第118話 仮面デート ~背中合わせの抱擁~ 後編
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◇サブリーダー視点◇
証拠は手に入れた。
あとは、それを使って動くだけ。
……でも、私がすることは、ほとんどない。
すべては、あの男がやってくれる。
ええと、名前……まぁ、いいわ。
『名前』を呼ぶ機会なんてない。
どうしても必要なら…『ナイト』とでも呼べばいい。
続きをしましょうって、甘く囁いてあげた。
それだけで、がむしゃらに働いてくれる。
男って、単純で可愛い。
あの場にいた女たちも、手伝ってくれるらしい。
理由?
知らないわ。
でも、利害が一致してるなら、それでいい。
目的なんてどうでもいいの。
私の邪魔をしないなら、それでいいのよ。
……♪
個人チャットの通知が鳴った。
甘く響く、勝利のベル。
「また?」
誰か別の人かと思って開くと――『城野敦』。
ああ、そうそう。
そんな名前だったわね。
内容は……あの女の所業を告発する文面。
しかも、複数のルートで、文面を変えて拡散中ですって?
早い。
そつがない。
完璧。
私にだけ、特別に報告をくれるなんて。
「そんなに私が欲しいのかしら?」
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
指先が震える。
唇が、自然と綻ぶ。
ああ、気持ちいい。
誰かが私のために動いている。
誰かが、私の望みを叶えようと必死になっている。
その姿を想像するだけで、甘い蜜が喉を滑り落ちていくような快感。
今日は、きっと――最高の一日になる。
黒い欲望が、ゆっくりと満たされていく。
この陶酔感。
この支配の味。
もっとちょうだい。
もっと、私を満たして。
あなたの手で、あの女を沈めて。
私はただ、見ているだけでいい。
それが、私の特権。
◇カルマ視点◇
「……と、彼女は思っているんだろうな」
何代ものスマホが並ぶ机の前で、カルマは静かに、ほくそ笑んだ。
約束通りには動いている。
告発も、拡散も、演出も。
彼女の望んだ通りに。
ただ、彼女は知らない。
気づけない。
告発されているのは、一葉だけじゃない。
彼女自身も、すでに『火種』として投下されている。
絶妙な角度で影が差し、顔の見えない男との密会。
制服の襟元がわずかに乱れ、笑顔が、媚びと欲に濡れている。
その映像が、別のルートで、別の言葉を添えて、静かに送られていく。
「さて……最初に動くのは、どのプレーヤーかな?」
指先でスマホの画面をなぞる。
まるで、盤上の駒を撫でるように。
通知が弾けるたび、誰かの心が揺れる音が聞こえる気がした。
彼女の高揚も、
一葉の焦燥も、すべては盤上の熱。
それを冷やすのが、オレの役目だ。
熱を奪い、動きを止め、感情を凍らせる。
駒を撫でる指先に、誰も気づかない毒が宿っていた。
それは、甘い言葉の裏に潜む『呪い』。
それは、正義の仮面をかぶった『刃』。
それは、誰もが気づいたときにはもう遅い、『静かな死』。
オレはただ、盤面を整える。
そして、最後に王を詰む。
◇
その告発文を読んだ『誰か』が、手を震わせた。
スマホを持つ指が、かすかに痙攣する。
画面に映る文字が、視界の奥で滲んだ。
それは、盤上の熱が、初めて誰かの心を焦がした瞬間。
胸の奥に、じわりと広がる灼熱。
怒りか、恐怖か、それとも裏切られた痛みか。
感情がまだ名前を持たないまま、ただ、焼けるように疼いていた。
指先が震える。
でも、目は逸らせない。
言葉が、喉に刺さる。
心が、静かに火だるまになる。
盤面の駒が、ついに熱を帯びた。
最初の一手が、動き出す。
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