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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第122話 崩壊する関係 後編

3/3

 


 一葉は、静かに息を吸った。

 そして、震える声で語り始めた。


「……私、横流ししてたのは事実よ。でも、それは……どうしても、どうしても必要だったの」


 キリトは、黙って耳を傾けていた。

 一葉の目には、涙が滲んでいた。

 それでも、彼女は言葉を止めなかった。


「親の借金が、もう限界だったの。あと少しで完済できるってところまで来てた。だから……一瓶でも、横流しに回したかった」


 その言葉に、キリトの胸が締め付けられる。

 一葉は、拳を握りしめて続けた。


「でも……そのせいで、必要だったはずの人にすら渡せなかった。命を救えるはずだったのに……私、渡さなかったの」


 涙が頬を伝い、制服の襟元に落ちる。

 その姿は、いつもの冷静な一葉ではなかった。

 罪を背負い、後悔に沈む、ただの少女だった。


「私が殺したようなものなの。わかってる。でも、それでも……生きるためだったの。生きるために、私は……誰かの命を見捨てたの」


 キリトは、言葉を失っていた。

 胸の奥で、何かが軋む音がした。


 真梨華の密会映像が脳裏にちらつく。

 あれは、誰かと結託して一葉を追い詰めるためのものだったのか。

 裏で仕組まれた罠。

 感情を操るための演技。


 そして今、目の前で涙を流す彼女は――自分の罪を隠さず、語っている。


 どちらが本当の顔なのか。

 どちらが、信じるに値するのか。


 キリトの心の天秤は、静かに、確かに―― 一葉の方へと傾いていった。


 そしてその傾きは、もう――戻らない。


 一葉の涙が静かに落ちる中、背後で、何かが軋んだ。


 振り返るまでもなく、そこにいたのは――真梨華だった。


 その顔は、怒りと焦りに染まっていた。

 けれど、どこか壊れたような、空虚な目をしていた。


「ふざけないで……!」


 叫びと同時に、真梨華が一葉に向かって駆け出す。

 その動きは、もはや冷静さを欠いていた。

 理性の鎖が、完全に断ち切られていた。


 武器も、証拠も、もう彼女には残っていない。

 残されたのは――暴力という最後の手段。


「あなたなんかに、負けるはずがないのよ!」


 キリトは咄嗟に一葉の前に立った。

 真梨華の手が宙を裂く。

 その勢いに、空気が震えた。


「やめろ!」


 キリトの声が、空間を貫いた。

 真梨華の動きが止まる。

 その目が、リーダーを見つめる。

 怒りと、悲しみと、そして――絶望。


「どうして……あなたまで、あの子の味方をするの?」


 問いかけは、震えていた。

 それは、恋人としての問いではなかった。

 信じていた世界が崩れた者の、最後の叫びだった。


 キリトは、答えなかった。

 ただ、静かに一葉の肩に手を置いた。

 その仕草が、すべてを物語っていた。


 真梨華は、崩れるようにその場に膝をついた。

 彼女の目には、涙はなかった。

 あるのは、敗北の色だけ。


 確実に排除できると思っていた。

 でも、気づけば、自分が排除される流れになっていた。

 そして、もう――武器は残っていなかった。


 キリトは、口を開こうとした。

 何かを言わなければ。

 このままでは、彼女が壊れてしまう。

 そう思った、その瞬間――


 真梨華が、立ち上がった。


 その動きは、ゆっくりだった。

 でも、確実だった。

 そして、彼女の目が一葉を捉える。


 その瞳には、涙も怒りもなかった。

 ただ、冷たい光だけが宿っていた。


「絶対許さない。……殺してやる」


 声は、静かだった。

 叫びでも、怒鳴りでもない。

 まるで、天気の報告でもするかのような口調だった。


 一葉は、微動だにしなかった。

 キリトも、言葉を失っていた。

 その場の空気が、一瞬で凍りついた。


 真梨華は、誰にも触れず、誰にも振り返らず、ただその場を去っていった。


 足音だけが、静かに、冷たく響いていた。


 残されたのは―― 一葉の涙。

 キリトの沈黙。

 そして、空気の中に残る――宣告の余韻。


 それは、嵐の前の静けさ。

 そして、誰かが壊れる音の、始まりだった。


 ◇


「意外だったな。ここに来るのは一葉の予定だったんだけど」


 男の声には、笑うような響きが宿っていた。

 軽薄で、どこか愉快そうな音色。


 真梨華は、あの部屋にいた。

 本隊とは、もう行動を共にできない。

 信頼も、立場も、すべてを失った。

 身を寄せられるのは、ここだけだった。


「一葉狙い、だったの?」


 驚いた様子もなく迎えた男に、問いかける。

 声は低く、乾いていた。


「どうかな? 少なくとも、今回の一手で排除されるのは一葉だと思っていたってこと」


「……そう」


 だとしたら、こいつを責めるのはお門違いだ。

 一葉を貶めるために手を貸してくれていたのは、本当なのだろうから。


「一葉を、どうしたかったの?」


「とりあえず、八つ裂きかな?」


「……!?」


 一瞬、息が詰まる。

 でも、すぐにその言葉を飲み込む。

 むしろ、それは望んでいた言葉だった。


「なら、それは――私にやらせてちょうだい。チャンスを作ってくれれば、私が……」


 殺す。


 その言葉は、口に出さずとも、空気が震えるほどの殺気が、全身から噴き出していた。


 怒りではない。

 悲しみでもない。

 ただ、存在を支えるための『目的』としての殺意。


「わかった。一葉を殺す役は、君にあげるよ」


 男の声は、変わらず軽やかだった。

 だが、その一言が、すべてを決定づけた。


 ……契約が、成立した。


 復讐という名の儀式が、静かに始まった。



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