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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第88話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~ 後編

2/3

 


「完成だ」


 笑みを含む声が、風の中に響いた。

 その響きは、かつての対比をなぞるようだった。

 構図は変わらない。

 ただ、立場が逆転している。


『彼』が見下ろし、『私』は見上げる。

 強く存在する『彼』。

 消えそうな『私』。


 でも――


『彼』の手が、髪に触れた。

 その指先は、かつてと同じように優しく、でも冷たかった。

 まるで、壊れたものを確認するような手つき。


「まだ、触ってくれるの?」


 細く、小さな呟き。

 風にかき消されそうな声。

 それでも、『彼』は拾い上げた。

 その声に、応えた。


「君は、オレのものだ」


 その言葉は、宣言だった。

 所有の証。

『私』は、『私の居場所』を得た。


 その瞬間、胸の奥が軋んだ。

 嬉しさと、怖さが同時に押し寄せる。

 必要とされることは、救いだった。

 でも、『もの』として扱われることは、痛みだった。


 それでも、手を伸ばすことに躊躇はなかった。

 なぜなら、この手もまた『彼』のものなのだから。


 きっと、それが一番の望みだった。

 誰かに必要とされたい。

 誰かの役に立ちたい。

 それが叶ったのだと、悟った。


「ああ、私は『こう』なりたかったのだ」


 強く、美しい『自分』の影として、安全に守られる。

 拒絶でも、無視でもなく、必要としてくれる人の側に立つ。

 それは、歪んだ願いかもしれない。

 でも、今の『私』には、それしか残っていなかった。


 後ろめたくはある。

 だから、顔は上げられない。

 でも、目は開こう。

 過去を未来に紡ぎ、『彼』と生きる未来を編む。


 風の翼が、きっと役に立つ。

 私は、『彼』の役に立つ風となる。


 風に削られながら、彼の背に手を伸ばす。

 それは、赦しではなく、役に立ちたいという願いだった。


『彼』の言葉が、胸の奥に残響する。


「君は、オレのものだ」


 その一言が、魂の奥底にまで染み込んでいく。

 完璧な彼女――あの強く、美しい存在。

 そして、自分――削られ、捨てられ、影に成り果てた存在。


 どちらか一方だけでは、きっと意味をなさなかった。

 風は、どちらかが欠ければ崩れる。

 どちらかが前に出すぎれば、濁ってしまう。


 でも今、『彼』は両方を見てくれた。

 完璧な彼女だけでなく、そこからはじき出された『わたし』も。

 痛みも、迷いも、弱さも、すべてを抱えたままの『わたし』を。


 戸惑いが、胸を締めつける。

 こんな自分が、受け入れられていいのか。

 こんなにも醜く、壊れて、役に立たない影なのに。


 けれど、風は優しかった。

 今だけは、刃ではなく、包むように吹いていた。

 それが『彼』の意志なのだと、わかった。


「ありがとう・・・」


 その言葉は、風に乗って、ようやく届いた。

 誰にも届かなかった声が、今、確かに拾われた。


 だから、名乗ろう。

 この痛みも、迷いも、すべてを抱えたまま。

 風と共に生きる、私たちの名前を。


「私たちの名前は――」


「比翼ふげん」「そして、比翼みれん」




「一人から二人かぁ…お得だね!」

 悠がはしゃいでいる。


「お得って…」

 友梨が頭を抱えている。


「私なんて半分になっているんだけど…」

 床に頬杖をついて、ひろがグチっている。


「……」

 みずほは背後にうずくまる泥のウシガエルを振り返った。


「……」

 志乃も、自分の手足を見下ろしている。


 妖怪たちは、ちょっと複雑そうだった。



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