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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第121話 崩壊する関係 前編

2/3

 


「なんであなたが彼と二人きりなの!」


 怒声が、空気を裂いた。

 その場の温度が、一瞬で変わる。


 振り返ると、サブリーダー真梨華が立っていた。

 肩を震わせ、目を見開き、怒りに満ちた顔。

 その視線は、まっすぐに一葉を貫いていた。


「答えなさいよ! 一体どういうつもりなの!」


 一葉は、ほんの少しだけ首を傾けて、微笑んだ。

 その笑顔は、挑発でも反抗でもない。

 ただ、冷たく、静かだった。


「彼が一人だったから、声をかけただけよ。それとも、誰かと話すのにあなたの許可がいるの?」


 その一言が、真梨華の怒りに火を注ぐ。

 顔がさらに紅潮し、唇が震える。

 言葉が追いつかない。

 怒りが、感情の器から溢れ出していた。


 キリトは、ただ黙って二人を見ていた。

 真梨華の怒りは、正当なはずだった。

 でも、今の彼女は――感情に飲まれていた。


 そして、脳裏には、あの映像がよぎる。

 密会。

 笑顔。

 触れ合い。

 裏切りの記憶が、彼女の怒りを正当なものではなくしていくむ。


「……落ち着けよ」


 キリトの声は低く、静かだった。

 その一言に、真梨華が驚いたようにこちらを見る。

 その目には、怒りと戸惑い、そして――恐れが混ざっていた。


「あなた……私の味方じゃないの?」


 問いかけに、キリトはすぐには答えられなかった。

 言葉が、喉の奥で詰まる。

 何を言っても、何かが壊れる気がした。


 一葉は、何も言わずにキリトの横に立った。

 その距離が、妙に自然だった。

 まるで、最初からそこにいるべきだったかのように。


 真梨華の声が震える。


「まさか……この子の肩を持つの?」


 キリトは、答えなかった。

 ただ、一葉の冷静さと、真梨華の激情を見比べていた。

 どちらが真実か。

 どちらが信じるに値するか。


 心の中で、何かが静かに傾いていくのを感じていた。

 信頼とは何か。

 絆とは何か。

 そして、今――誰を信じるべきなのか。


 答えは、まだ出ていない。

 でも、天秤は確かに、一葉の方へと傾き始めていた。


 真梨華は、震える手でスマホを取り出した。

 だが、その動きに激情はなかった。

 その目は、今度こそ――冷静だった。


「あなたが、どんな顔で彼に甘えていたっていいわ。でも――これは、どう説明するの?」


 画面に映るのは、一葉。

 制服姿で、誰かに小瓶を手渡している。

 ラベルには、見慣れた文字。


『エリクサー』


 空気が変わった。

 さっきまでの口論が、急に重くなる。

 空気が、凍りつく。


 一葉は、画面をちらりと見ただけで、すぐに視線を戻した。

 その仕草すら、計算されているように見えた。


「それ、どこから手に入れたの?」


 声は落ち着いていた。

 でも、瞳の奥に、わずかな焦りが滲んでいた。

 キリトは、言葉を失っていた。

 この場にいる誰もが、何かを隠している。


「横流しの証拠よ。あなたが何をしていたか、これで全部わかる」


 真梨華の声は、静かに、鋭く刺さる。

 怒りではない。

 確信と、勝利の予感。


 だが――

 一葉は、ほんの少しだけ笑った。


「それがどうしたの? 私が何か違法なことをしたっていう証拠にはならないわ。ただの物の受け渡しよ。それに……あなたがこれを持ってるってことは――誰かがあなたに渡したってことよね?」


 その一言に、真梨華の眉がぴくりと動いた。

 勝者の顔に、初めて影が差す。


 キリトは、二人のやり取りを見つめながら、心の中で何かが崩れていくのを感じていた。


 信じていた人が、嘘をついていた。

 でも、もう一人も、何かを隠している。

 この場にいる誰もが、完全には信用できない。


 それでも――

 一葉の冷静さと、真梨華の執着の差が、天秤をさらに傾けていく。


「……一葉、話がしたい。二人きりで」


 その言葉に、真梨華が目を見開いた。

 裏切られたときの、あの目。

 怒りと痛みが、混ざり合って濁っていく。


 一葉は、静かに頷いた。

 ただし、場所を移すことはできなかった。

 真梨華が許すはずもない。

 だから、スマホを取り出し、画面を見せた。


 そこには――先ほど真梨華が見せたのと、まったく同じ動画。


 制服姿の自分が、小瓶を手渡す瞬間。

 同じ角度。

 同じタイミング。

 同じ『証拠』。


「……あなたが持ってるものは、私も持ってる」


 その言葉は、刃だった。

『証拠』は、武器にも、盾にもなる。


 そして今、 誰が仕掛け、誰が操られているのか――その境界が、音もなく崩れていく。


「これ、私のところにも送られてきたの。匿名で、『気をつけて』って一言だけ添えられて」


 一葉の声は、静かだった。

 けれど、その静けさが、キリトの胸をざわつかせた。

 眉をひそめる。

 何かが、また崩れそうな予感。


「きっと、サブリーダーが裏で動いた結果よ。誰かと結託して、私を排除しようとしてる。 そう考えるのが自然じゃない?」


 その言葉に、キリトの胸がざわついた。

『結託』――その響きが、記憶の奥に沈んでいた映像を引き上げる。


 密会動画。

 真梨華が、顔の見えない男と接触していた、あの映像。


 甘い距離。

 笑顔。

 そして、何かを手渡していたような仕草。


 あれは、ただの裏切りじゃなかったのかもしれない。

『協力者』との接触――そう考えれば、すべてが繋がる。


「……まさか」


 思わず、声が漏れた。

 一葉が、こちらを見つめる。

 その瞳は、揺れていない。

 むしろ、確信に満ちていた。


「私を落とすために、誰かが誰かと手を組んだ。それが、あなたの恋人だったとしたら――どうする?」


 問いかけは、静かに、鋭く刺さる。

 キリトは、答えられなかった。

 言葉を探すたびに、心の中の天秤が軋む音がする。


 信じていたものが、崩れていく。

 あの笑顔も、あの言葉も、すべてが嘘だったのかもしれない。


 そして、崩れた先に――立っていたのは、一葉だった。


 彼女の冷静さ。

 彼女の論理。

 彼女の『正しさ』。


 それが、今のキリトにとって唯一の拠り所に見えた。



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