不良、ね……」


 沙羅は、誰にも聞こえないように呟いた。

 その声には、冷ややかな違和感が滲んでいた。


 サブリーダーが、突然姿を消した。

 リーダーは冷静に「休養中」と言った。

 でも、何かが違う。

 空気が、異様に張り詰めている。


 そして―― 彼女の端末に、一通の個人チャットが届いていた。


 送信者は……サブリーダー。


『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。あなたの隊にも影響が出るかもしれない。これは警告よ。』


 その文面を見た瞬間、沙羅の中で、何かが繋がった。


 最近囁かれている、『先駆けA班』による目的物独占疑惑。

 その不自然な動き。

 サブリーダーの失踪。

 そして――一葉の行動の、リーダーへの急接近。


「……内輪もめ、か」


 呟きながら、彼女は視線を巡らせた。

 隊の中に、わずかに揺れる空気がある。

 そこに、火種を落とすのは簡単だった。


 あえて、何人かのメンバーにそれとなく話を振る。


「先駆けA班の全滅って、本当かしら?」


「サブリーダーが抜けたのって、もしかして……内部の争いだったりして」


 言葉は、あくまで曖昧に。

 確証は与えない。

 でも、疑念という種は、確実に撒かれていく。


 そしてその種は、静かに、確実に、隊列の隙間に根を張っていく。


 信頼は、音もなく崩れる。

 秩序は、内側から腐っていく。


 沙羅は、何も言わずにその様子を見つめていた。

 揺れる隊列の中で、誰が沈み、誰が浮かび上がるのか――それを見極める目だけは、曇らせないように。


 女小隊長Aは、冷静だった。

 感情ではなく、秩序のために動いている――そう、自分では思っていた。


 けれど、その目には、確かに一葉への警戒が宿っていた。

 それは、理性の仮面をかぶった本能のざわめき。


 ◇


「先駆けB班、今どこまで進んでる?」


 端末越しに連絡を取る。

 表向きは進行状況の確認。

 でも、本当の目的は――情報の裏取り。


「A班が実は健在って噂。どう思う?」


 全滅したはずのA班。

 その情報を最初に流したのは、B班のリーダーの彼女だった。

 だが今、その情報に綻びが見え始めている。


 B班の隊長は、少し沈黙してから答えた。


「……妙な点は多いわ。一番おかしいのは、スマホの通信状況。全滅してるなら『通信不能』になるはず。でも、既読にはならないのに、受信はしてるっぽいの。ひとつ残らずね」


「ダンジョンのどこかに放置されたスマホが、壊されもせず、全部生きてるってこと?」


「そういうこと」


 その言葉に、女小隊長Aの胸がざわついた。

 サブリーダーからの警告が、脳裏に浮かぶ。


『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。』


 もしも――リーダーよりも前から、一葉がA班と通じていたとしたら?


 その時だった。

 端末に、新たな通知が届いた。


 受けたのは、B班との連絡に立ち会ってくれていた小隊長B。

 そっと画面を見せてくれた。


 送信者は――一葉。


『女小隊長Aが、B班と裏で連絡を取ってます。何か探ってるみたいです。各自、気を付けて』


 その文面に、女小隊長A——沙羅は目を細めた。


 一葉が、こちらの動きに気づいている。

 そして、幹部たちに――リーダーに、告げ口をしている。


「……いきなりサブリーダー気取りね」


 幹部たちの連絡用チャット。

 本来、一葉にはアクセス権限がない。

 それなのに、彼女はそこにいる。


 サブリーダーの警告が、急に現実味を帯びてきた。

 罪を隠す者は、情報の流れに敏感だ。

 そして、疑念を潰すために、先手を打つ。


 女小隊長Aは、静かに端末を閉じた。

 冷静さの裏で、心が静かに軋む。


 疑念は、もう『可能性』ではない。

『兆し』になっていた。


 そしてその兆しは、やがて『確信』という名の刃に変わる。


 女小隊長Aは、端末を閉じた。

 そして、静かに――別のルートを開いた。


 それは、隊列の秩序を守るための、最初の『監視』だった。


 誰かを疑うということ。

 誰かを見張るということ。

 それは、秩序を守るための『必要悪』――そう、自分に言い聞かせる。


 画面に映るのは、アクセスログ。

 通信履歴。

 位置情報の断片。

 そして、非公開チャネルの動き。


「……一葉。あなたが何者なのか、確かめさせてもらうわ」


 声は低く、感情を押し殺していた。

 これは、私情じゃない。

 これは、秩序のため。


 だが、心の奥底では、別の声が囁いていた。


 ――もし、あの子が本当に『中枢』に触れていたとしたら?

 ――もし、すべてを操っていたとしたら?


 その時、私は―― 何を守り、誰を信じる?


 女小隊長Aの指が、静かに動く。

 監視は始まった。

 沈黙の中で、真実を暴くために。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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