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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第106話 ひとり ~そして、ひとり~ 前編

2/3

 


 ──風が、止んだ。

 雷が、沈黙した。

 哄笑は、空に吸い込まれ、跡形もなく消えた。


 葉隠霞は、立っていた。

 戦場の中心で、ただ一人。


 足元には、砕けた羽根。

 焼け焦げた甲殻。

 裂かれた刃の破片。


 敵の姿は、もうない。

 仲間の声も、どこにもない。

 風は、彼女の周囲をかすかに流れていた。

 それは、ただの空気の動き。

 熱を奪い、静かに通り過ぎていくだけの、無機質な流れ。


 霞の手には、まだ雷の残滓があった。

 指先に残る微かな痺れと、焦げた匂い。

 団扇は、地面に落ちたまま、乾いた音を立てて転がっている。

 肌には、風の痕跡のような痕が残っていた。

 赤く、熱を帯びた線が、腕から肩へと走っている。


「・・・終わった?」


 その声は、かすれていた。

 誰に向けたものでもない。

 ただ、空気に溶けていくように。


 返事はない。

 風は吹き抜けるだけ。

 雷は、もう音を立てない。


 霞は、ゆっくりと周囲を見渡した。

 誰もいない。

 敵も、仲間も、誰も。


「・・・あたし、ひとりか?」


 その言葉も、風にさらわれていく。

 胸の奥で、雷のような鼓動が静かに響いていた。

 それは、まだ終わっていないと告げるようで、それでも、何も始まらないままだった。


 力は、まだ霞の中にあった。

 だが、それを向ける先がない。

 怒りも、恐怖も、歓喜も、すべてが行き場を失い、霞の中で渦を巻いていた。


 彼女は、立っていた。

 風の中で。 雷の余韻の中で。

 そして、孤独の中心で。


 ──葉隠霞。

 その名を呼ぶ声は、もうどこにもない。

 ただ、霞の中にだけ、その名が残っていた。


 そして、静寂の中で──霞は、初めて『自分の声』だけを聞いた。

 それは、風でも雷でもない。

 誰かの囁きでもない。

 ただ、自分の中から響いてくる、荒く、乾いた、知らない声だった。


「・・・これが、あたし?」


 その声に、答える者はいなかった。


 ──肉体は、もう形を保てなかった。

 皮膚は裂け、骨は軋み、風紋は暴走し、雷紋は焼き尽くした。

 葉隠霞の身体は、崩れ落ちていた。


 けれど──力は、まだそこにあった。


 風が、彼女の周囲を巡る。

 それは、もはや空気の流れではなかった。

 霞の『気根』——根幹そのものが、空間に染み出していた。


 雷が、地面を這う。

 それは、もはや電気ではなかった。

 霞の『怒り』と『願い』が、形を変えて残っていた。


 彼女の肉体は、崩れた。

 だが、彼女の『存在』は、まだ消えていなかった。


 ──霞の名を、誰かが呼んだ。


 遠くから、かすかな声。

 それは、風に乗って届いた。

 雷の残響に混ざって、霞の『耳』に届いた。


「・・・かすみ」


 その瞬間、風が揺れた。

 雷が、脈を打った。


 崩れた肉体の中で、何かが震えた。

 それは、霞の『意識』だった。

 まだ、そこに残っていた。

 まだ、『名前』を覚えていた。


「・・・あたし・・・」


 風が、彼女の名を思い出す。

 雷が、彼女の心を探し始める。


 ──葉隠霞。

 その名が、もう一度、風に刻まれた。

 その名が、もう一度、雷に焼き付けられた。


 そして、崩れた身体の中で──霞は、もう一度、目を開けようとしていた。


 風は、彼女の名を囁き続けていた。

 雷は、彼女の心を離さなかった。

 魂は、肉体を離れながらも、力の残滓に吸い寄せられていた。


 霞は、意識の深淵で目を開ける。

 そこは、風と雷の渦の中。

 彼女の『存在』だけが、そこに浮かんでいた。


 ふと、視線を巡らせる。

 ──屍。

 無数の屍が、風に晒されていた。

 敵のものだけではない。

 ──仲間たちも、そこにいた。



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