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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第92話 妖怪制作 ⑥ ~唐笠お化け(渡瀬香子)~ 前編

3/3

 


 傘が落ちている。

 使用者だったはずの少女たちと共に。


 色とりどりの傘が、床に散らばっていた。

 鮮やかで、華やかで、どこか場違いなほどに美しい。

 だが、その傘の下には、制服の切れ端や、血の染みが点々と残されていた。


 可愛らしい水玉模様。

 シックなチェック柄。

 モダンな格子模様。

 どれも、誰かの『日常』を守るために選ばれたものだった。


 今はもう、誰の手にも握られていない。

 傘だけが、そこにある。

 まるで、持ち主の不在を嘆くように、静かに開いたまま。


 さしずめ、傘の見本市。

 だが、ここに並ぶのは『使用済み』の品々。

 役目を終えた道具たち。

 そして、その周囲には、学生の誇りと記憶の残骸が、沈殿物のように広がっている。


 華やかな軽さと、沈殿する重さ。

 その対比に、目が回りそうだ。


 どちらも、貴重なモノには違いない。

 かつては低価値とされたアイテム。

 かつて、あったはずの尊厳を自ら貶めた存在の、その残骸。

 どちらも等しく、記憶を引き出すための鍵として残されている。

『妖怪』たちとともに、もはや慣れきった作業を進めていく。


 傘はたたまれ、制服は専用の処置を施される。

 血の染みは、素材としての価値を損なわない限り、無理に落とす必要はない。

 むしろ、記憶の定着には有効だ。


 最後に残るのは、余計なもののなくなった沈殿物。

 記憶や感情の残骸のようなもの。

 それらを、丁寧に分類していく。


『河童』や『雪女』のような上位の『レア妖怪』に昇華させるか。

 あるいは、名もなき『下位妖怪』として、素材の一部に還元するか。


 カルマは、指先で沈殿物をすくい上げ、光に透かして見る。

 色、重さ、温度、残留思念の濃度。

 すべてが、分類の基準になる。


 一つ、確かなことがある。

 無為に朽ちさせはしない。

 どんなに小さな記憶でも、どんなに薄い感情でも、『使い道』がある限り、価値はある。


 それが、カルマの信条だった。




「ああ、『レア』がいた」


 沈殿物の中に、見知った顔がある。

 カルマは、手を止めない。

 分類は続ける。

 いつも通り、淡々と。


 けれど、『その顔』を見た瞬間、ほんのわずかに、指先が止まった。

 理由はわからない。

 ただ、そう思ったのだ。

 これは『レア』だと。


 素材としての価値は高い。

 記憶の濃度、感情の残滓、視線の残り香。

 どれをとっても、上位種への昇華に足る。


 だが、それだけだろうか。

 この顔を、どこかで見たことがある。

 それも、ただの記録としてではなく――もっと、近くで。

 もっと、強く。


 カルマは、眉をひそめた。

 そんなはずはない。

 自分は、感情で判断などしない。

 すべては、効率と価値の問題だ。


 それでも、目が離せなかった。

 その『顔』が、沈殿物の中に沈んでいくのを、ただの素材として見送るには、何かが引っかかっていた。


「・・・そうか。レア、か」


 自分で口にしたその言葉が、妙に耳に残った。



「・・・・・・」

 妖怪たちが顔を見合わせる。


 カルマの言う『レア』に、なにかの法則性があるような気がし始めていた。

 気まぐれで言っているのではない。

 何か、はっきりとした指標がある。

 そんな予感だ。


 顔を覚えている。

 名前を呼べる。


 そんなような共通点があるのではないだろうか?

 それが、『人間の記憶』を持ったまま妖怪化した自分たちと、『人間だった』ことを斬り捨てられて素材にされる者の差。


 間違いかもしれない。

 だけど、正しい気がする。

 そして、それが『カルマという人間』を救う手掛かりかもしれない。


 彼はまだ、壊れ切ってはいない。

 ――かもしれない。



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