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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第120話 崩れゆく絆(リーダー——キリト視点)

1/3

 


 通知音が鳴った。

 レイド準備の連絡かと思い、何気なく開いた。

 ……それが、すべての始まりだった。


 画面に映っていたのは、サブリーダー——真梨華。

 俺の恋人。

 俺の信頼。

 俺の、すべてだった。


 けれど、その映像の中で彼女は、知らない男と密会していた。

 顔は見えない。

 でも、距離が近すぎる。

 声は聞こえない。

 でも、空気が甘すぎる。


 俺の知らない彼女が、そこにいた。


「……なんだ、これ」


 喉が詰まる。

 言葉が出ない。


 怒りか?

 悲しみか?

 感情が、追いついてこない。


 ただ、心臓が痛い。

 胸が、締め付けられる。

 呼吸が早くなる。


 映像は短い。

 でも、十分だった。

 彼女の笑顔。

 彼女の仕草。

 俺にだけ向けられていたはずのものが、そこにあった。


「……嘘だろ……」


 誰が送ってきたのかもわからない。

 匿名のアカウント。

 ただ、「見ておいた方がいい」とだけ書かれていた。


 罠かもしれない。

 捏造かもしれない。

 でも――映っているのは、確かに彼女だった。

 俺が、愛した彼女だった。


 怒りが、胸を焼く。

 裏切られたという感情が、喉の奥で膨れ上がる。

 でも、それ以上に――悲しみが、全身を蝕んでいく。


 信じていた。

 信じたかった。

 信じていたからこそ、痛い。

 信じていたからこそ、許せない。


「……なんで……」


 問いは、誰にも届かない。

 彼女にも、俺自身にも。


 思い出す。

 あの夜。


 テントの裏で耳にした、彼女の笑い声。

 冷たくて、残酷で、それでいて心から楽しそうな――あの笑い。


 あれが、彼女の『本音』だったのか?

 俺が知っていた彼女は、仮面だったのか?


「……いや、それより……」


 もう一つの感情が、胸の奥から這い上がってくる。

 恐怖。


 この映像が出回っているなら、レイドに影響が出る。

 チームが崩れる。

 俺たちが築いてきたものが、壊れる。


「……落ち着け。今は、冷静になれ……」


 自分に言い聞かせる。

 でも、心は波打っている。

 荒れ狂う海のように。


 その中心に、彼女の笑顔が浮かんでいる。

 あの甘く、残酷な笑顔が。


 嫉妬が、胸を焼く。

 疑惑が、喉を締める。

 信頼が、崩れ落ちる音がする。

 憎悪が、静かに芽を出す。


 愛していた。

 だからこそ、壊れる音が、こんなにも痛い。


 ◇


 スマホを握る手が震えていた。

 怒りでも、悲しみでもない。

 ただ、どうしていいかわからない。

 心が、空白になっていた。


「……リーダー、キリト?」


 振り返ると、一葉がいた。

 制服の襟を少し崩し、髪を揺らしながら近づいてくる。

 その瞳は、潤んで見えた。

 いや――そう見えるように、仕掛けられていた。


「私、今なら……あなたを男として見られるかも」


 囁きは、甘く、柔らかく、耳に直接触れるようだった。

 その言葉が、心の奥に沈んでいた怒りを、ほんの少しだけ引き上げる。

 真梨華の映像が、脳裏にちらつく。


 裏切り。

 密会。

 笑顔。

 そして、今目の前にいる一葉の誘惑。


「……なんのつもりだ?」


 声が掠れる。

 問いかけたつもりだったが、感情が乗らない。

 彼女の手が、そっと腕に触れる。

 その仕草が、真梨華のそれと重なった。


「慰めてほしいのは、私の方かもしれないけど……」


 言葉の意味が曖昧で、境界が揺れる。

 彼女の吐息が、肌に触れる距離。

 香りが、記憶を塗り替えていく。


 キリトは、自分の中で何かが崩れていくのを感じていた。

 信頼。絆。

 そして――理性。


 このまま流されるのか。

 それとも、踏みとどまるのか。

 選択の時は、もうすぐそこに迫っていた。


 スマホを握りしめたまま、ある名前を検索しようとしていた。

 それは、自分の理性を試す、最初の問いだった。


 でも――指は動かない。

 目は、彼女の唇に吸い寄せられる。


 問いは、徒労で終わる。

 欲望が、理性を押し倒す。


 彼女の手が、もう一度触れる。

 その瞬間、リキリトは悟った。

 自分は、敗北した。


 浅ましく。

 情けなく。

 それでも、抗えなかった。


 欲望に敗北するということが、こんなにも静かで、こんなにも悲しいとは思わなかった。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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