第91話 最下層の討伐者たち ~糸に絡め取られた欲望~ 後編
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◇観察者(カルマ視点)◇
『お見事です。キレイに嵌りましたね』
システムの声が、耳元で囁く。
その口調には、確かな賞賛があった。
「ふふ・・・光栄だよ」
カルマは、静かに笑った。
その目は、今まさに『壊れかけている』少女たちを見つめていた。
この部屋のギミックは、彼の設計だった。
モンスターの創造には慣れてきたが、構造そのものを弄るのは、まだ試行錯誤の段階。
だからこそ、この成功は格別だった。
『宝箱のアイテムと、部屋中の糸。「お客様」の選択が「邪魔な糸の消滅」でも「貴重な素材の採集」でも発動する罠。お見事でした』
「ありがとう。狙い通りだよ」
この罠は、糸がすべて回収された『後』でなければ起動しない。
つまり、彼女たちが『働ききった』その瞬間を狙っている。
疲労し、油断し、報酬を目前にしたその時――最も無防備で、最も欲望に近づいた瞬間に、牙を剥く。
宝箱を開ける。
中のアイテムを使う。
どちらを選んでも、罠は発動する。
選択肢は、最初から『罠にかかる』しかなかった。
「彼女たちは、このまま放置しておこう。自力では動けないし、慌てて手を下す必要もない」
戦力は、効率よく削るべきだ。
まずは、自由に動ける主力から。
拘束された者たちは、恐怖の中で腐らせる方が、ずっと『美味しい』。
「放置されたことで、ソウルポイントもたっぷりもらえるだろうしね。恐怖は、熟成させるほど味が出る」
カルマは、それを知っていた。
恐怖は、刹那の絶叫よりも、沈黙の中で膨らむ方が深く、濃く、甘い。
誰にも触れられず、誰にも救われず、ただ心の奥で静かに腐っていく。
リーダーの言葉が、耳に残っていた。
「ここは・・・ダンジョンだった・・・!」
そう。 ここは、ダンジョン。
生と死が、常に隣り合わせにある場所。
そして今、彼女たちはようやく『それ』を思い出した。
カルマは、満足げに目を細めた。
この恐怖は、まだまだ熟していく。
もっと深く、もっと濃く。
やがて、絶望の果実となって、彼の手に落ちるだろう。
「さすがです」
ふげんが、恍惚とした顔で賛辞を贈る。
巧妙な罠、相手の欲望を巧みに利用した誘導。
理性的で隙がない。
まさに『完ぺき』だ。
「彼、あんなに冷たかった?」
震えるような掠れ声で、みれんが呟く。
「私たちが、そうなるよう仕向けたのよ。裏切られて爆発したのですもの、冷たくもなるわ」
みずほが、静かに首を振った。
彼の変化は、自分たち全員の行動に起因している。
何一つ、言葉をかけようがない。
「・・・・・・」
「・・・そう、ね」
彼女たちの背後では、ついに交渉のデザイン化が始まっていた。
ふよう・・・いや。
その腕として作られた『腕だけ』が、美術部だったらしい。
さらさらと、いくつかの案を掻きだし、悠が歓声を上げていた。
「目がないのに、どうしてこんなに絵が描けるのかなぁ?」
ひろが不思議そうにしている。
「見えていても『ちゃ豚い』しか書けないあなたには、永遠にわからないわよね」
友梨が、薄い笑いを浮かべた。
「…なんで、みんなそんなに受け入れが早いのよ」
少し離れたところで、椅子に座った薫が頬杖をついていた。
普通の、白い色のセーラー服に化けた彼女の『制服』が、風もないのにふわりと揺れる。
当たり前の動作で、薫の手が抑えていた。
彼女もまた、現状に慣れつつある。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




