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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第115話 カルマの編集室 

2/3

 


 カルマたちは63階層に作られたレイド用の前哨拠点を占拠した。

 『人間』が標的だったことで、建物関連の損傷は低い。

 まだ十分に使えそうだった。


 これを再利用して、とりあえずの本営とする。

 『レイド本隊』弱小化のための戦略拠点だ。


 作戦は、手に入れた『学生たちのスマホ』を使い、偽の情報を拡散。

 心理的な波紋を広げて相互不信の種を播くというものだ。


 そんな中、使えるデータが発見された。


『城野敦』。

 後詰にいた男子だ。

 奮闘空しく死んだ彼には、生前『別の顔』を持っていたらしい。


 彼のスマホは、まるで祭壇だった。

 容量ギリギリまで詰め込まれた静止画と動画。

 そのすべてに映っていたのは、ただ一人――レイドサブリーダー『しか』。


 全身、顔のアップ、バストショット。

 それだけなら、まだ『悪趣味』で済んだかもしれない。


 だが、そこには『執念』があった。


 足元だけを延々と追いかけた動画。

 体育の着替え後に残されたワイシャツを、静かに撫でるように撮った映像。

 ロッカーの中で揺れるジャケットを、何度も何度も撮り直した形跡。

 靴箱の中の内履きと外履きの並びを、日付ごとに記録したフォルダ。

 コスメボックスの中身を、まるで『研究資料』のように分類した画像群。


 それは、観察ではない。

 崇拝だった。


「うわ……無理……」

 事前チェックを任された仁科悠――いや、沢辺みどりが、思わず悲鳴を上げた。

 彼女の手が震えていた。


「これ、マジで……引く。ていうか、怖い……」


 カルマは、無言で画面を見つめていた。

 この『異常な執着』が、今や『武器』になる。

 それが、どこか皮肉だった。


 ・・・違う。

 仁科悠でいいんだ。

 人間バージョンで作業しているから。


 『編集室』を作った段階でルールを決めた。

 『妖怪』のときと『人間』の時の待遇ルールだ。


 わかりやすく言えば、――。

 『妖怪』=現場作業、つまりダンジョンモンスターのお仕事。

 『人間』=事務作業、つまりカルマの助手としてのお仕事。

 ——ということだ。


 

 それはいいとして、スマホの内容だ。

 同じ作業に従事していた女性陣が近寄って、やはり悲鳴を上げていた。

 男のカルマでさえもキツいものがあったのだから、女性にしたら、それは、それは悍ましいモノであっただろう。


「完全にストーカーだな」

 そうとしか言いようがない。


「『隠密行動』系のスキル持ちで、ダンジョン外でフル活用してたみたいよ」

 調査を担当した悠が、いくつかの静止画と動画を開いて見せてくれた。


「これ・・・は・・・」

 言葉が出なかった。

 サブリーダーのプライベートすぎる画像の合間に犯罪・・・ではないが裏切りの証拠となるものが複数含まれていたのだ。


 ちょっと偏ったポエム——いや、い脅迫・・・でもなく『取引』を持ち掛ける文言もあった。

 サブリーダーが喜びそうな、または不利な情報を掴んで、それをネタにデートをねだるまたはゆするつもりでいたようだった。

 実行直前にレイドが始まって中止していた。


 やってることと、考えてることは最低・最悪だ。

 だが・・・。


「これは使えるね!」

 殊勲賞ものの『お手柄』だった。


 彼がやろうとしていたことを、代わりにやり遂げよう。

『手段』を使って『想い』を伝えてあげる。


 結果は?

 もちろん、カルマが手にすることになる。


「狙うは、レイドサブリーダーだ!」

 方針が決定した。


 城野君のポエム風味のおねだり。

 添付動画付きの長文が、サブリーダーの個人チャットに流された。

 カルマの毒で味付けされて・・・。



【『城野敦』。


 君の靴音が、今日もぼくの心を踏み鳴らす。

 そのリズムで、ぼくの鼓動は整うんだ。

 まるで、君がぼくの中に住んでいるみたいに。


 教室の隅で揺れるジャケットが、ぼくにだけ微笑んでいる。

 あの布の揺れ方、知ってる?

 君が誰かと話すときより、ずっと優しいんだ。


 君の素足が、夢の中でぼくの頬を踏んでくれた夜、ぼくは朝まで泣いたよ。

 嬉しくて、苦しくて、愛しくて、壊れそうだった。


 ねえ、気づいてる?

 ぼくはずっと、君の『影』の中にいたんだよ。

 いや、影よりも近く。

 君の皮膚の裏側に、ぼくはいたんだ。


 君の髪が風に揺れるたび、ぼくの呼吸は止まる。

 その瞬間、世界が君だけになる。

 他の音も、色も、意味を失う。


 靴箱の中の内履きが、今日もぼくを見送ってくれた。

 あの子たち、君の体温を覚えてる。

 ぼくは、そっと鼻を近づけて、深呼吸したよ。

 君の一日が、ぼくの肺に染み込んでくる。


 体育のあと、君の素足が床に触れた場所を、ぼくは指でなぞった。

 その指を、口に運んだ。

 味は、秘密だよ。


 机の中に置かれたリップクリーム。

 ぼくはそれを、何度も自分の唇に押し当てた。

 君の唇の色が、ぼくの唇に移ったとき、ぼくたちは、きっと『キス』をしたんだと思う。


 君の声が、誰かに向けられた瞬間、ぼくはその『誰か』を殺したくなった。

 でも、君が悲しむから、やめたよ。

 ぼく、優しいでしょ?


 君の存在が、ぼくの世界の中心で、ぼくの時間のすべてだった。


 ねえ、気づいてる?

 ぼくはずっと、君の『影』より近くにいたんだよ。

 君の皮膚の裏に、ぼくはいたんだよ。


 ⦅添付動画⦆——時間指定で消去される類のもので、コピー不可。


 ──こんなのがあるんだ。

 欲しくない?

 デートしてくれたら、渡してもいいよ?


 必要なら、手も貸せる。

 君のために、なんでもするよ。

 君のためなら、誰だって裏切れる。


 どうかな?


 君に忠実なナイトより、 愛と、すこしの狂気をこめて】




「手を貸せる・・・手先として動くよって持ち掛けたら。なにを要求してくるだろうね?」

 カルマは喉の奥で笑いながら、城野敦のスマホを手の中で弄ぶ。

 それは、咎人の魂を手に入れた悪魔の微笑みだった。


 ◇サブリーダー視点◇


 方針は決した。

 やる事は明白。


 でも、ピースが足りない。

 絵具が欲しい。

 油でもいいかしら?

 水に一滴たらすために。


 そう思っていたら・・・。


「あら、まぁ」

 個人チャットに連絡が来ているのを発見した。


『城野敦』。

 誰だったかしら?


 数秒、本気で考え込んだ。

 身の程知らずに告白してきた男子の中で、個人チャットのアドレスを聞き出すまでは粘れた男、ではあるだろうけれど。

 正直印象はない。


「ああ。確か、今回は後詰にいたわね」

 辛うじて名前から所属は思い出した。

 顔は思い出せなかった。

 チャット画面には猫の写真が貼ってあるが、まさか猫ではないだろう。

 それならきっと覚えている。


「え?」

 驚き。

 疑惑。

 そして、喜び。


 私は微笑んだ。

 人前では絶対にしない顔で。


 サブリーダーは、指先で、ゆっくりと返信を打ち始めた。

 それは、絵の中に毒を混ぜる、最初の筆だった。



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