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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第117話 仮面デート ~背中合わせの抱擁~ 前編

1/3

 


『城野敦』——カルマは、サブリーダーの手を取った。

 その瞬間、指先に伝わる微かな湿り気。

 彼女の体温が、じわりと染み込んでくる。

 周囲の視線がざわめく。

 それすら、舞台装置の一部。


 彼は微笑んだ。

 その笑みは、毒の膜でできていた。


「君の瞳、星よりも綺麗だね」

 口にした瞬間、彼の心はそっぽを向いた。


 星なんて見たこともない。

 彼女の瞳は、利用価値のある器官にすぎない。

『呪い』を注ぎ込むための、ただの窓。


 サブリーダーは、カルマの腕に絡みついた。

 肩に頭を預け、吐息を混ぜるように囁く。


「こんなにドキドキするの、初めてかも……♡」


 でもその心は、冷えきっていた。

『演技力なら私の勝ちね』

 この男の目が、どこを見ていないかくらい、すぐにわかる。


 二人は、互いに愛を囁きながら、互いの心は、別の場所を見ていた。


 サブリーダーは、証拠の元データを手に入れるために。

 カルマは、サブリーダーに『呪い』を仕込むために。


 指先が触れ合うたび、毒がすり替わる。

 吐息が交わるたび、罠が深まる。


 それは、恋人のふりをした――毒と呪いの交換会。


 ◇サブリーダー視点◇


 背中を彼の胸に預け、斜め下から顔を見上げる。

 この角度。

 この距離。

 この温度。


 彼から見れば、私は『見下ろす対象』。

 支配していると錯覚するポジション。

 でも、実際に支配されているのは――彼の意識の方。


 制服の胸元から立ち上る香り。

 調香された体臭とリップの甘い匂いが、彼の鼻腔をくすぐる。

 艶を帯びた唇が、彼の作文に登場した『理想の女』を呼び起こす。

 その理想は、私が演じてあげているだけ。


 スルリと腕を伸ばし、彼の首に触れる。

 指先が、喉の脈をなぞる。

 顔が近づき、空気が重くなる。

 互いの吐息が交差する。


 その瞬間、動いたのは感情じゃない。


 計算。


 さぁ、触れてみなさい。

 この輪郭の細さが、あなたの手に収まったような錯覚を生む。

 でも、それは幻。

 握ったつもりで、握られているのはあなたの方。


 この空間に、他者の声は届かない。

 二人だけの静寂が、世界のすべてになる。

 あなたの世界は、私の演技で満たされる。


 これは、あなたが描いた夢。

 けれど筆を握っていたのは、最初から私。

 天運も舞台も、すべて私の手のひらの上。


 さぁ、今だけは、私があなたの世界のすべて。

 その錯覚に浸りなさい。

 その甘さが、後に残る苦味を際立たせるから。


 あなたが持つそのデータ、その価値なら認めてあげる。

 儀式を終えなさい。

 形だけの抱擁と、意味を持たない小さな接触。

 それで幕は下りる。


 あなたは差し出し、私は立ち去る。

 夢の終わり。

 そして、計画の始まり。


 あの女は、もう逃げられない。

 感情の泥に足を取られ、静かに沈んでいく。

 その様子を見届けるために、私は冷静さを取り戻す。


 あなたは、そのための冷や水。

 ちょうどいい温度で、私の心を冷やしてくれる。


 情熱が強ければ強いほど、私は静けさを取り戻せる。

 快楽の熱を、あなたの存在で冷ます。

 そうして、ようやく『私』に戻るのよ。


 準備は整った。

 あとは、あなたがどう『使える』かを見極めるだけ。


 一葉に届く言葉は、私の手で研ぎ澄まされる。

 道具は、磨いてこそ価値がある。

 そして、使い捨てるからこそ美しい。


 ◇カルマ視点◇


 彼女が背中を預けてくる。

 斜め下から見上げるその顔。

 オレから見れば、彼女を見下ろす態勢。


 優越感を抱かせるための演出だろう。

 だが、それはオレにとっても好都合だ。

 この角度なら、彼女の呼吸のリズム、体温の揺らぎ、瞳孔の開き具合まで、すべて観察できる。


 胸元が強調されている?

 どうでもいい。


 オレが注目しているのは、香りの変化と筋肉の緊張。

 制服越しに伝わる熱。

 髪が首元で揺れるたび、『虫』が皮膚の隙間から染み込んでいく。


 潤んだ瞳。

 艶めく唇。

 リップの香りが、記憶の底をくすぐる。


『あの作文』に描かれた理想の女。

 だが、オレにとって理想など不要だ。

 理想は、利用するために存在する。


 彼女が腕を伸ばし、オレの首に触れる。

 その指先の温度。

 呼吸が交差し、空気が重くなる。


 彼女は『仕掛けた』つもりだろう。

 だが、オレはその仕掛けの中に、さらに毒を仕込む。


 触れてみろと言われた瞬間、オレは応じる。

 ウエストの細さ?

 そんなものは錯覚だ。

 オレが握っているのは、彼女の油断と、心の隙間。


 この空間に、他者の声は届かない。

 二人だけの静寂。

 それこそが、『感染』の最適条件。


 彼女は自分が筆を握っていると思っている。

 だが、オレはその筆先に、呪いの毒を塗っておいた。

 彼女が書く言葉は、すでにオレの意志をなぞっている。


 彼女が世界のすべてになったと錯覚するその瞬間。

 オレは、目的を完了させる。


 彼女の中に残る『至福の記憶』は、後に疼く毒の種。

 甘さの中に、じわじわと苦味が広がる。


 データを渡す。

 形だけの抱擁に応じる。

 意味を持たない接触?

 いいや、それこそが意味を持つ。


 夢が終わり、オレの計画が始まる。

 彼女は泥に沈む。

 感情の沼に囚われ、動けなくなる。


 彼女の震え。

 浮ついた心。

 それを引き戻すのが、オレの役割。

 冷たい現実で、彼女の熱を封じる。


 彼女の感情が泡立つたび、オレは『感染』を強化する。

 情熱が強ければ強いほど、術は深く染み込む。

 そして、彼女は『自分』を見失う。


 準備は整った。

 あとは、彼女がどう『使える』かを見極めるだけ。


 一葉に届く言葉?

 それは、オレの計画の始まり。

 彼女の声を通して、オレの毒が広がる。


 道具は、磨いてこそ輝く。

 そして、壊れる瞬間こそが、最も美しい。


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