表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

245/381

第105話 風雷の残響 ~吹き返し~ 後編

1/3

 


 ──風が、咆哮した。

 雷が、地を裂いた。

 葉隠霞の周囲は、もはや嵐だった。


 敵の羽音は、風に引き裂かれ、仲間の悲鳴は、雷鳴にかき消された。

 地面が割れ、空が軋む。


 霞の目は、ただ前を見ていた。

 その先にあるのは、敵でも仲間でもない。

 ただ、『壊すべきもの』という認識だけ。


「まだ・・・ある」


 霞は、自分の胸に手を当てた。

 鼓動が、雷のように打ち続けている。

 風が、内側から吹き荒れている。

 骨の隙間をすり抜け、血管の中を駆け巡る。


「まだ、奥がある。まだ、出してない。まだ、『あたし』は全部見せてない」


 その言葉は、誰に向けたものでもない。

 ただ、自分の奥底に眠る『何か』への呼びかけだった。


「出てきていいぞ。狂ってもいい。壊れてもいい。だって、あたしは──」


 雷が、彼女の背から噴き出す。

 風が、彼女の足元を巻き上げる。

 髪が逆立ち、赤と金が炎のように燃え上がる。


「これが、あたしの『本当』なんだろ?」


 その瞬間、彼女の瞳が変わった。

 赤の中に、金の閃光が走る。

 風紋が、肌の上で踊り、雷紋が腕に刻まれる。


 ──そして、霞は笑った。

 その笑みは、もはや人のものではなかった。

 喜びでも、怒りでもない。

 ただ、力に満たされた者だけが浮かべる、無垢な笑み。


「さあ、全部壊そうか」


 団扇が、彼女の手に戻る。

 だが、それはもはや『武器』ではなかった。

 彼女の意思を具現化する、『風雷の核』だった。


 敵が怯む。

 羽音が乱れ、群れが空中で足踏みする。

 カマキリの刃が震え、蜂の針が狙いを失う。


 仲間が、言葉を失う。

 誰もが動けない。

 霞の背中を見て、ただ立ち尽くしていた。


 でも霞は、笑っていた。


「全部、出してやる。風も、雷も、あたしの狂気も──全部だ」


 ──覚醒への二歩目。

 それは、彼女が『人であること』を手放し始めた瞬間。


 風が、彼女の名を呼んだ。

 その声は、耳ではなく、骨の奥に響いた。

 雷が、彼女の心を焼き始めた。

 その熱は、感情を溶かし、形を変えていく。


 ──風が、笑った。

 ──雷が、歓喜した。


 葉隠霞の中で、何かが『這い出てきた』。


 それは、ずっと奥に潜んでいた。

 彼女が人であるために、乙女であるために、決して触れなかった『底』。


 常識。

 理性。

 躊躇い。

 それらは、風の刃で切り裂かれ、雷の衝撃で粉砕された。


 霞の瞳は、もう『霞』ではなかった。

 赤と金が混ざり合い、瞳孔が細く縦に裂ける。

 その奥で、狂気が笑っていた。


「──あはっ」


 最初は、小さな笑いだった。

 喉の奥で転がるような、くぐもった声。

 でもそれは、風に乗って広がっていく。

 雷に乗って、戦場を震わせていく。


「アハハハハハハハッ!!」


 哄笑が、空を裂いた。

 風が共鳴し、雷が空を駆ける。

 その音は、もはや自然のものではなかった。


 敵が怯む。

 仲間が凍る。

 誰もが、その笑いに『人の気配』を感じなかった。


 霞の中で、何かが目を覚ました。

 それは、風の中に潜んでいた『声』。

 雷の奥に眠っていた『意志』。


 笑っているのは、『私』?

 それとも、風の中の『誰か』?


 霞は、自分の中にいる『もう一人』の存在を感じていた。

 それは、彼女の力であり、彼女の影。

 そして今、彼女の顔をして、彼女の声で、笑っていた。


 一瞬だけ、霞の中に浮かんだ疑問。

「これは、本当に『あたし』なのか?」


 ──それはすぐに、風に吹き流された。

 まるで、そんな問いは『不要』だとでも言うように。


 霞は、舞った。

 葉団扇は、もはや武器ではない。

 それは、風と雷を呼ぶ『呪具』となった。

 彼女の手の動きに合わせて、空気が裂け、雷が地を駆ける。


 一振りで、蜂の群れが散り、カナブンの羽が千切れ、カマキリの刃が空中で砕けた。


 ──蹂躙。


 それは、戦いではなかった。

 それは、祭りだった。

 狂気の祭り。

 風と雷が踊り、哄笑が吹き荒れる。


「これが、あたしだよ。これが、葉隠霞の『気根』だ。見てろ。全部、壊してやる」


 それは、彼女の奥底に眠っていた『根』のような力。

 風と雷の源であり、彼女の本質を支える『気の根』。

 霞は、それを今、解き放とうとしていた。


 ──風が、彼女の名を忘れようとしていた。

 その囁きは、もう「霞」とは呼ばなかった。

 ただ、力の渦の中心にある『何か』として、彼女を認識し始めていた。


 ──雷が、彼女の心を焼き尽くそうとしていた。

 感情も、記憶も、願いも。

 すべてを焼いて、ただ『力』だけを残そうとしていた。


 狂気か、霞か。

 その境界は、もう風に流されていた。


 風は、もう背を押してくれない。

 今は、彼女の足元を試すように吹いている。

「お前は、どこまで行ける?」

「お前は、どこまで壊れる?」


 霞は、答えなかった。

 ただ、団扇を振る。

 風が唸り、雷が咆哮する。


 ──その瞬間、遠くで誰かが叫んだ。


「かすみっ!」


 風が、わずかに揺れた。

 雷が、ほんの一瞬、脈を止めた。


 霞の瞳が、微かに揺れた。

 その奥に、まだ『誰か』が残っているのかもしれない。



読了・評価。ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ