表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/381

第77話 抜け出せた者たち ~触覚だけの世界へ~ 前編

3/3

 


「ま、待って――!」


 横道に入った瞬間、男が全速力で駆け出す。

 その背中に、女が必死に縋りついた。

 置いていかれてたまるか。

 その顔には、血と涙と怒りが滲んでいた。


「うるせぇ! 邪魔なんだよ!」


 男は振り返りもせず、脚を振り上げた。

 女の視界が白く弾け、世界がぐらりと揺れる。

 鼻から血が噴き出し、視界が赤く染まった。


 男はそのまま、わき目も振らずに走り去る。

 逃げ切れば勝ち。

 それが彼の『正義』だった。


 だが、運命は甘くない。


「チッ、今度は・・・オオサソリかよ!? なんでこんなとこに!」


 目の前に現れたのは、59階層のフロアボス。

 黒光りする甲殻、鋭く湾曲した毒針。

 その存在感に、男の顔が引きつる。


「おい! 手伝え!」


 鼻血を拭っていた女の手を、男が乱暴に引っ張る。

 ポーションを取り出そうとしていたその手を、無理やり。


「ざけんな」


 女の声は、低く、冷たかった。

 感情のない、氷のような響き。


「は?」


 男の視界が、ぐるりと反転した。

 次の瞬間、彼の体は宙を舞い、床に叩きつけられる。


「ガハッ! く、クソがぁ――!」


 呻く彼の腹に、サソリの毒針が迫る。

 の影が、すぐそこにあった。


「このぉっ!」


 剣を振るう。

 だが、甲殻に弾かれる。

 金属音が虚しく響く。


「ナメんなよ・・・!」


 怒りに任せて、力を溜める。

 光が集まり、頭上に大剣が現れる。


「喰らえ! ジャスティスソード!!」


 神聖な光がサソリの尾を断ち切る。

 毒針が床を転がる。


「見たか! これが正義の剣だぜ!」


 勝ち誇った笑み。

 だが――その手に、剣はなかった。


「あ・・・?」


 腕に、細い傷があった。

 引っかかれたような、浅い傷。

 だが、その痕跡が、すべてを変えた。


 転がる毒針を見て、血の気が引く。

 鉤のような先端。

 それが、確かに自分に触れていた。


「げ、解毒剤を寄こせぇ!!」


 女を振り返って怒鳴る。

 だが――


「ハンッ」


 返ってきたのは、鼻で笑うような短い音。


「女の顔を本気で蹴るようなクズに、くれてやるもんなんかないわよ」


 その声は、冷たく、乾いていた。

 怒りも、哀れみも、もう残っていない。


「仲間を見捨てる気かぁ!? 俺たち、チームだろ!?」


 正義を語るには、あまりにも軽い言葉。

 都合のいいときだけ叫ばれる『絆』。


「いまさらね」


 女の声は、まるで刃物のようだった。

 鋭く、容赦なく、男の幻想を断ち切る。


「あたしら全員。昨日一人見捨てて殺してるよ? 一人も二人も変わんなくない?」

「ぐッ、そ、それは!」

 それこそ自分だけじゃない。

 なんならおまえもだろ!?

 男が言い返そうとするが、女は待たなかった。


「まして、あんたは個人的に恨みがあるし」

 ギルティ! と首を切るジェスチャーをしながら、血の付いた腕を見せる。

 ポーションで折れた鼻は治っているし痛みもないが、蹴られた事実が消えることはない。


「て、テメェ・・・ッ!」


 ガン!

 何か言おうとしていた男が口を閉じた。


 顔面に、サソリのハサミが裏拳でキマっている。

 奇しくも、さっき女を蹴った、その場所だ。


 鼻を潰され、歯も数本折れたようだ。

 意識も飛んだのだろう。

 床に崩れ落ちる。


「ハッ、ざまぁ!」

 心の底からの侮蔑が贈られた。


「じゃーねー! サソリのエサさん!」

 サソリがカシャカシャ音を立てて男の元へ歩み寄るのを見て、女は背を向けた。



読了・評価。ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ