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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第109話 最下層の討伐者たち⑦ ~沈黙の罪~ 前編

2/3

 


 レイド本隊。

 かつては96人の精鋭が揃っていた。


 今、その姿を確認できるのは、本隊の24人と、先駆けB班の5人だけ。

 残りの者たちは、誰もその行方を知らない。


 ――だが、彼らはまだ気づいていない。

 自分たちが、すでに『最前線』に取り残されていることに。



「なんか、手ぇ抜いてんな。・・・まあ、いいけどさ」

 スマホのチャット画面を開いたレイドリーダーが、ぼそりと呟いた。


 先駆け各班からの状況報告。

 本隊の戦力を無駄にしないため、逐一の報告を義務づけていた。

 敵を確実に排除してから進む。

 それが、このレイドの鉄則だった。


 だが、ここ数日、チャットに届くのは「接敵」「撃破」「進行中」――そんな、血の通わない短文ばかり。


「いいんじゃない? 便りのないのは無事な証拠ってやつでしょ?」

 サブリーダーが、冗談めかして笑いかける。


 地上に戻れば婚約する予定の二人。

 その距離は、戦場に似つかわしくないほど近い。


 けれど、彼らは知らない。

 その報告文が、すでに死者の指で打たれたものであることを。


 カルマは、回収したスマホを器用に操っていた。

 指紋認証など、彼にとってはただの形式にすぎない。

 ――遺体から剥がした指先が、まだ温かいうちに済ませればいい。


「・・・そうだな」

 何かが引っかかるように、レイドリーダーは眉をひそめたが、すぐにその違和感を飲み込んだ。


「それよりさ! 私たち、帰ったら婚約でしょ? そうだよね?」

 何度も交わした約束。

 けれど、サブリーダーの声には、かすかな不安が滲んでいた。


 このレイドが終われば、彼は『英雄』になる。

 そして英雄には、必ず『影』がつきまとう。


「すぐってわけじゃないぞ。犠牲者への哀悼が先だ。世間がそう求める」

 彼はそう言いながら、アイテムボックスに忍ばせた『弔文』の存在を思い出す。

 ――すでに、誰が死ぬかを知っている者の準備だった。


「ああ、『アレ』のことか。でも、これだけの規模のレイドで、世界初の『ダンジョンマスター』討伐よ? 誰も文句言えないと思うけど」

 サブリーダーは、少し誇らしげに言った。


「・・・自分が当事者ならな。違う学校で同じことして、そこのリーダーとサブリーダーが『婚約します』とか発表したら。どうする?」

 リーダーの声は、静かに冷えていた。


「・・・っ。ゴシップネタ、流しまくるわね。不適切な関係だとか、そんな感じの」

 サブリーダーは、言いながら自分の言葉に寒気を覚えた。


「そういうことだ」

 リーダーは、感情を見せずに言い切った。


『探索者』同士の連絡掲示板。

 そこに流れる情報は、真実よりも『面白さ』が優先される。

 誹謗中傷は日常茶飯事。

 英雄は、いつだって『叩かれる側』になる。


 今はまだ、外部との接続は遮断されている。

『ダンジョン』内では、秘密保持のために通信は完全にロックされる。

 スマホ事業者は、この産業最大のスポンサー。

 その管理体制は、まるで監獄のように厳格だった。



「ちょっと、なんか変な話になってるよ?」

 二人だけの会話に割り込むように、別の女が現れた。

 このレイドで合同パーティを組んでいる、リーダーA。


『本隊』は四つのパーティで構成されている。

 彼女は、そのうちの一つを率いるリーダーの一人だった。


「変な話?」

 サブリーダーは眉をひそめる。

 ダンジョン内では外部通信は遮断されている。

『変な話』が入ってくる余地など、ないはずだった。


「待機ばっかで退屈だからさ。冷やかしで、個人チャットに愚痴を一斉送信してみたの。そしたら、返事が来たのよ」

「・・・ああ、そういうことか」

 ダンジョン内、しかも十階層以内なら通信は可能。

 ――カタログ上は、だ。

 実際には、五階層を超えると通信はほぼ途絶する。


「で、問題はその内容よ」

 リーダーAは声を潜め、顔を寄せる。


「先駆けのA班。全滅したって言われてるけど、実は無事って話なの」


「? それって、いいことじゃない?」

 サブリーダーは首をかしげる。

 犠牲者がいないなら、喜ぶべきことのはずだ。


「・・・いや。もしそれが本当なら、『いいこと』ではないぞ」

 レイドリーダーの声は、低く、重かった。


「え? なんでよ?」


「考えてみろ。自分たちが『全滅した』って噂されてるのに、無事なら何かしら反応するはずだろ?」

「それこそ、戦闘中で返信できないとか」

「ずっとか? スマホを見る暇もなく? そんなに戦闘してるなら、『無事』なわけがない。  だが、もし本当に全滅してるなら、『実は無事』なんて情報が出るはずがない」


 沈黙が落ちた。

 情報の矛盾は、何かが『狂っている』証だった。

 そしてその『何か』は、すでに彼らのすぐそばにいるのかもしれない。


「で、これよ」

 リーダーAがスマホを突き出した。

 画面には、たった一行のメッセージが表示されていた。


『A班の奴ら、先行してお宝独占する気だぞ!』



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