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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第83話 最前線攻略者たち⑤ ~静かな崩壊、大広間にて~ 後編

3/3

 


「静かになったな」


「女どもはみんな行っちまったからな」


 6人と6人。

 人数はちょうど半々だが、採取に向かったのは女子全員プラス男子だ。

 その軽率さに、誰も疑問を抱かなかった。

 女リーダーが同行したのも、彼女自身が『何か』を感じ取っていたからかもしれない。


「モンスターが湧くにも、本隊が戻ってくるにも、時間あるんだろ?」


「ああ。なにかヘマして逃げてくるとかしないならな。ま、昨日攻略したばかりなんだし、ヘマもないだろ」


「なら、俺はひと眠りさせてもらうぜ」


 大きな欠伸とともに、男が床にごろんと横たわる。

 その音が、やけに大きく響いた。

 広すぎる空間に、音が吸い込まれていく。


 男たちの気配も、どこか緩んでいた。

 警戒心は、すでに薄れていた。


『大広間』の暗がりに、尻尾を失くした『沈黙の刃』―― オオサソリが潜んでいるとも知らずに。


『天井』には、『静かな破壊者』――オオメクジが、音もなく這っていた。


 時を置かず、眠ると宣言した男がイビキをかき始め、そして、しばらくして――沈黙した。


 深い、深すぎる眠り。

 それが『永遠』であることに、誰も気づかない。


 同じころ、別の男も沈黙していた。

 頭上から落ちてきた『何か』の衝撃で、意識を手放していた。


 大ナメクジが、ゆっくりと這い寄る。

 そのヌメる体が、口と鼻を覆っていく。

 呼吸が、音もなく奪われていく。


 6人中2人が、音もなく、闇に溶けていった。




「モンスターだ!」

 音はしなかったが、隠蔽できていたわけでもない。

 ナメクジが発見された。


「ちっ、上層のとはいえ、ボスのお出ましか?」

 広い空間を一瞥し、エンタが皮肉気な笑みを浮かべた。


 違和感のありすぎる構造ではあった。

 長い時間かけて、何度も調べたのもそのためだ。

「なにもない」という結論だったが、やはり『無意味』ではなかったのだと、そう理解したのである。


 完全に誤解だ。

 だが、彼には『真実』なんてどうでもよかった。

 目の前に、一人で倒すにはあまりある敵がいる。

 理由なんて、それこそ無意味だ。


 たった一人で、『フロアボス』と対峙しているのだから。

 仲間の援護もなく。


「だけどな。勝てないにしても、時間稼ぎぐらいはできるんだぜ!」

 逃げるという案は浮かんだ瞬間に却下した。

 このナメクジの移動速度が、見た目の割に速いことは有名だった。

 的確な判断だと言っていいだろう。


「『真空牙』!」


 短槍に風を纏わせての遠距離攻撃。

 距離を置いての先制という意味とともに、周囲にいる仲間への警告と援護要請だ。


 ほんの少し持ちこたえていれば、五人は援護に来てくれる。

 キツイが、戦えないこともない。

 そう考えた。

 6人中2人が既に亡くなっているなど、思いもしなかったのだ。


「無事か!」

「待たせた!」

 ほどなく、二人が駆けつけてきた。


  「囲め! 遠距離から削っていこう!」

 まともに戦っては不利。

 可能な限り距離を置いて、間合いの外から耐力を削る。

 そんな作戦だ。


「「おお!」」

 二人が呼応し、戦いが始まった。


 この時、もう一人。

 オオタが駆けつけようとしていたが、闇に潜んだサソリと戯れていて、参加できなかった。


 結果を言えば、ナメクジは倒れた。

 弾力のある体組織のおかげで打撃と魔法には強いが、この体には斬撃が有効だった。

 三方から囲んで斬撃を叩き込めば、ボスといえどハメられる。


 切り刻んで灰にした。

 ただ、被害は深刻だった。


 主要な攻撃手段である『粘液噴射』によって腐食性の粘液をまき散らされて、装備が使い物にならなくなるほど損傷した。

 地面を滑るように高速移動する『体当たりスライド』での体当たりで、ダメージを蓄積された。見た目以上に重く、衝撃力も強いのだ。

 追い詰めたところで使われる『分裂突撃』。自分の体を小さく分裂させての、包囲攻撃にも少なからぬ被害を受けている。


「ちっくしょうが!」


 エンタが、地面を叩きつけた。


 救援に来てくれた仲間二人は、体を休めている。

 肺も、心臓も、動かさずに。


「リーダーはなにしてやがる!?」


 ナメクジ相手なら、最も頼れるはずだった人物の不参加に憤っていた。

 ボロボロの体を引きずって、リーダーを探し回る。



「リー・・・ダー?」


 リーダーは見つかった。

 なぜか、体が複数に分かれていたけれど。


 その一片が、折れた剣を握り締めたままサソリと向き合っている。

 そばには、尻尾だけでなく、ハサミの片方をも失った『オオサソリ』がいた。

 残ったハサミで、今もリーダーの分割に勤しんでいる。


 切れ味鋭い斬撃が自慢のリーダーだったが、サソリの甲殻には歯が立たなかったようだ。

 サソリの甲殻は、斬るより叩く方が効く。

 『斬る』ことに特化したリーダーには、相性最悪の敵だったことだろう。


「ちく・・・しょう・・・が!」


 槍を構え、跳び上がる。

 サソリの背中に乗って突き刺した。

 狙い違わず、胴体の真ん中を貫いている。

 サソリの心臓が、モンスターの『核』があるポイントだった。


 サソリもまた、灰になる。

 しっかりと仇を討って見せたのだ。


 ただ、彼の体もまた、休みを欲していた。

 彼は、自分の血の上に座り込んだ。

 槍を握ったまま、まるで祈るように目を閉じていた。


 そして、二度と立つことはなかった。

 彼の槍は、祈りのように突き刺さった。

 誰かのためではなく、自分の誇りのために。


 後詰は残り1班、6人となった。




 糸の部屋へ向かう彼女たちは、まだ知らなかった。

 その糸が、何を織り上げるのかを。


読了・評価。ありがとうございます。


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