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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第93話 妖怪制作 ⑥ ~唐笠お化け(渡瀬香子)~ 後編

1/3

 


 ◆48階層の追憶(三笠香子視点)◆


「これ、絶対ふざけてるよね!?」


 怒りをあらわにしたクラスメイトが、何かを投げた。

 その軌道を、私はぼんやりと目で追う。


「なんだったの?」


 さほど興味もなく、口を開く。

 けれど、心の奥がざわついていた。


「ゴミよ。ゴミ! 『虫傘』ですって。虫除けの傘よ!」


 彼女は地団駄を踏んでいた。

 もっといいものが入っていると思っていたのだろう。

 肩透かしを食らった怒りが、言葉に滲んでいた。


「ふーん」


 私は気のない声で返す。

 でも、胸の奥がざわめいていた。 なにかが、引っかかっていた。


 目の前の作業を片付けながら、記憶を掘り返す。

 自分が『見た』のは、どの傘だっただろうか。


 水玉模様の傘は、ヨウコさんの洋傘。

 いつも笑っていた。

 フワフワした微笑で、傘を通して降る光を見上げていた。

「雨の日は、空が近くなる気がするの」そう言って、空を見上げる姿が、今もまぶたに焼きついている。


 チェック柄は、アマミヤさんの雨傘。

 雨の日でも一人で歩いていた。

 誰にも話しかけず、でも誰よりも静かに、傘の内側の世界を大切にしていた。

 チェックの線と色に目を細める横顔は、どこか遠くを見ていた。

 まるで、自分の終わりを知っていたかのように。


 モダンな格子柄は、クサカさんの日傘。

 内気で、遠慮がちで、いつも人の後ろを歩いていた。

 モダンすぎるその傘が似合わないことを気にして、持ち方や差す角度を何度も変えていた。

 最後まで傘を手放さなかった。

 でも、最後に見たとき、彼女はその傘を見上げながら、虚ろな目をしていた。


 小さな和傘は、ワカコちゃんの和傘。

 彼女は和風のものが好きで、髪もいつもきちんと結っていた。

「これ、祖母にもらったのと同じ柄!」

 そう言って、傘を開くたびに、どこか誇らしげだった。

 あの小さな背中が、今はもう見えない。


 折りたたみ傘は、オリカサさんのもの。

 合理主義者で、無駄を嫌う人だった。

「軽くて、丈夫で、すぐしまえる。最高でしょ?」

 そう言って、傘を開く動作すら無駄なく美しかった。

 でも、最後に見たとき、その傘は開かれたまま、地面に転がっていた。


 そして、黒くて大きなコモリさんのこうもり傘。

 彼女は、いつも日陰にいた。

 目立つのが苦手で、声も小さくて、でも誰よりも周囲を見ていた。

「こうもり傘って、ちょっと不吉だけど・・・落ち着くの」

 そう言って、傘の下で静かに笑った。

 その笑顔が、最後だった。


 どれも、誰かの『守りたかった日常』だった。

 それが、消える時が来る。

 たぶん、このレイド中に。


 だから、気になった。

 このレイド中に、私のこんな近くに『傘』が来た。

 それはきっと、運命か、呪いの所業。


 私は『見た』ことがある。

『傘』を。

 自分の命運を分ける、そんな重要アイテムとして。


 ここはダンジョン『カナヤマバグ・ドーム』の9階層にあるセーフティエリアだ。

 ダンジョン内に存在する、モンスターが出ない空間である。


 広さは教室二つ分くらい。

 なので、現在は1年生と、先導役の二年生、と三年生の混合パーティが休憩していた。


 探索中に負った傷をいやし、体力を回復。

 消耗した武器・防具をメンテナンス。

 手に入れた採取物やドロップアイテムなどを整理。


 調薬他の生産に勤しむ。

 そんな光景が随所で見られた。


 そんな中、一人の男子が忙しそうに動いていた。

 汚れた装備、壊れた道具、使い道のないアイテムたち。

 誰かが「不要」と判断したものが、次々と彼の前に投げ出されていく。


 頭の上に落とされ、足元に転がされ、無造作に積まれていく『残骸』。

 なにも、そこまでしなくても。

 そう思いはするが、口にする勇気はない。

 見て見ぬふりで、『無かったこと』にするだけ。


 だけど――それだけは、『見て』しまった。


 彼の横に、一本の傘があった。

 地面に突き刺さるように立っていた。

 他の傘とは、明らかに違っていた。


『アレ』だ。

 間違いない。


 あの傘は、私の傘だ。

 私が持っていなくてはならない傘。

 誰かが私に渡すはずだった傘。

 でも私は、目を逸らした。


 それは、和傘ではなかった。

 もっと異質で、もっと古くて、もっと『異界』に近い。

 唐傘――異形の傘。

 日常の中に紛れ込んだ、非日常の象徴。


 あの傘を手にすれば、何かが変わる。

 でも、今それを拾えば、誰かの痛みを背負う気がした。

 だから、私は目を逸らした。


 その瞬間だった。


 遠く、作業を続けていたカルマが、ふと顔を上げた。

 視線が、こちらをかすめる。

 まるで、何かを感じ取ったかのように。

 けれど、彼の目はすぐにいつ終わるとも知れぬ作業の処理へと戻っていった。

 何もなかったかのように。


 私は気づかなかった。

 彼も、気づいていなかった。

 けれど、確かにその一瞬、視線は交差していた。


 あとで、取りに行かなくては。

 なにか、自然に手に入れる方法を考えるのだ。

『いつ』なのかはわからない。

 でも、確かに訪れるであろう『その時』のために。


 きっと、その時が来たら、私は傘を差すだろう。

 風が吹いても、雨が降っても。

 誰かの痛みを遮るために。

 それが、私の『選択』になるのだ。



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