表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/369

第79話 妖怪制作④ ~つんぷく達磨(曽根崎志乃)~ 忘れられた玩具の記憶 

2/3

 


「おっ」


 カルマが足を止めた。

 朱が滲む水面に、ゆらりと浮かぶ白い影。

 その中心に、女がひとり、静かに揺れていた。


「つん、ぷく。つん、ぷく」


 水の深みに沈んでは浮かび、また沈む。

 まるで、誰かに遊ばれたあとの人形のように。


「・・・曽根崎志乃先輩、じゃないですか」


 カルマは水辺にしゃがみ込み、長く濡れた黒髪をそっと引いた。

 髪に引かれて、彼女の身体がゆっくりと水面から現れる。

 赤く染まった白小袖が、かろうじて形を保っていた。

 だが、その下にあるものは、すでに『人』ではなかった。


 あったはずのものが、ない。

 手も、足も、どこかへ消えていた。

 水に沈んだ赤い袴が、彼女の過去を象徴するように揺れている。


 それでも、カルマの目は冷静だった。

 彼が見ているのは、肉体ではない。

 そこに刻まれた記憶と、可能性。


「再生・・・いや、いらないな」

 彼は微笑んだ。


「このまま、ダルマさんにしよう」


 曽根崎志乃。

 闇と土の魔法を操る中級探索者。

 かつては主力の一角だった。


「なのに、なんで・・・?」


 カルマが首を傾げると、しらゆきが答えた。


「ドロップアイテムの回収だけだったからよ。ボス戦がないなら、力は要らないって。彼女、無駄な魔力の使用、嫌ってたでしょ?」


 吐息のような笑いが、冷たい空気に溶けていく。

 妖怪たちが、静かに頷いた。


 カルマには、信じがたかった。

 なぜなら、彼女はいつも――


「・・・ポンポンと、術をかけてきてたけざね―?」


 彼の声に、わずかな棘が混じる。

 それは怒りではない。

 ただ、記憶の中で何かが軋む音。


 水面に浮かぶ志乃の姿は、まるで忘れられた玩具のようだった。

 誰にも必要とされず、誰にも惜しまれず、ただ沈んでいく。

 その身体に刻まれた痕は、語らない。

 けれど、確かにそこに『何か』があったことだけは、カルマの目が知っている。


「ようこそ、舞台へ。志乃先輩」


 彼はそっと手を差し伸べた。

 その手は、まるで壊れた人形を拾い上げる子どものように、優しく、無邪気だった。 


 ◆ダンジョン42階層の追憶◆


 (回想シーン)


「立っていると疲れるでしょう? 座ってもよろしくてよ」


 くるしゅうないわ。

 涼やかで、どこか芝居がかった声が、空間に響いた。


 ここは42階層の中級ボスルーム。

 すでに討伐済みで、次のリポップまでは10時間。

 柱状石が林立する、静かで美しい空間。

 だが、今はその静けさが、逆に不気味だった。


「・・・」


 カルマは、言われるままに座る。

 空気を読んで、正座を選んだ。


「あらあら、なにも正座することはありませんのよ。座禅でお願いしますわ」


 座禅――けっかふざ?

 音しか知らない。

 あぐらでいいだろう。


「座りましたわね? もう立つには及びませんわ」


 シャン。


 鈴の音とともに、祝詞が紡がれる。


 ――動かない。


 足が、重い。

 空気が、砂のようにまとわりつく。

 肺が圧迫され、呼吸が浅くなる。


「立てないと、歩けませんでしょう? 飛ぶとよろしいわ」


 控えていた信徒が二人、前に出る。

 カルマの腕を水平に引き上げる。


「あなたの腕を飛行機の翼にして差し上げます。水平に、ね?」


 シャン。


 腕も、動かなくなった。

 まるで、見えない糸で操られる人形のように。


 曾根崎志乃。

 加護と呪いを操るバッファー。

 味方には祝福を、敵には呪詛を。

 その力は、戦況を支配する。


「ほら、何か言ってごらんなさいな?」


 シャン。


「志乃さまのお言いつけだ。なんか言ってみてくれよ?」


「無視はだめだぞ!」


 信徒たちが、左右から囁く。

 だが、カルマは答えない。

 答えられない。


 目は見える。

 耳も聞こえる。

 意識はある。

 だが、声が出ない。

 筋肉が動かない。


 沈黙が、口を塞いでいた。


「それでも答えないか」


「よし、飛ばしてやろう! 気分が上がれば、口も軽くなるさ!」


 左右に広げられた腕を、信徒たちが肩にかける。

 カルマの体が、持ち上がる。


 人間の身体は、水平に腕を保つようにはできていない。

 筋肉が引き伸ばされ、関節が軋む。

 だが、呪いで固定された体は、悲鳴すら上げられない。


「おお、障害物だ!」


「いかん、よけろ!」


 柱状石に向かって、わざと走る。

 カルマの体が、まるで荷物のようにぶつけられる。


 ゴン。


 衝撃が、全身に響く。

 痛みは、ちゃんと届く。

 それだけは、奪われていなかった。


 声を上げることもできず、ただ、痛みだけが確かだった。


「――—、――――」


 澄んだ声が響いた。

 神々しく、冷たく、どこか祝詞のような響き。

 きっと、加護の呪文。

 信徒たちへの。


「投げてごらんなさいな。飛べるかどうか、見てみましょう」


 見なくてもわかることを、あえて提案する。

 それは、確認ではなく“儀式”だった。


 カルマ飛行機は、当然に墜落した。

 腕は水平のまま、体は無様に地面へ叩きつけられる。


「飛ばないようですわね。飛ばない翼は、ただの飾りですもの。いらないのではなくて?」


 腕の呪縛が解かれる。

『たたんでよろしい』――つまり、腕を組めということ。


 カルマは胸の前で腕を組んだ。

 その瞬間――


 シャラーン。


 鈴の音が転がる。

 再び、腕が固定される。

 今度は、胸の前で。


「さっきは悪かったな」

「遊ぼうぜ?」


 信徒たちが笑いながら、カルマを持ち上げる。

 積み上げられた木箱の上へ。

 50×50×50の箱が五段。

 その上に、飾りとして置かれる。


「ようし、『カルマ落とし』だ!」

「民芸品かよ!」


 アイテムボックスから取り出されたのは、柄の長いハンマー。

 笑いながら、彼らは『遊び』を始める。


 カルマは、ただの飾りだった。

 笑いのための道具。

 舞台に置かれた、忘れられた玩具。


「楽しそうね」


 志乃が、クスクスと笑う。

 その笑いは、鈴のように転がる。

 祝詞のように響く。

 誰かの尊厳を祓うための、冷たい音。


 カルマの上に、笑い声が降る。

 彼は転がっていた。

 いいかげんに積まれた木箱は、二段目がうまく抜けなかった。


 だから、落ちきれなかった。

 だから、壊れきれなかった。


 カルマは、そのまま放置される。

 帰る直前まで。

 誰にも触れられず、誰にも気にされず。


 忘れられた玩具のように。

 ただ、そこに置かれていた。


 ◇カルマの工作室◇


「妖怪化するとして・・・どうしようかな?」

 河童なら甲羅と皿。

 雪女には雪虫。

 垢嘗めには似合いの制服。

 泥田坊には泥を塗りこみ、ウシガエルというお供もつけた。


 さて、『達磨』には何が必要か?


「どう、思う?」


 同じく喪失系妖怪のテケテケに聞いてみた。

 達磨は手足だが、テケテケは臍の上から下がない。


「・・・移動力・・・?」


 ジトっとした目で、ボソッと返された。


 うん。予想通りの答えだ。

 手足を補う妖怪を作ればいいよね。


 Bランクの『人間の体の一部』妖怪だ。


「はい。完成!」


 パパっと作ったのは『腕だけ』と『足だけ』だ。

 伝統的な妖怪『手長・足長』の派生妖怪ってことでいいだろう。


 ついでで作るのは、『オケオケ』。

 テケテケを乗せる、女性の下半身型支柱妖怪。

 誰の下半身かは不明。

『園田裕子』の下半身は失われてるし・・・。


 データから復帰は可能だけど・・・余ってたので使わせていただく。



読了・評価。ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ