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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第80話  裏切られる巫女 ~祈りを失った者の問い~ 前編

3/3

 


 (曽根崎志乃視点) 


 夕暮れのダンジョンは、まるで戦場だった。

 空は灰色に染まり、風は血の匂いを運んでくる。


「・・・なんで?」


 志乃の唇から、呟きがこぼれた。

 ここは『安全地帯』のはずだった。

 敵の侵入はないとされていた。

 けれど、それはただの幻想だった。


 虫がいた。

 敵意すらない。

 ただ、捕食のために動く存在。


「ああ・・・そうね。これが、ダンジョンよね」


 世界中にあるダンジョンの噂。

 そのどれもが、探索者を誘い、食らうための仕掛けに満ちている。

 弱い敵と、ほどほどの報酬。

 奥へ進むほどに、敵は強く、報酬は魅力的になる。


 それは、誘い。

 罠。

 そして、終わりへの道。


 安全地帯など、最初から存在しない。

 それを信じていた自分たちこそが、愚かだった。


「みんなが、無事に切り抜けられますように!」


 シャン。


 志乃は祈る。

 それが、彼女の役目だった。


 シャン。


 味方の足が止まらぬように。

 敵の爪が鈍るように。

 戦場に響く鈴の音は、希望の音だった。


 シャン。


 その祈りは、何度も仲間を救ってきた。

 彼女は『戦巫女』と呼ばれ、守り神のように崇められていた。


 ……シャン……


 祈りは、まだ届くと信じていた。


 だが――祈りは、届かなくなる。


 虫の軍勢が、予想を超えていた。

 防御陣は崩れ、戦線は崩壊寸前。

 志乃は悟る。

 これは、終わる。


 その瞬間、誰かが叫んだ。


「ここにも爆弾がある!」


 腕を掴まれる。

 振り返ると、そこには仲間たち。

 いつも祈りを受けていた者たち。

 その中の一人――『リーダー』と呼ばれていた後輩が、彼女の手に石を握らせた。


「ごめんね。でも、いつもみたいに守ってくれるでしょ?」


 その石は、爆裂玉。

 昨日、使い捨てられた仲間が持たされていたもの。

 それを渡された意味は、あまりにも明白だった。


「感謝はしてるよ? 本当に。でも・・・死にたくないの!」


 その言葉は、志乃の耳には届かなかった。

 爆裂玉に光が宿り、彼女の魔力を吸い上げていく。

 破滅の光が、彼女の祈りを飲み込んだ。


 その瞬間、志乃は巫女ではなくなった。

 祈る者ではなく、捧げられる者。

 ただの『贄』として、そこに在るだけの存在になった。


 鈴の音は、もう響かない。

 祈りは、もう届かない。


 彼女の問いは、風に溶けていった。


 ◇妖怪化後◇


 そして、死。

 祈りを捧げ続けた魂は、仲間に見捨てられ、静かに砕けた。


 その欠片を拾い上げたのは、悪しき神――『ダンジョンマスター』と呼ばれる存在だった。


「君の祈りは美しい。でもね、裏切られた者の祈りは、もっと美しいんだよ」


 クスクスと笑う声。

 あの時と同じ。

 ただ、立場は逆転していた。


 彼――カルマは、志乃に手を与えなかった。

 足も、与えなかった。

 片目すら、空洞のままにした。


「祈るしか能がない女。それが、君だろ?」


 それは、かつて志乃が彼に向けた言葉。

 今、そっくりそのまま返される。

 意趣返し。

 わかりやすく、そして痛い。


 達磨として目覚めた志乃は、もう祈らない。

 祈る資格がない。

 祈りは、誰かを守るためのものだった。

 だが、あの瞬間、自分は『誰かの盾』として差し出された。


 誰が石を用意したのか。

 誰が彼女を選んだのか。

 もう、どうでもよかった。

 気にしてはいけない。

 なぜなら――


 彼女の想いは、彼の想いでもあるから。


 カルマ。

 かつて人間だった彼。

 名も知らぬ兵士ではない。

 名を知っていた。

 声を知っていた。

 少なからず、関わりがあった。


 それでも、彼を見捨てた。

 戦場に置き去りにし、敵の前に差し出した。


 死の間際、彼は口元を歪めていた。

 あれは、きっと自嘲だった。

 裏切られ、使い潰される自分を、笑っていた。



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