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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第85話  妖怪制作⑤ 鶴女房 ~風を選ぶ者~ 後編

2/3

 


 風は止まった。

 風が止まった瞬間、影が胸を貫いた。

 羽根は散り、命は沈んだ。


 そして、静かに羽根を広げた。

 彼女の魔法『銀鶴』が、彼女の悔いと執着を抱いて形を持った。


 それで、終幕。

 すべて終わったはずだった。

 命の終わり、未来の終わり。


 なのに、続きがある。

 終わらせてもらえなかった。

 呼び戻された。


 未だ形を与えられない朧な存在。

 なのに、記憶はしっかりしていた。

 自分のしてきたことを見せつけられる。


「やめて! わたしは、そんなふうに生きたかったんじゃない!」

 呼び出された魂は、まだ死の痛みを覚えている。


 仲間を見捨てた記憶。

 風を盾にした罪。

 それでも生きたかったという執着。


 その魂に、鶴が語りかける。


「あなたは、風が吹く方向を選んだ。わたしは、その選択の形」

 鶴は、彼女の魔法スキルの具現。


 感情はない。

 知性も、本来はない。

 けれど、彼女のすべてを記憶している。

 彼女の意志を、汲み取るためだ。


 戦場での動き。

 常に思考を働かせていては間に合わなくなる場面。

 細かな動きの調整を魔法スキルが、彼女の意思を記憶したスキルが代行していた。


 彼女の望みを誰よりも知る存在。

 彼女自身よりも知る存在。


「わたしは間違ってた。助けるべきだった!」

「それでも、風を操ったのはあなた。わたしは、あなたの『願い』そのもの」

 魂は震える。

 鶴は静かに羽根を広げる。

 その羽根は、仲間の声をなぞるように風を揺らす。


 失っていた『体』が再構築される。

 目的が明確になっていく。

 自分が何になろうとしているのかを自覚する。


「この体を、『妖怪』にする? 誰が? なんのため?」

「あなたは、誰かに愛されたかった。だから、吹かせる風を選んだ。選ばれた者が、そうとは気が付かないほど、弱かったけれど」

 否定できず、魂は泣く。

 肯定するように、鶴は寄り添う。


「私は、そこまでして『生きたい』の?」

『妖怪』になることを受け入れてまで?

 魂は問う。


「もう一度選んで。誰かのために舞うか、自分のために沈むかを」

 強い言葉で鶴が迫る。


「選べるの?」

「・・・・・・」

 問いに鶴は答えない。

 別のモノが答えた。


 ◇転換◇


「お前は、あの時。オレを見捨てた」

 その声は、聞き覚えがあった。


 だけど・・・何か違う気がする。

 本人ではないのかもしれない。

 声も現実ではない。


 形を伴わない意識。

 そこへ吹きこんでくる意志ある風。

 そんなところだろう。


 小夜は、かつて『彼』を見送った。

 その人は、風に舞う羽のように消えた。

 彼女の魔法が届かなかった、届けなかった。

 最初の後悔。


『みんな』の総意で選ばれた犠牲。

『爆弾』となった仲間。

 始まりの裏切り、その人の声。

 自分が、『誰』によって呼び戻されたかを理解した。


 魂は震える。

 銀鶴が、静かに羽根を閉じる。

 空気が重くなる。

 風が、彼女の罪をなぞるように沈黙する。


「お前は自分の利益のために、人を殺せる女だ」

 魂は言葉を失う。

 その存在——かつての仲間——は、死を越えて、妖怪を作る者になった。

 そして今、彼女を『妖怪』にしようとしている。


「お前は生きたかったのだろう? 生かしてやろう。お前を作り直す。それはお前が望んだこと。『わたしの隣に立つがいい』、だろ?」

 かつて自分が口にした言葉がなぞられた。


 空気を切り裂いて、魂は叫ぶ。

「それは違う! それは、わたしじゃない!」


 銀鶴がささやく。

「でも、それはあなたの『願い』だった。誰かに必要とされること。誰かに愛されること」


 魂は泣く。

 それは後悔か、赦しを求める涙か。

 羽は、彼女の涙を包むように、静かに舞った。


「お前は、自分に優しすぎた。だから死んだ」

 彼女の魂は、風の中で震えていた。


 助けたかった。

 でも、生きたかった。

 その矛盾が、羽根を濁らせ、仲間を殺し、自分も死に至らせた。


「だから、作り直して完成させる」

 かつての仲間——今は妖怪を作る者——は、彼女の遺体に手を伸ばす。


 羽根を裂き、銀鶴を縫い合わせ、魂を引きずり出す。


「お前は、踏みつけられることを恐れていた。でも、風は選ぶ。誰を守り、誰を切り捨てるか。その選択に迷いは要らない」

 彼女の目が開く。

 銀鶴が静かに舞う。


 その羽根は、かつての仲間の声をなぞらない。

 代わりに、命令を待つように空気を裂く。


「わたしは、誰かのために生きたかった。」

「なら、誰かを踏みつけてでも、生きろ。それが、お前の『完成』だ」


 彼女は、風を呼ぶ。

 その風は、もう優しくない。

 鋭く、冷たく、選別する風。

 そして、彼女は笑う。


「わたしは、完璧になる。誰かのために、誰かを捨てることを、恐れない」

 風は、彼女のことを忘れたように吹き抜けた。



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