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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第107話 ひとり ~そして、ひとり~ 後編

3/3

 


「・・・なんで」

 霞の声は、風に溶けていく。


「逃げたはず、なのに。なんで、ここにいるの」

 風は答えない。

 雷も沈黙している。

 ただ、屍たちの表情が、霞の心を刺す。


 わたしが呼び戻した?

 風が・・・?

 それとも、知らない間に追いかけていたのだろうか?

 置き去りにしていった彼らを?


 恐怖。

 後悔。

 憎悪。

 そして──罪悪感。


 彼女を差し出したはずの仲間たちが、なぜか彼女のそばで、息絶えていた。

 まるで、逃げ切れなかったかのように。

 まるで、彼女の力が彼らを呼び戻したかのように。

 まるで・・・きっと・・・おそらく。


 霞の魂は、風の中で震えた。

「・・・あたしが、やったの? この力が、あたしの意思を超えて・・・」


 霞は、目を閉じた。

 風が頬を撫でる。

 雷が、胸を静かに叩く。

 それは、答えではなく、肯定だった。


 ──葉隠霞。 肉体は崩れた。

 でも魂は、まだここにある。

 力の残滓に囚われながらも、その中心に、彼女の『意志』が残っていた。


 屍の中で、風が吹いた。

 雷が、空を裂いた。

 そして、霞はその中心で、まだ存在していた。


 ──風が、問いかけた。

「まだ、戦えるかい?」


 その声は、誰のものでもなかった。

 霞の魂に、直接響いた。

 それは、彼女自身の問いだった。


 霞は、ゆっくりと目を開けた。

 視界はまだぼやけていた。

 けれど、その奥にあるものは、はっきりと見えていた。


「・・・わかんないよ」


 霞は、かすかに笑った。

 それは、涙のにじむ笑みだった。


「でも・・・やらなきゃ、いけないんだろ?」


 風が、そっと吹いた。

 雷が、静かに鳴った。


「だったら、もう一度・・・あたしの名前で、立たせてよ」


 風が、彼女の魂を包む。

 雷が、彼女の心を貫く。


 ──葉隠霞。

 その名が、再び風に刻まれた。

 その名が、再び雷に焼き付けられた。


 そして、崩れた肉体の中で──新たな『器』が、静かに形を取り始めていた。


「相手が、人間でも?」


 その問いに、霞は一瞬だけ黙った。

 でも、それは『ためらい』ではなかった。

 ただ、言葉を選んでいただけ。


「かまわないよ。モンスターも、人間も・・・同じだ。違いなんて、ないさ。だって、あたしを差し出したのは『人間』だった。壊したのも、裏切ったのも、『人間』だった」

 風が、彼女の言葉を抱きしめるように吹いた。

 雷が、彼女の魂を震わせるように鳴った。


「だったら、あたしは・・・誰であろうと、壊すだけだよ」

 その瞬間、風が彼女の魂を包み、雷が彼女の形を再び描き始めた。


 ──葉隠霞。

 人でも、妖でもない。

 ただ、力そのものとして、再び戦場に立とうとしていた。

 そして、風の向こうで誰かが静かに囁いた。


「ようこそ、こちら側へ」


 ──風が、静かに吹いていた。

 雷は、遠くで鳴っていた。

 葉隠霞は、戦場の残響の中で立ち尽くしていた。


 力は、彼女の周囲に渦巻いている。

 風は、彼女の髪を逆立て、

 雷は、彼女の皮膚の下で脈打っている。

 でも──それは、彼女のものではなかった。


 魂は、疲弊していた。

 戦うたびに、削られていく。

 怒り、後悔、快感、恐怖── そのすべてが、力に喰われていく。

 彼女は、力を振るうたびに、『自分』が少しずつ遠ざかっていくのを感じていた。


 でも、止められない。

 止まれば、壊れる。

 進めば、削れる。

 その葛藤が、彼女の魂を蝕んでいく。


「いつか・・・この力を、従えられるのかな。それとも、あたしが呑まれるのかな」

 風が、そっと頬を撫でた。

 が、胸の奥で静かに鳴った。

 それは、答えではなく、問いの余韻だった。



 ──『葉隠かすみ』。

 魂と力が乖離したまま、戦いの中で揺れ続ける存在。


 その歩みは、まだ終わらない。

 風は、彼女の名を忘れていない。

 雷は、彼女の心を見つめている。


 ◇


「また、横にいてくれるかな?」


 記憶の回廊を抜けた先。

 人とそうでないモノの境の場。

 死んだはずの『彼』がいた。


『天狗』として、立ち上がったかすみに問いを投げかけてくる。

 それは、いつか、カルマが聞き損ねた問いだった。


「・・・私に、焼かれたいのかよ?」

 軽く上げられた腕、掌の上で雷が爆ぜた。


「オレを二度、殺すことに耐えられるならどうぞ」

 軽く腕を拡げるカルマ。


 かすみは、しばらくカルマを見つめていた。

 雷の熱が、掌から静かに消えていく。


「・・・・・・」

 かすみは腕を下ろした。


 カルマの横に並んで立つ。

 なぜか、『風』と『雷』も隣りにいる気がした。


 誰かと並ぶことができると、初めて信じられた瞬間だった。



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