第83話 最前線攻略者たち⑤ ~静かな崩壊、大広間にて~ 後編
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「静かになったな」
「女どもはみんな行っちまったからな」
6人と6人。
人数はちょうど半々だが、採取に向かったのは女子全員プラス男子だ。
その軽率さに、誰も疑問を抱かなかった。
女リーダーが同行したのも、彼女自身が『何か』を感じ取っていたからかもしれない。
「モンスターが湧くにも、本隊が戻ってくるにも、時間あるんだろ?」
「ああ。なにかヘマして逃げてくるとかしないならな。ま、昨日攻略したばかりなんだし、ヘマもないだろ」
「なら、俺はひと眠りさせてもらうぜ」
大きな欠伸とともに、男が床にごろんと横たわる。
その音が、やけに大きく響いた。
広すぎる空間に、音が吸い込まれていく。
男たちの気配も、どこか緩んでいた。
警戒心は、すでに薄れていた。
『大広間』の暗がりに、尻尾を失くした『沈黙の刃』―― オオサソリが潜んでいるとも知らずに。
『天井』には、『静かな破壊者』――オオメクジが、音もなく這っていた。
時を置かず、眠ると宣言した男がイビキをかき始め、そして、しばらくして――沈黙した。
深い、深すぎる眠り。
それが『永遠』であることに、誰も気づかない。
同じころ、別の男も沈黙していた。
頭上から落ちてきた『何か』の衝撃で、意識を手放していた。
大ナメクジが、ゆっくりと這い寄る。
そのヌメる体が、口と鼻を覆っていく。
呼吸が、音もなく奪われていく。
6人中2人が、音もなく、闇に溶けていった。
「モンスターだ!」
音はしなかったが、隠蔽できていたわけでもない。
ナメクジが発見された。
「ちっ、上層のとはいえ、ボスのお出ましか?」
広い空間を一瞥し、エンタが皮肉気な笑みを浮かべた。
違和感のありすぎる構造ではあった。
長い時間かけて、何度も調べたのもそのためだ。
「なにもない」という結論だったが、やはり『無意味』ではなかったのだと、そう理解したのである。
完全に誤解だ。
だが、彼には『真実』なんてどうでもよかった。
目の前に、一人で倒すにはあまりある敵がいる。
理由なんて、それこそ無意味だ。
たった一人で、『フロアボス』と対峙しているのだから。
仲間の援護もなく。
「だけどな。勝てないにしても、時間稼ぎぐらいはできるんだぜ!」
逃げるという案は浮かんだ瞬間に却下した。
このナメクジの移動速度が、見た目の割に速いことは有名だった。
的確な判断だと言っていいだろう。
「『真空牙』!」
短槍に風を纏わせての遠距離攻撃。
距離を置いての先制という意味とともに、周囲にいる仲間への警告と援護要請だ。
ほんの少し持ちこたえていれば、五人は援護に来てくれる。
キツイが、戦えないこともない。
そう考えた。
6人中2人が既に亡くなっているなど、思いもしなかったのだ。
「無事か!」
「待たせた!」
ほどなく、二人が駆けつけてきた。
「囲め! 遠距離から削っていこう!」
まともに戦っては不利。
可能な限り距離を置いて、間合いの外から耐力を削る。
そんな作戦だ。
「「おお!」」
二人が呼応し、戦いが始まった。
この時、もう一人。
オオタが駆けつけようとしていたが、闇に潜んだサソリと戯れていて、参加できなかった。
結果を言えば、ナメクジは倒れた。
弾力のある体組織のおかげで打撃と魔法には強いが、この体には斬撃が有効だった。
三方から囲んで斬撃を叩き込めば、ボスといえどハメられる。
切り刻んで灰にした。
ただ、被害は深刻だった。
主要な攻撃手段である『粘液噴射』によって腐食性の粘液をまき散らされて、装備が使い物にならなくなるほど損傷した。
地面を滑るように高速移動する『体当たりスライド』での体当たりで、ダメージを蓄積された。見た目以上に重く、衝撃力も強いのだ。
追い詰めたところで使われる『分裂突撃』。自分の体を小さく分裂させての、包囲攻撃にも少なからぬ被害を受けている。
「ちっくしょうが!」
エンタが、地面を叩きつけた。
救援に来てくれた仲間二人は、体を休めている。
肺も、心臓も、動かさずに。
「リーダーはなにしてやがる!?」
ナメクジ相手なら、最も頼れるはずだった人物の不参加に憤っていた。
ボロボロの体を引きずって、リーダーを探し回る。
「リー・・・ダー?」
リーダーは見つかった。
なぜか、体が複数に分かれていたけれど。
その一片が、折れた剣を握り締めたままサソリと向き合っている。
そばには、尻尾だけでなく、ハサミの片方をも失った『オオサソリ』がいた。
残ったハサミで、今もリーダーの分割に勤しんでいる。
切れ味鋭い斬撃が自慢のリーダーだったが、サソリの甲殻には歯が立たなかったようだ。
サソリの甲殻は、斬るより叩く方が効く。
『斬る』ことに特化したリーダーには、相性最悪の敵だったことだろう。
「ちく・・・しょう・・・が!」
槍を構え、跳び上がる。
サソリの背中に乗って突き刺した。
狙い違わず、胴体の真ん中を貫いている。
サソリの心臓が、モンスターの『核』があるポイントだった。
サソリもまた、灰になる。
しっかりと仇を討って見せたのだ。
ただ、彼の体もまた、休みを欲していた。
彼は、自分の血の上に座り込んだ。
槍を握ったまま、まるで祈るように目を閉じていた。
そして、二度と立つことはなかった。
彼の槍は、祈りのように突き刺さった。
誰かのためではなく、自分の誇りのために。
後詰は残り1班、6人となった。
糸の部屋へ向かう彼女たちは、まだ知らなかった。
その糸が、何を織り上げるのかを。
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