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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第113話 崩れる戦場(鈴谷涼香視点)

3/3

 


 涼香は、叫んでいた。

 喉が裂けるほどに。

 腕が千切れるほどに、大剣を振るっていた。


「立て! まだやれる! お前ら、死ぬなよ!!」


『扇動者』のスキルが発動していた。

 仲間たちは怒りに燃え、恐怖を忘れ、ただ前へと突き進んでいた。

 それが、彼女の『願い』だった。


 諦めるな。

 立ち尽くすな。

 運命に、死に、抗え!


 ──でも、どこかでわかっていた。

 これは、限界を超えた『延命』だと。

 勝ち目なんて、もうない。

 それでも、誰か一人でも生き延びてくれたら、それでいい。


 キアゲハが現れたとき、涼香は一瞬、息を呑んだ。

 あれは、勝てない。

 そう思った。

 でも、止まれなかった。


 魔法が飛ぶ。

 敵の能力など、考えてもいない。

 思考力を奪ったのは――私だ。


 恐れることなく飛びかかる者たち。

 下から石を投げる者までいた。

 戦う以外の死も、感情も、私が奪った。


「アレって、物理攻撃しないよな……?」

 呟いた瞬間、背筋が凍った。


「マズい!」

 叫んだ。

 でも、誰も止まらない。


 魔職たちが、体中の魔力をかき集めて放つ、最後の最大火力。

 それは、彼女の『扇動』によって導かれた、自滅の光だった。


 魔法の光が空を覆った。

 その瞬間、涼香は叫んだ。


「下がれ──っ!!」


 でも、誰も聞いていなかった。

 いや、聞こえていなかった。

 彼女が『扇動』したからだ。


 そして――自分たちの最大火力が、返された。


 空が、裂けた。

 光が、反転した。

 焼き尽くすような閃光が、戦場を飲み込んだ。


 逃げ場はない。

 抵抗も、意味をなさない。


 涼香は、脱力した。

 剣が、手から滑り落ちる。

 膝が崩れ、地面に落ちた。


 私は、みんなを殺した。


 その事実が、心臓を貫いた。

 熱いはずの戦場で、涼香の中だけが、凍りついていた。


 自分の力で、仲間を殺した。

 その事実が、胸を貫いた。

 焼き尽くされる光の中で、涼香の意識は光に呑まれていった。



 焼けた空気が、肺を焼く。

 視界は、赤と黒のまだら模様。

 耳鳴りの中で、誰かの断末魔が遠くに聞こえた気がした。



 熱と光。

 魔力と物質。

 ぶつかり合った力の残滓がたゆっている。


 涼香は、立ち上がった。

 身体が勝手に動いた。

 もう、何も守れない。

 誰も残っていない。

 それでも──


「まだ、終われるかよ・・・」


 声は、かすれていた。

 叫びというには弱すぎて、呟きというには、あまりに痛々しかった。


『終わり』を認めたくなかった。

『自分の力が、仲間の命を奪った』。

 その事実が、胸を貫いた。


 筋肉は、まだ熱を持っていた。

 でも、心はもう、どこにも向かっていなかった。


 棒立ちのまま、涼香は空を見上げた。

 そこに、影が差す。


『メガネウロ』。

 あの、奇妙な飛行モンスターが、彼女を回収しに来た。


 逃げることも、抗うこともできなかった。

 いや──する理由が、もうなかった。


 涼香は、ただ運ばれていく。

 焼け焦げた戦場を、仲間たちの亡骸を、何もかもを見下ろしながら。


 焦げた肉の匂いが、風に乗って鼻を刺す。

 砕けた武器。

 焼けた制服。

 崩れた顔。

 もう、誰が誰だったかもわからない。


「……ごめん」


 誰に向けた言葉かも、わからなかった。

 カルマかもしれない。

 仲間たちかもしれない。

 あるいは、自分自身かもしれない。


 その一言を最後に、涼香の意識は、静かに、深く、沈んでいった。

 まるで、水底に落ちていく石のように。


 ◆再生◆


 暗い。

 でも、怖くはない。

 音もない。

 でも、静かすぎるわけでもない。


 涼香は、浮かんでいた。

 何かに縛られている気がした。

 でも、それが何かはわからない。


 身体は、もうない。

 痛みも、重さも、熱もない。

 ・・・でも、『感情』だけが、まだそこにあった。


「・・・終わったんじゃなかったの?」

 誰に聞くでもなく、呟いた。


 戦場は焼けた。

 仲間は死んだ。

 自分も、死んだはずだった。


 なのに、まだ『ここ』にいる。

 夢なのか。

 現実なのか。

 それすら、もうわからない。


 でも、確かに『自分』はここにいる。

 何もできないまま、ただ、存在している。


「・・・あたし、何してたんだっけ」

 問いかけは、誰にも届かない。

 でも、自分自身には、刺さった。


 守るために、強くなった。

 怒られるために、前に出た。

 誰かの盾になることが、あたしの役割だった。


 でも── 最後は、誰も守れなかった。


「・・・ごめん」


 また、その言葉が浮かぶ。

 でも、今度は少し違った。


『生き返るかもしれない』という可能性が、どこかにある。

 それが、涼香の魂を『ここ』に縛っている。


 彼女はそれを知らない。

 でも、『終わりを許されない感覚』だけが、確かにそこにあった。


「……まだ、終わらせてもらえないのか」

 その言葉に、誰かが答えることはない。

 でも、涼香の魂は、ダンジョンの深層に――留め置かれていた。


 それは、蘇生魔術やアイテムによる『保険』のようなもの。

 誰かが彼女を呼び戻す可能性がある限り、魂は完全には消えない。


 涼香自身は、その仕組みを知らない。

 ただ、『終われない感覚』だけが、静かに、深く、染み渡っていた。


 まるで、水底に沈んだまま、誰かの手が差し伸べられるのを待っているような――


 その手が、救いなのか。

 それとも、さらなる地獄への導きなのか。

 今の彼女には、知る術もなかった。



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