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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第98話 最下層の討伐者たち⑥ 前編

3/3

 


 後詰の無力化は、予定通り終了した。

 残るは、先駆け5パーティと本隊のみ。


 最高戦力である本隊と相対する前に、彼らをできるだけ『丸裸』にしておきたい。

 だから次に狙うのは、先駆けだ。


 ただし、狙うのは『主役』ではない。

 メインルートを進む者たちではなく、その左右を進み、モンスターを面制圧する『舞台袖の者たち』。


 カルマは、ひとり呟く。


「右——右翼から潰すとしよう」


 向かわせるのは、64階層在来のモンスター(改)。

『改』の意味は、言うまでもない。

 カエル女を生み出した『再生虫』を、残りのモンスターすべてに仕込んだ。

 それを、ぶつける。


 どのくらいのダメージまで耐えられるかは、わからない。

 だが、これまでと違うことは確実だ。


「舞台は整えた。役者もやる気十分。さあ、開演だ」


 カルマの声は、どこか楽しげだった。

 それは、誰かの悲鳴を『演出』と呼ぶ者の声。

 こうして、『レイド失敗』という舞台の、何幕目かが始まった。


 ◇


「属性がコロコロ変わりやがる・・・!」


 先駆け右翼のリーダーが、忌々しげに吐き捨てた。

 その声には、怒りよりも、疲労と焦燥が滲んでいた。


 最初に遭遇した敵は、昨日と『逆』の属性を持っていた。

 彼のパーティでは怪我人が出ただけで済んだが、メインルートの露払いを請け負っていた別の部隊では、死者が出たという。


 その報せが届いたのは、戦闘が終わって間もなくのことだった。


 そして次に現れた敵は、昨日と『同じ』属性だった。

 また怪我人を出しながらも、なんとか撃破。

 だが直後、露払いの二陣が壊滅したとの一報が入る。


 先陣は全滅したらしい、と。


『らしい』——その曖昧な言葉が、何よりも苛立たしかった。

 誰も確かめに行けない。

 誰も戻ってこない。

 情報は、ただ『噂』としてしか届かない。


 そして今。

 階層の終盤に差し掛かったあたりから、敵の属性が、完全に“デタラメ”になっていた。


 昨日と同じでも、逆でもない。

 最初は、誰かの見間違いかと思った。

 だが、違った。


 何度か戦って、ようやく理解した。

 これは、偶然ではない。

 本当に、バラバラなのだ。

 属性が、戦うたびに変わっている。

 規則性も、傾向も、何もない。


 毎回、敵の属性を探りながら戦わなければならない。

 そのことが、じわじわと精神を蝕んでいく。

『次は何が来るのか』という不安が、『何を信じていいのか』という疑念に変わっていく。


 仲間の呼吸が乱れている。

 誰かが、呟いた。


「・・・これ、ほんとに『うまくいっている』か?」


 誰も答えなかった。



「敵!『ミヤマ』!」


 索敵担当の声が響く。

 パーティは即座に歩調を緩め、『受け』の陣形を取った。

 後方では、魔職のメンバーが詠唱に入る。


 打ち合わせ通りの動きだ。

 各々が異なる属性の初級魔法を準備し、実際に当てて『反応』を見る。


 まどろっこしいが、堅実な戦略。

 この慎重さこそが、このパーティリーダーの持ち味だった。

 そのおかげで、他のパーティが軒並み死人を出している中、彼らだけは、まだ一人も欠けていない。


「接敵!」


 黒い体が、薄暗い通路の奥から現れる。

『ミヤマクワガタ』。

 その名の通り、硬質な殻を持つ虫型の敵。

 視認は難しい。

 だが、あの羽音だけは、嫌でも耳に残る。


「魔法、いきます!」


 魔職女——カナエの合図で、魔法が放たれる。

 炎、風、土、水——順に、慎重に、確実に。


「属性確認! 風!」


 索敵の報告に、風属性の魔法持ちが一斉に詠唱へ。

 他のメンバーは、ただ耐える。

 詠唱が終わるまで、ひたすらに。


「魔法、撃ちます!」


 魔職の合図で、盾役が敵を押し返す。

 その隙間を縫うように、魔法が飛ぶ。


 属性確認済み。

 弱点属性。

 しかも、連続で。


 一撃ではない。

 外れもない。 全弾、命中。


『ミヤマ』は、ひっくり返った。

 脚をばたつかせることもなく、沈黙する。


『仕留めた』。

 また一戦、片が付いた。


 リーダーが、静かに息を吐いた。

 胸の奥に、わずかな安堵が灯る。

 誰も死ななかった。

 また一戦、生き延びた。

 その事実だけが、彼を支えていた。


 ——ザシュ。


「ぐ、ぐは・・・!?」


 その音は、あまりにも唐突だった。

 リーダーの体が、くの字に折れた。

 目が、驚愕に見開かれる。


 視線の先。

 そこには、倒れたはずの『ミヤマ』の頭部があった。

 だが、何かがおかしい。


「ぼか、な・・・」


 彼の声は、途中で途切れた。

 胸から下が、数メートル先に転がっていた。


 誰もが凍りついた。

 何が起きたのか、理解できなかった。


『ミヤマ』の頭部に、首があった。

 本来、存在しないはずの『首』。

 白く、ねじれた筋繊維の束が、まるで『糸』のように頭部と胴体を繋いでいた。


 それは、急ごしらえの構造だった。

 不格好で、不自然で、異様なほどに『生々しい』。


 そして、その感想は正しかった。


『ミヤマクワガタ』は、確かに倒されていた。

 だが、消滅するよりも早く——『再生虫』が、活動を開始していた。


 落ちかけていた頭部を、繋ぎ止める。

 筋肉繊維を伸ばし、無理やり『首』を作り出す。

 そして、頭部は再び動き出す。

 敵を認識し、攻撃を再開する。


 その結果が、今だった。


 リーダーの体は、まだ温かい。

 だが、彼の目は、もう何も映していない。


 それは、死を終わりにしないための演出だった。

 誰かが、そう仕込んでいた。


 “死んだ”という安心を、『倒した』という達成感を、 『終わった』という判断を、 すべて、裏切るために。


 それが、『再生虫』の本質だった。



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