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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第111話 サブリーダーの独白 ~微笑みの毒~

1/3

 


 一葉の名前が出た瞬間、胸の奥がざわりと波打った。

 ずっと、この時を待っていた。

 あの『善人』の仮面に、泥を投げつける日を。


 誰も気づかない。

 誰も見ていない。

 でも、私は知っていた。

 彼女の存在は、ずっと『水面の光』だった。


 手が届きそうで、届かない。

 水面に揺れる光のように、掴もうとすればするほど、遠ざかる。

 少しだけ上にいて、少しだけ綺麗で、少しだけ『聖女』に近い。

 その『少し』が積もり積もって、今や、私の影すら映らないほど遠い。


 彼女は『作れる』。

 私は『作れない』。

 彼女は『選ばれる』。

 私は『支える』だけ。


 それが、ずっと悔しかった。

 でも、悔しいなんて言えなかった。

 だって、彼女は『善人』だから。

 誰もが信じる、『聖女一歩前』だから。


 でも――今なら、違う。


 カルマの件。

 エリクサーの件。


『渡さなかったと』いう、たった一点。

 それだけで、彼女は沈む。

 私が沈めなくても、周囲が勝手に引きずり下ろす。


 なら、少しだけ『流れ』を整えてあげよう。

 直接潰したりはしない。

 嘘だって、つかない。


 ただ、疑念を一滴。

 不信を一滴。

 それだけで、彼女の光は濁る。


 そして――その濁った水面を、私は見下ろす。

 愛する人の隣に立って。


 濁った水の底で、あの女はどんな顔をするのかしら?

 その顔を、私はずっと見たかった。


「ふふふ……」

「お、おい。どうした?」

 笑う場面か?

 ――戸惑う顔が、すぐそこにある。


 その顔。

 その困ったような目。

 ……ああ、やっぱり、可愛い。


「大丈夫。心配しないで。彼女にはきっと、誰もが納得する理由があるに違いないのですもの。そうでしょう?」

 私は、そっと胸に手を当てて、念を押すように微笑んだ。


「あ、ああ。そうだとも。そうに決まってるさ……たぶんな」

 彼は目を逸らし、歯切れの悪い声で答えた。


 ――他人から見れば、頼りないのかもしれない。

 でも、私は好き。

 その不安げな横顔も、優柔不断なところも。

 全部、全部、愛してる。


 私の、大好きな坊や。

 可愛い、可愛い坊や。


 いっぱい愛してあげる。

 いっぱい甘えさせてあげる。

 いっぱい、守ってあげる。


 だから――私の胸の中で、おやすみなさい。

 いつまでも。

 いつまでも……。


 あなたは、私なしでは生きられないのよ。

 もう、どこにも行けないの。


 ◇リーダーのおそれ◆


 サブリーダーの笑顔は、いつも通りだった。

 柔らかくて、優しくて、どこか甘ったるい。

 ……なのに、今は、ほんの少しだけ違って見えた。


 胸に手を当てて微笑む彼女の姿は、まるで『舞台の上の聖女』。

 完璧すぎる。

 整いすぎている。

 そして、どこか――冷たい。


「そうに決まっているさ……たぶんな」

 自分の言葉が、空気に溶けなかった。

 彼女の笑顔に吸い込まれず、ただ、宙に浮いていた。


 その違和感が、喉の奥に引っかかる。

 何かが、違う。

 何かが、濁っている。


 彼女の手が、自分の腕にそっと触れた。

 その瞬間――ほんの半歩だけ、足が後ろに動いた。


 無意識だった。

 でも、確かに動いた。


 彼女は気づいていない。

 ……いや、気づいていないふりをしている。


 その可能性が、胸の奥に冷たい波紋を広げていく。

 一滴、また一滴。

 静かに、確実に、彼の中に『冷たい水』が流れ始めていた。


 それは、恐怖か。

 それとも、罪悪感か。

 あるいは――まだ名もない、終わりの予感か。


 ◇サブリーダー◇


 彼の足が、ほんの半歩だけ後ろに動いた。

 その瞬間、空気がわずかに揺れた。

 彼は、気づいていないふりをしている。


 でも、私は知っている。

 彼は、確かに『感じた』のだ。


 私の笑顔の奥にある、温度のない何かを。

 言葉の端に滲んだ、意図された冷たさを。

 そして──私の『意図』そのものを。


 けれど、それでいい。

 気づいても、動けない。

 気づいても、逃げられない。


 だって、彼は『私の坊や』。

 私の腕の中でしか、呼吸できない。


 だから、毒の種類を変えよう。

 彼を傷つけないために。


 強すぎれば、彼まで壊れてしまう。

 弱すぎれば、一葉は沈まない。


 必要なのは、『彼が納得できる濁り』。

「仕方ない」と思える程度の毒。

 それでいて、確実に、彼女の光を曇らせるもの。


 たとえば──「彼女は迷っていた」「彼女は判断を誤った」「彼女は、誰かに止められていた」


 そう、『理解できる罪』。

 それなら、彼は私を責めない。

 むしろ、私を頼る。

 そして、私の隣に立つ。


 ふふ。

 この流れは、私のもの。

 彼も、彼女も、みんな私の支配する海の中。


 私は、ただ『曇らせる』だけ。

 静かに。

 確実に。


 ──その時、ふと目に入った。

 個人チャットの通知。


『城野敦』……誰だったかしら?



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