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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第76話 最前線攻略者たち⑤ ~足が滑った不運のせい~

2/3

 


「チクショウ! あの女、いつの間にか消えやがった!」


 ムカデに追われながら、リーダーが歯ぎしりする。

 ふと後ろを見たとき、人数が一人足りなかった。

 悲鳴もなかった。

 つまり――逃げられた。


「なんで声かけてくんないかなぁ!?」


 すぐ前を走っていた女性メンバーが、恨み言を吐く。

 肩を叩いてくれれば、一緒に逃げられたのに。

 今ごろ、あの女は安全な場所で息を整えているのだろう。

 そう思えば、悔しさも募る。


「やってられるか!」


 一人の男が、怒鳴り声とともに横道へ飛び込んだ。

 誰も止めない。

 止められない。

 自分が生き残ることで精一杯だった。


 ただ一人、最後尾の女子だけが、彼のあとを追った。

 理由は、誰にもわからない。


 ムカデに追われるのは、残り四人。

 全員が、心の中で同じことを考え始めていた。


 ――いつ、誰が『囮』になるか。


 ムカデは、巨体に似合わぬ速度で迫ってくる。

 息が切れる。

 足がもつれる。

 スタミナの限界は、確実に近づいていた。


「クソ・・・よろしくやりやがって」


 リーダーが、ちらりと仲間を見る。

 男ばかりの四人。

 誰も、誰かを守るような顔はしていない。

 むしろ、誰を犠牲にするかを探っている目だった。


 ――潮時だ。


「ガシッ!」


「うあっ?!」


 肩を掴まれた。

 サブリーダーが、にこりと笑って顔を寄せてくる。


「まさか、リーダーがトンズラなんて、ないよなぁ?」


「も、もちろんだ! あたりまえだろ!」


「だよなぁ?」


「ソウダトモ!」


 白々しい笑顔の応酬。

 その裏で、互いの腹の中は真っ黒だった。


「おおっと! いけねぇ、足が滑りやがったぁ!」


 三人目が、わざとらしく叫びながら、四人目の足元を蹴り払う。

 明らかに狙った動き。

 だが――


「そいつは、大変だ!」


 四人目は蹴りをかわし、逆に三人目の肩を引き寄せた。


「なっ・・・!?」


 バランスを崩した三人目が、よろめいて倒れる。

 床に手をつく間もなく、背中から落ちた。


「足が滑った不運を、恨みな!」


 四人目が吐き捨て、走り出そうとした――その瞬間。


「させるかぁッ!!」


 三人目の手が、四人目のズボンを掴んだ。


 ビダン!


 布が引き裂ける音とともに、四人目が前のめりに倒れる。


「わりぃな・・・足が滑った不運のせいなんだよ、なァッ!」


 三人目が笑った、その刹那。


 ズシャアッ!!


 ムカデの脚が、二人の上を通過した。

 百の脚が、容赦なく頭蓋を踏み砕く。


 骨が砕ける音。

 肉が潰れる音。

 血が、床に飛び散る。


 あとに残ったのは、ボロ雑巾のような『二人』。

 混ざり合い、どちらがどちらかもわからない。


 仲良く並んで。

 もう、二度と動かない。


 ◇


「ああ・・・やっちまったな」

「足の引っ張り合いは、よくない。ほんと、よくないよ」


 残った二人が、互いに苦笑しながら頭を振る。

 だが、目は笑っていない。

 どちらも、相手を出し抜いて生き残ることしか考えていない。

 そして、どちらもそれを理解している。


 言葉の裏にある本音を探りながら、走る。

 長距離走のように、息を切らしながら。

 互いの足音に耳を澄ませながら。


「こ、このままじゃ埒が明かねぇ。どうだ? 一発勝負、恨みっこなしでいこうぜ」


「どうするってんだ?」


「左右に分かれる横道があるだろ? そこで『いっせーのせ』で分かれる。ムカデがどっちを追うかは運次第だ」


「運か・・・まあ、体力切れるよりマシか」


「だろ?」


 二人は頷き合う。

 どちらかが生き残れる。

 それだけで、十分だった。

 もちろん、どちらも『自分こそが』生き残ると信じていた。


 そして、運命の分かれ道が現れる。


「よし、ここだ!」


「・・・あばよ!」


 合図とともに、二人は左右へ――


 すっころんだ。


「なっ・・・!?」


 足に、ロープが絡みついている。

 互いに、相手の足を狙ってボーラを投げていたのだ。

 運試しではなかった。

 確実に、相手を潰すための罠だった。


「てめぇ! 裏切りやがって!」


「お前もだろうが!」


 地面に倒れ込みながら、怒鳴り合う。

 だが、もう遅い。


 ズシャアッ!!


 ムカデの脚が、容赦なく迫る。

 甲殻が軋む音。

 空気が震える。

 そして――


「ぐッ・・・! ヴハッ・・・!」


 叫びは、途中で途切れた。

 肉が裂ける音。

 骨が砕ける音。

 二人の体が、バラバラに分かれていく。


 相手と。

 自分の手足と。

 そして、存在の輪郭と。


 舞台の照明が、彼らを外していく。

 もう、彼らは『役者』ではない。

 ただの、終わった『演目』だった。


 ◇


 ウィンドウ越しに舞台を見下ろしていたカルマが、腹を抱えて笑った。

 声を殺すことも忘れて、喉を震わせ、肩を揺らし、涙がこぼれるほどに。


 だが――目は、乾いたままだった。


「・・・いい喜劇だった」


 言葉の端に、まだ笑いの余韻が残っている。

 だが、そこに温度はない。

 ただ、演出家としての満足があるだけ。


「でも、悲劇も欲しいな」


 笑いだけでは、舞台は完成しない。

 涙がなければ、観客の心は動かない。

 別れがなければ、出逢いの意味も薄れる。


「出逢いと笑いだけじゃ、スパイスが足りないんだよね」


 その呟きに、ふと、別の声が重なった。


「あ。ラブロマンスは・・・ありですか?」


 それは『誰か』の声だった。

『妖怪』たちの中の、かつて『人間』だった誰か。

 あるいは、カルマ自身の心の奥底から漏れた、忘れかけた感情の残響。


「悪くないな」

 カルマは頷いた。


「愛もまた、命を燃やすにはちょうどいい」


 ラブロマンス案――採用。


「ふむ。じゃあ、みんなで『よさそうな子』を探してくれる?」


 誰が、どんな子を選ぶのか。

 それは、きっと面白い。


『妖怪』たちは顔を見合わせた。

 誰も言葉を発しない。

 ただ、沈黙の中で、何かが揺れていた。


 冷たい指が、静かに、しかし迷いなく動いていく。

 その動きは、まるで楽譜をなぞる指揮者のように正確で、冷酷だった。


 そのたびに、誰かの目が、ほんのわずかに揺れた。

 まるで――かつての名前を、ふと、思い出したかのように。



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