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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第110話 最下層の討伐者たち⑦ ~沈黙の罪~ 後編

3/3

 


「は?」 「へ?」


 リーダーとサブリーダーが、同時に声を漏らす。


「今、ダンジョン内で一番『お宝』に近い位置にいる・・・いてもおかしくないのが、先駆けA班ってわけ」

 リーダーAの声には、かすかな怒気が混じっていた。

 彼らはメインルートの露払いを任されていた。

 最前線を走っていたのは、間違いない。


「だ、だけど・・・」

 サブリーダーは視線を泳がせる。

 疑念が、じわじわと胸を締めつけていく。


「そうか。なるほどな」

 リーダーの目が、氷のように冷たく光った。


「な、なにが『なるほど』なのよ!?」

「・・・あいつらのミスだ。属性の反転を伝えてきた『方法』と『タイミング』を思い出せ。通話じゃなく、曖昧なテキストで送ってきた。あれが、もし『わざと』だったとしたら?」


「・・・あっ」

 サブリーダーの顔から血の気が引いた。


 あの時、属性反転の報告が遅れたせいで、複数の班が大きな被害を受けた。

 進行は遅れ、戦力は削られた。

 だが、もしそれが『事故』ではなく、『計画』だったとしたら――?


「う、裏切り・・・? なんで・・・?」

 可能性は理解できる。

 だが、動機が見えない。

 なぜ、仲間を犠牲にしてまで、そんなことを?


 沈黙が落ちた。

 だがその沈黙の奥で、何かが確かに軋んでいた。

 信頼という名の鎖が、音もなくほどけていく。


「このままでも、『ダンジョンマスター』初討伐の栄誉は全校生徒のものだ。『レイド』なんだから、個人のものにはならない。・・・はずだった」


 リーダーは、言い聞かせるように呟いた。

 目立つ者と、そうでない者。

 それは仕方のないこと。

 だが、裏切りを選ぶほどの動機があるとは思えなかった。


「――不信感」

 リーダーAが、ぽつりと呟いた。

 そして、スマホの画面を差し出す。


 そこには、雑談掲示板のログが並んでいた。



『レイド本隊は俺たちを見捨てるかもしれない』

『例のアイツ、助ける手だてはあった。なのに、平然と殺している』

『エリクサー、あれ一本与えておくだけでいい』

『なんで渡してないの?』

『って言うか渡してるんじゃない?』

『だったらそう言うだろ。人一人生贄にしたってことで動き鈍ってるやつ、普通にいるし』

『なら、なぜ?』

『だから・・・本隊の奴らだけが生きて帰って、金も名誉も独占。俺たちは無念の死ってことじゃねぇのかってこと!』

『一般の生徒は皆殺しってか?!』

『あ、あり得るかも。今回の報酬と影響は莫大だし!』

『……』

『……』

『おい。黙り込むなよ。頼むから!』

『……』

『……』

『おーい?!』


 その沈黙は、ただの『無言』ではなかった。

 言葉を失ったのか、あるいは・・・口を閉ざすよう命じられたのか。


 リーダーの背筋に、冷たいものが走った。

 誰かが、すでに『情報』を操作している。

 それは、外か。

 中か。

 あるいは、すぐ隣か――。




「エリクサー・・・そうか、確かに。クソっ!」

 リーダーが拳を握りしめた。 骨が軋む音が、静かな空気を裂く。


 言われてみれば、そうだ。

『ダンジョン内』に限られるが、人は――死から戻れる。

 たった一本のエリクサーで、命は繋がったかもしれない。


『アイツ』に、それを持たせていれば。

 全員、生きて帰れたかもしれないのに。


 なのに――なぜ、誰も渡さなかった?

 なぜ、誰もその可能性を口にしなかった?


 自分が忘れていたのは、まだ理解できる。

 エリクサーは、あまりに高価で、攻略組の自分ですら、そう簡単に手に入れられる代物ではなかった。


 だから、無意識に『選択肢』から外していた。

『あれは万一の備え』。

 そして、自分の役割は『万一を起こさないこと』。

 ――だから、気づかなかった。


 だが。


「・・・教師どもは? それを作れる『聖女一歩前』、一葉は?」

 声が震える。

 怒りか、悔しさか、それとも――恐怖か。


「俺は、忘れていた。でも、あいつらは違う。作れる者がいて、持っている者がいて・・・それでも、誰も渡さなかった。それは、『選択』だ。見殺しにするという、明確な選択だ!」


「た、高い薬だし・・・『アイツ』には買えないってことじゃ・・・?」

 サブリーダーの声は、かすれていた。


「レイドの予算で考えれば、エリクサーとはいえ一本なんて端数だ!」

 リーダーの声が、鋭く空気を裂く。


 確かに、個人では手が届かない。

 だが、266人が参加する国家級レイドの予算から見れば、それは『おまけ』のような金額にすぎない。


 成功すれば、『アイツ』にも報酬は入る。

 その金で、いくらでも買えたはずだ。

 いや、皆で少しずつ出し合えば、すぐにでも用意できた。


 手段は、いくらでもあった。

 それでも、誰も動かなかった。


 ――気づかなかったのではない。

 気づいていたのに、黙っていたのだ。


 エリクサーがあれば、犠牲はゼロだった。

 ただ、『その未来』を選ばなかっただけ。


『なぜ気がつかなかったか』――その問いを、彼は口にしなかった。

 それこそが、彼の『人間性』だった。

 自省の欠如。

 怒りの裏に隠された、思考の停止。


 気づく機会は、いくらでもあった。

『カルマを爆弾にする』と聞いた瞬間。

 その力を利用する前に、助ける方法はないか? と考えていれば、『エリクサー』という答えは、すぐに浮かんだはずだった。


 一葉――『聖女一歩手前』と呼ばれる彼女とは旧知の仲。

 毎日顔を合わせ、会話もしていた。

 調薬中に訪ねたこともある。

 材料採取のクエストも受けた。

 それでも、思い出さなかった。


 たった一つの条件。

『カルマを助ける』という視点を持っていれば。

 それだけで、すべては変わっていた。


 つまり――彼自身が、カルマを『人』として見ていなかった。

 それに尽きる。


「あいつが黙っていたせいで、アイツは死んだ。俺たちは、仲間を爆弾にしてしまった。  その罪を、俺は背負う。だが・・・あいつは、裁かれるべきだ」


「・・・そうね。とりあえず問い質す必要はあるわ」

 サブリーダーが、何かを思案しながら深くうなずいた。


「え? そ、そっち?」

 リーダーAが慌てる。

 今、優先すべきはA班の動向確認ではないのか?


「A班の追及は無理だ。ここから追いつくには、走り続けるしかない。現実的じゃない」

 焦っても、意味はない。

 モンスターの襲撃もある。

 それが、冷静な判断だった。


「・・・あ、ああ。そ、そうなるのか」

 リーダーAは、現実の壁に押されるように、言葉を引っ込めた。


「とりあえず、一葉には私が訊いてみる」

 サブリーダーが申し出る。


「あー。うん、そうだな。あいつとは幼馴染だ。俺だと押し切れないか、引きすぎるかだな」 リーダーは、難しい問題から一歩引いた。

 剣で斬り捨てればいいわけではない問題には、 挑みたくない。


 それもまた、彼の『人間性』だった。

 英雄の仮面の下にある、凡人の弱さ。

 その弱さが、静かに、確実に、レイドの運命を揺らしていた。



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